Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 秘匿】

《第4週 月曜日 夜》⑥

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ベッドスプレッドを足の指で掴んで身を反らし、全身の筋肉を一斉に緊張させて、堪えきれず声を上げながら疼いていた腹の奥から込み上げるものを射出させる。それを感じ取った玲が拘束されていない方の脚でおれの体を引き寄せ、細い声で鳴いて体を震わせた。
脱力して玲の上に凭れ掛かると、同じように脱力して脚を緩めた玲が荒い息を吐きながら呟いて、縛られたままの手で拳を作っておれの頭を力なくポコンと叩いた。
「何がデートだよクソ…んなことしたいって誰が言ったよ…バッカじゃねえの…そもそもこんな非常時に何呑気に抱きに来てんだよ、バーカ」
「うるせえよ、一回くらい付き合ってくれたっていいだろ今更減るもんじゃなし」
顔を涙に濡らしたまま減らず口を叩く玲の頬を両手で挟んで鼻先にキスすると、玲は頬をぷくっと膨らませてむくれて見せたあと、いきなりおれの顔を顎先から瞼までべろっと舐めあげた。しかも一遍じゃなく、制する間もなくご丁寧に左から右から中央と舐められた。
「ちょ…何すんだよ、犬じゃあるまいし」
「はは、オヤジの犬には丁度いいだろ」
いつもの態度に戻った玲は涙で灼けた目の縁や頬を軽く手の甲で拭ってニヤリと笑った。
「風呂、病院出てってから入れてないだろ…身を清めてから行きな」
オヤジの前でそうしていたように、顎をしゃくっておれに言う。おれはオヤジの犬であってお前の犬じゃねえ、って何度言ったかな。何遍言っても全然聞きゃしない。本当にこのクソアマときたら。
「まだ終わりじゃねえよ、オヤジにしてたみたいに風呂場で続きもサービスしてくれよ」
腕で体を押し上げて起き上がって、玲の拘束を解く。ネクタイやベルトの食い込んだ痕がついて凹んでいるところを擦ってやると、照れたような顔でおれを見た。
「なんだよ」
「や、なんでも」
起き上がって、おれの手を引いて立ち上がった玲の手を引いて抱き寄せて頭を撫でると、胸元からおれを見上げて玲が言った。
「ふみは、これ全部終わっても、自分のお父さんが帰ってきたら、やっぱりヤクザ続けんの?」
「さあ、どうだか。おれの親はおれがヤクザやってるって多分知らねえし。由美子さんか直人さんが持ってる会社でカタギとして働いてると思ってるだろうし」
不思議そうな顔で素朴に「なんで?」と訊いてくる顔は、まるで子供みたいだ。
性悪女みたいな顔と振る舞いや、快楽と苦痛に乱れている姿ばかり見てきたから、こいつが時々急に見せるこういう素の表情を見ると、なんでこんな形で出会ってしまったのかと思う。
あと、大学でモノ教えてるとことか、バリバリ解剖してるとことか、医者として診療しているとことか、経営者として仕事しているところが正直全然想像ができない。
風呂場に向かう後ろ姿を見ても、その華奢で体力のなさそうな頼りない体で今までオヤジの無茶苦茶な欲求に応えてきたことも、何度も見てきたはずなのに妙に現実味がない。
さっきおれに暴行されていたことさえ、おれがしたことなのに、悪い夢だったんじゃないかとさえ思う。浴槽に湯を貯めながら、ニコニコして手招きしておれを呼んでいる。
縁を跨いで浴槽に入って玲に向かい合う形で腰を下ろす。お高いホテルのまあまあ広い浴槽でも、ラブホテルみたいな大きさではないから野郎二人で入ると結構狭い。
できるだけ余裕を作ろうと膝を立てて脚を開いていると、その脚の間に玲に入り込んできて、おれの肩に手を回して抱きついて、そのまま凭れてきた。
「ふみは、俺のことどう思ってんの?」
耳元で小さな声で誂うように悪戯っぽく囁く。
「なんて言ってほしいんだよ、わかってて言ってるだろお前」
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