Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 冀求】

《第4週 木曜日 夜》②

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只でさえ疲れとストレスで耐性が落ちているせいで即座にカチンときた。持っていたバッグを地べたに置く。
「確かに狡い人だけど、そういう意味での狡さはないよ。先生のこと、何も教えていないのに、何も知らないのに悪く言わないでほしい。悪いけど、送るのは此処までにするから先に行って」
「あの、ごめんなさい、待って」
慌てておれの手を握ったつばさの手を振り払う。
「いやです、おれ、フジカワさんのこと…」
「つばさとは体の相性いいと思う。けど、おれはそう思ってない。本気になられたら困るのは客だって同じだよ」
自分でも引くくらい、先生が絡むと只でさえ思慮の浅い自分がひどく冷徹になれることを、おれは改めて自覚した。
「先に帰らないなら、おれが先に行く」
涙目になって震えておれを見つめるつばさを置いて、おれは再び走った。
せっかくジムで二度浴びて、ホテルでも浴びたのにまた汗をかいた。帰るなり玄関に全て放り出してシャワーを浴び直し、そのまま居室に入ってベッドにひっくり返って不貞寝して、次に目を覚ましたら日付は変わっていた。
あれだけたっぷり寝たのに疲れが取れていない状態で走ってジムに行って、そこで余計なストレスを負って、それを払拭しようと風俗遊びに手を出したら更に余計なストレスを負って、走って帰った。
本当に散々だし、疲れは倍増した気さえする。全身が怠くて重い。特に大腿部にきている、正直痛みに近い怠さだ。おまけになんだかひどく足先が冷たい。こういうときは熱が出ていることが多い。でも悪寒はないからそんなに高い熱ではないだろう。
シャワー浴びて全裸で布団に入らず寝てたらそりゃあいくらだいぶ暖かくなってきたからと言っても風邪くらいひくだろう。でもそんなんで休んだら単純にストレスに弱くて自己管理が出来ないダメ人間でしかない。
重い体を引きずるようにして起き上がって、昼間脱いだ部屋着を拾って着てから玄関に服や荷物を取りに行く。居室まで持ってきて、中身を出してジムで使ったものを洗濯機にセットしてから戻って、再び荷物を見て気がついた。
「…スマホない…」
まずい、どこだ。ホテルの部屋に忘れた?そういやホテルで店に予約入れた後、スマホどうしたっけ。ダメだ、混乱と疲れでぐちゃぐちゃだったし、細かいことは何も覚えていない。
ホテルや店の情報はパソコンで調べられるけど、うちは固定電話契約していない。公衆電話あるところ探してかけないといけない。だったらいっそ直接取りに行ったほうが早い。でも、もうそんな余力はない。やったら本格的に熱を出す気がする。
念の為、流行ってる感染症にも適用できるらしいのでアセトアミノフェンがメインの市販の風邪薬を飲んで、もう一度熱めのシャワーを浴びて十分暖まってから、冬用の部屋着を着て、掛けるものを増やして布団に入った。
スマートフォンのアラームがないので目が覚めないと大変なことになるからカーテンは開けて、部屋は照明を全部落として寝た。
翌朝、夜明けとともに目が覚めた。大腿部の痛みに近い怠さも無くなっているのを確認して、仕事に行く服装に着替えて始発で五反田のホテルに向かう。しかし、部屋にそのような忘れ物はなかったと言われてしまった。
肩を落として駅に戻り、公衆電話からメモしてきた店の電話番号にかけてみるがつながらない。そりゃそうだ、営業時間は9時~0時なんだから。今はまだ5時台だ。
一旦戻って、テレビで時間を確認しながら軽く朝食を済ませて、改めて始業時間に合わせて職場に向かう。家を出る前に職場周辺の公衆電話を検索しておいたので、そこでもう一度かけてみることにした。
…まさか職場内に設置された公衆電話から風俗店にかけるわけにはいかない。
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