Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 潜伏】

《第4週 木曜日 朝》①

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小林さんがドライヤーをかける音で目が覚めた。サイドテーブルに埋め込まれている「昭和のデジタル」な時計の緑色の時刻表示を見ると7時を回っている。ドライヤーを一旦止めて、小林さんが挨拶した。
「おはようございます、眠ってらしたので先にシャワーお借りしました。できるだけバスルーム内の床は拭いてあります。朝ごはん如何しますか?」
「うん…おはよ…とりあえず、痣とか傷隠すは処置しなきゃな…飯は…食欲ないけど、食べないと絶対もたないから食えそうなものがあれば食べる…」
フラフラしながら、ライティングデスクの上の私物を漁る。仕事先で直す用に最低限持ち歩いていたカバー用の化粧品やシールが入ったポーチを出してまたベッドに戻った。折りたたみの小さい鏡で顔や首周りを見ながら塗ったり、腕の傷にシールを貼ったりする。見えづらいところや自分で貼りにくいところは小林さんに頼んでやってもらった。
その途中でスマートフォンの通知を示すLEDが光った気がしたので、片付けてからまたベッドに戻って手にとり、ロックを解除してみる。通知の欄を確認すると大変なことになっていた。長谷からのメッセージまみれだ。
「朝早くにすみません!」
「ずっと連絡できなくてごめんなさい!」
「事件現場での撮影係の仕事やっと目処がついて開放されました!」
「実際終わったのは昨日夜です、帰ってきたら日付変わってました」
「泊まってるホテルどちらですか、まだ教えてもらってないです」
「災害支援で遠征っていつまでですか?小曽川さんに聞きました」
「先生、もしかして怒ってますか」
「ごめんなさい…」
「現場に私用端末持ち込んじゃ駄目なのにうっかり持ってきちゃって没収されてしまって…」
時系列で読んでいくと、具にどういう状態だったのかがわかる内容で、思わず吹き出した。驚いた顔で小林さんがこちらを見ていたが、堪えきれずニヤニヤしてしまう。
やっと訓練から開放された大型犬の子犬が千切れそうなほど尻尾をブンブン振り回しながら飼い主の居場所目指して走ってきたはいいものの、既にそこにはいないことに気づいて、しかも怒って自分を置いて遠くに行っちゃったと思って、めちゃくちゃに凹んでキュンキュン蹲って鳴いている様が脳内で再生される。
こみ上げてくる可笑しさが一段落したところで、返信を開始する。
「おはよう長谷。土砂災害があったとこがこの分野の人材が不足しているということで緒方先生の指示で派遣されました。」
「決まったのが昨日の午後で夜には入りだったので周知は小林さんはこういった現場の経験がないので実習・指導と安全確保のための付添も兼ねてます。捜索終了まで滞在することになると思います。」
「別に怒ってないよ、お疲れ様。おれのことは気にしなくていいから、連勤した分ちゃんと代休取って休んでまた仕事頑張れ。」
「あと、失礼なことかもしれないけど教えてほしい。長谷はお父さんが亡くなったとき、お母さんがいなくなったとき、ちゃんと素直に悲しいって気持ちになれた?受け入れられた?」
「おれは正直、まだ、直人さんのことは只々悔しくて、感情の整理がついていないです。こういうときは誰彼構わず抱かれて耽溺してやり過ごしてきたけど、今回は全然駄目。」
「…他の人と寝ました、朝から嫌な気持ちにさせてごめん。」
「怒るのは当たり前だと思う。こういうことが今後も起きないという保証はできないし、嫌だったら同棲はヤメになっても仕方ないと思ってる。」
「でも、今本当はすごくお前の顔が見たい、声が聞きたい」
入力していくうちに視界が歪んで、自分の目から涙が溢れそうになっていることに気がついた。
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