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【2020/05 復元】
《第4週 火曜日 日中》(★)
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トーク画面をおれがメッセージを送る前に遡っていくと、InstagramやらTik Tokなど、いろんなSNSのアカウントのリンクが連続で貼り付けてあった。現代っ子だなあ。写真用にひっそりやってるInstagramしかアカウント持ってないおれとは大違いだ。
SNS自体殆どやっていないしアプリも入れていないので、優明がアカウント登録しているSNS各種のアプリを取り急ぎダウンロードして、適当に登録して取り急ぎ見れるようにする。そうこうしているうちにチャイムが鳴って、清掃やリネン交換のため従業員の人が来た。
ビニール袋に小分けにして口を縛った上で輪ゴムで留めた状態で氷も持ってきてくれた。やってもらっている間、首に氷が入った袋を当てながらアマゾンで取り寄せていたゼリー飲料の箱を開け、封を切って啜りながら清掃したりリネン交換してくれているのを見ていた。
僅かな時間できれいに片付けて掃除して整えて帰っていくのを見送ってから、もう一度ゼリー飲料の残りで消炎鎮痛解熱剤を追加で飲んで、ベッドに戻って送られてきていたSNSアカウントの写真や動画を見た。そのひとつひとつが幸せに満ちていた。
プロポーズされた日のレストランでの写真、きれいな色のドリンクやカラフルなスイーツ、仕事で企画した商品が大々的にディスプレイされた展示会の写真、友達やその子供と思われる小さい子と踊っている動画、絵を描いている南の後ろ姿、おれが贈ったケーキの前で微笑んでいる誕生日。
よかった。人に説明し難い出自があって、そのことで何も嫌な思いをしなかったということはなかっただろう。それでも、小曽川の家で優明は可愛がられて、守られて育って、周囲にも愛されて、望む仕事に就けて、ともに家庭を持ちたいと思える人が見つかったのだ。
おれのやってきたことはとてもじゃないが優明に言えない。だからこそ距離をおいていた。でも、それによって得た資金が今に繋がったのであれば、おれはそれでいい。安堵したら、また眠気が襲ってきて、おれはスマートフォンを枕元に置いて、布団に深く潜って目を閉じた。
眠っている間に夢を見た。
あの頃住んでいた団地の部屋だ。お父さんが居ない日中、お母さんは時折ひとりで部屋で勉強したり遊んでいるおれの様子を見に来る。そこまではいつもどおりだった。でも、その先が違った。
これまで、どう頑張ってもお母さんの顔は乱雑に油性ペンで塗りつぶすようにして掻き消されたようになっていて、見ることができなかった。
おれを抱きしめる柔らかな感触も、いい匂いも、おっとりした話し方をする優しい声も夢の中とは思えないほどわかるのに、顔だけが見えなかった。それが、今日は見えている。
微笑んでいるけど、でもなんか違う。これはさっき見た動画での優明の顔だ。
そう思った次の瞬間、微妙に違う、別の顔に変わった。優明ともちょっと似てるけど、これが本当のお母さんの顔なのかな。手を伸ばして、その頬に触れる。
すると更に次の瞬間、また顔が変わって、今度は目を爛々とさせ口角を釣り上げた恐ろしい形相の顔になった。
最初出てきた優明の顔と、その次の、おそらくお母さんと思われる顔と、この顔、目鼻立ちやそれぞれのパーツは似ているのに、全くの別人だということはわかった。
どうしよう、逃げないと。茶の間を抜けて廊下に出た。玄関に逃げる途中、お父さんの部屋の向かいにある浴室の扉が開いているのに気づいて目をやった。そこに、人の足が見えた。
半歩戻って、浴室の中を覗くと、そこに女の人が血に塗れて倒れていて、腹部から何かが出て僅かに動いていた。浴室の床のタイルには夥しい量の血が流れ、ところどころ血溜まりができていた。
女の人の上には、真っ白い百合の花が何本も散らばって、浴室の中は日差しがいっぱいに入って流れ出ている血と百合の芳香で噎せ返るほどの匂いに満ちていて、吐き気に襲われた。蛙みたいに内臓が裏返って出そうだった。
SNS自体殆どやっていないしアプリも入れていないので、優明がアカウント登録しているSNS各種のアプリを取り急ぎダウンロードして、適当に登録して取り急ぎ見れるようにする。そうこうしているうちにチャイムが鳴って、清掃やリネン交換のため従業員の人が来た。
ビニール袋に小分けにして口を縛った上で輪ゴムで留めた状態で氷も持ってきてくれた。やってもらっている間、首に氷が入った袋を当てながらアマゾンで取り寄せていたゼリー飲料の箱を開け、封を切って啜りながら清掃したりリネン交換してくれているのを見ていた。
僅かな時間できれいに片付けて掃除して整えて帰っていくのを見送ってから、もう一度ゼリー飲料の残りで消炎鎮痛解熱剤を追加で飲んで、ベッドに戻って送られてきていたSNSアカウントの写真や動画を見た。そのひとつひとつが幸せに満ちていた。
プロポーズされた日のレストランでの写真、きれいな色のドリンクやカラフルなスイーツ、仕事で企画した商品が大々的にディスプレイされた展示会の写真、友達やその子供と思われる小さい子と踊っている動画、絵を描いている南の後ろ姿、おれが贈ったケーキの前で微笑んでいる誕生日。
よかった。人に説明し難い出自があって、そのことで何も嫌な思いをしなかったということはなかっただろう。それでも、小曽川の家で優明は可愛がられて、守られて育って、周囲にも愛されて、望む仕事に就けて、ともに家庭を持ちたいと思える人が見つかったのだ。
おれのやってきたことはとてもじゃないが優明に言えない。だからこそ距離をおいていた。でも、それによって得た資金が今に繋がったのであれば、おれはそれでいい。安堵したら、また眠気が襲ってきて、おれはスマートフォンを枕元に置いて、布団に深く潜って目を閉じた。
眠っている間に夢を見た。
あの頃住んでいた団地の部屋だ。お父さんが居ない日中、お母さんは時折ひとりで部屋で勉強したり遊んでいるおれの様子を見に来る。そこまではいつもどおりだった。でも、その先が違った。
これまで、どう頑張ってもお母さんの顔は乱雑に油性ペンで塗りつぶすようにして掻き消されたようになっていて、見ることができなかった。
おれを抱きしめる柔らかな感触も、いい匂いも、おっとりした話し方をする優しい声も夢の中とは思えないほどわかるのに、顔だけが見えなかった。それが、今日は見えている。
微笑んでいるけど、でもなんか違う。これはさっき見た動画での優明の顔だ。
そう思った次の瞬間、微妙に違う、別の顔に変わった。優明ともちょっと似てるけど、これが本当のお母さんの顔なのかな。手を伸ばして、その頬に触れる。
すると更に次の瞬間、また顔が変わって、今度は目を爛々とさせ口角を釣り上げた恐ろしい形相の顔になった。
最初出てきた優明の顔と、その次の、おそらくお母さんと思われる顔と、この顔、目鼻立ちやそれぞれのパーツは似ているのに、全くの別人だということはわかった。
どうしよう、逃げないと。茶の間を抜けて廊下に出た。玄関に逃げる途中、お父さんの部屋の向かいにある浴室の扉が開いているのに気づいて目をやった。そこに、人の足が見えた。
半歩戻って、浴室の中を覗くと、そこに女の人が血に塗れて倒れていて、腹部から何かが出て僅かに動いていた。浴室の床のタイルには夥しい量の血が流れ、ところどころ血溜まりができていた。
女の人の上には、真っ白い百合の花が何本も散らばって、浴室の中は日差しがいっぱいに入って流れ出ている血と百合の芳香で噎せ返るほどの匂いに満ちていて、吐き気に襲われた。蛙みたいに内臓が裏返って出そうだった。
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