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【2020/05 復元】
《第4週 火曜日 夜》② (★)
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凌遅刑、というものが嘗てあった。生きたまま肉を少しずつ削ぎ落とし、苦痛を与えて死に至らしめる処刑方法だ。同様の刑罰は有史以前から中国で存在した。「体を切り刻まれて塩漬けにされる刑罰を受けた」との記述が『史記』「孔子世家」にある。
おそらく、その凌遅刑のようなことをされ、手首足首を落とされて、切り口に殺菌のためグラニュ糖を塗した上で縛り上げ止血し、更には発見されるまで酸欠や脱水で死なないよう念入りに処置した上で箱詰めにした状態で負傷者は見つかった。
しかも、それが同時多発的に、複数。それも監視カメラがこれほど普及しているにも拘わらず、その隙間を突いてカメラの死角、或いはカメラがない空白地帯に置かれていた。ご丁寧に、切り落とした手足はまた別途包装した上で本体とは別な場所に置かれていた。
勿論、そこに辿り着くまでの状況や運んだ人物は順を追って周囲の監視カメラの画像を解析すればわからなくもないだろう、でも、解析している間、確実に時間を食った。うちは管制の報告を受けて管轄内の捜索に入ったのでその中でも出遅れたほうだと思う。
他の署では実行犯や遺棄した人間も徐々に見つかりつつあって、その何れもが、自分は征谷直人の組織の傘下の者だと宣言して憚らなかったことから本店の4課も動いた。
しかも征谷直人の組織は、その組織全体が巨大だ。しかも現在は海外に重要拠点がある。外国人の構成員もいて、パイプがある。港湾関係にもツテがあるはずだ。飛ばれる可能性がある。散り散りに逃げられたら収集がつかなくなる。
そして表向きの慈善事業や人材派遣事業で身寄りのない人間を大量に握っている。捕まった人間が傘下の者だと名乗っていても、一概に実際に組織の人間なのかという判断ができない。組織内の人間が関係や指示した事実を認めなければそこまでになってしまう。
傘下の団体の事務所やフロント企業になっているところにも順次探りは行っているが、どこも通常営業で、中にいる人間は誰も知らないと、傘下の組事務所ですら押し問答になっている状態だ。幾重にも最初から、有事の対策をしていたとしか思えない。
単純に、ビジネスマンとして、指揮官として、策士として、征谷直人という人物はかなりの遣り手だったことがそれだけでも伺えた。ビジネスパートナーであり、内縁の妻であり、征谷直人が遣えていた先代の娘である、安斎由美子は何処まで知っていたのか。
彼女は医大で遺体を引き取り、空いている斎場で荼毘に付し遺骨を受け取ったのち、湾岸署にて聴取を受けているはずだ。しかしまだこれといった情報は入ってこない。入ってきたのは、征谷宅にて住み込んで家政婦をしていた井田ゆかという女性についてだった。
十代の頃に安斎の経営する芸能事務所に当時住んでいた郊外の住宅地から応募書類や宣材を送ってきて、即採用が決まった。ところが、学校の編入や住居の準備のため事務所に呼ばれ、現れたとき彼女は家族の同意が取れなかったと辞退を申し出たという。
そもそも彼女の家には、保護者と言える人間が居なかった。14歳未満、中学生であれば保護の対象にもなっただろう。でも彼女は既に17歳、本来であれば大学受験を控えている年齢だった。そして、彼女の家には遺体があった。
彼女は、生活の綱であった年金や公的扶助が途絶えるのを恐れ、亡くなった祖母の死亡を届け出ていなかった。これによりその後3年を少年院で過ごし、その間に安斎由美子が手続きを踏んで里子として迎え入れ、出所する際にも身元を引き受けた。
そのまま征谷宅に住みはじめ、安斎由美子と征谷直人を主として遣えるようになったという経緯があった。単純に家の事を淡々とこなすのみで、彼女は組織については何も知らず、徳永文鷹と藤川玲の所在について心配を口にするばかりだったという。
おそらく、その凌遅刑のようなことをされ、手首足首を落とされて、切り口に殺菌のためグラニュ糖を塗した上で縛り上げ止血し、更には発見されるまで酸欠や脱水で死なないよう念入りに処置した上で箱詰めにした状態で負傷者は見つかった。
しかも、それが同時多発的に、複数。それも監視カメラがこれほど普及しているにも拘わらず、その隙間を突いてカメラの死角、或いはカメラがない空白地帯に置かれていた。ご丁寧に、切り落とした手足はまた別途包装した上で本体とは別な場所に置かれていた。
勿論、そこに辿り着くまでの状況や運んだ人物は順を追って周囲の監視カメラの画像を解析すればわからなくもないだろう、でも、解析している間、確実に時間を食った。うちは管制の報告を受けて管轄内の捜索に入ったのでその中でも出遅れたほうだと思う。
他の署では実行犯や遺棄した人間も徐々に見つかりつつあって、その何れもが、自分は征谷直人の組織の傘下の者だと宣言して憚らなかったことから本店の4課も動いた。
しかも征谷直人の組織は、その組織全体が巨大だ。しかも現在は海外に重要拠点がある。外国人の構成員もいて、パイプがある。港湾関係にもツテがあるはずだ。飛ばれる可能性がある。散り散りに逃げられたら収集がつかなくなる。
そして表向きの慈善事業や人材派遣事業で身寄りのない人間を大量に握っている。捕まった人間が傘下の者だと名乗っていても、一概に実際に組織の人間なのかという判断ができない。組織内の人間が関係や指示した事実を認めなければそこまでになってしまう。
傘下の団体の事務所やフロント企業になっているところにも順次探りは行っているが、どこも通常営業で、中にいる人間は誰も知らないと、傘下の組事務所ですら押し問答になっている状態だ。幾重にも最初から、有事の対策をしていたとしか思えない。
単純に、ビジネスマンとして、指揮官として、策士として、征谷直人という人物はかなりの遣り手だったことがそれだけでも伺えた。ビジネスパートナーであり、内縁の妻であり、征谷直人が遣えていた先代の娘である、安斎由美子は何処まで知っていたのか。
彼女は医大で遺体を引き取り、空いている斎場で荼毘に付し遺骨を受け取ったのち、湾岸署にて聴取を受けているはずだ。しかしまだこれといった情報は入ってこない。入ってきたのは、征谷宅にて住み込んで家政婦をしていた井田ゆかという女性についてだった。
十代の頃に安斎の経営する芸能事務所に当時住んでいた郊外の住宅地から応募書類や宣材を送ってきて、即採用が決まった。ところが、学校の編入や住居の準備のため事務所に呼ばれ、現れたとき彼女は家族の同意が取れなかったと辞退を申し出たという。
そもそも彼女の家には、保護者と言える人間が居なかった。14歳未満、中学生であれば保護の対象にもなっただろう。でも彼女は既に17歳、本来であれば大学受験を控えている年齢だった。そして、彼女の家には遺体があった。
彼女は、生活の綱であった年金や公的扶助が途絶えるのを恐れ、亡くなった祖母の死亡を届け出ていなかった。これによりその後3年を少年院で過ごし、その間に安斎由美子が手続きを踏んで里子として迎え入れ、出所する際にも身元を引き受けた。
そのまま征谷宅に住みはじめ、安斎由美子と征谷直人を主として遣えるようになったという経緯があった。単純に家の事を淡々とこなすのみで、彼女は組織については何も知らず、徳永文鷹と藤川玲の所在について心配を口にするばかりだったという。
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