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【2020/05 速度と密度】
《第3週 金曜日 夜中》⑥
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やがて、通路の向こうから先生が戻ってきた。口に歯ブラシを突っ込んだまま、手にはおれの分の歯磨きセットを持っている。歯ブラシには既に先生が自分では使わないごく普通のミント風味のペーストをつけてある。
「ついでにやらないと忘れるから持ってきちゃった」
足元に、玄関の手洗い場においてあるペーパータオルを捨ててるゴミ箱を置いて先生はソファに腰掛けた。歯ブラシを有り難く受け取って、ソファに並んで座ったまま、合間に話しながら歯を磨く。
「先生、今日おれがお母さんと会ってたこと怒ってないんですか?」
「ん?別に?」
「じゃあ、何話したとかきにならないんですか?」
「いいよ、どうせおれのこと訊きに来たんでしょ?寧ろ何訊きたかったの、調べるのやめる気ないんだったらいっそもう直接おれに訊けばいいじゃん。てか、いくら同棲する予定とはいえ本人抜きで親に会うとか心臓強すぎない?」
あ、聞こうと思ったこと…そうだ、そういえば…。
「もしかして、態々行ったのに訊くの忘れた?」
おれの方を向いて、顔を覗き込んでくる。正直に「忘れてた…」と呟くと、先生は口の中にあった泡を一旦ゴミ箱に吐き出して笑いながら咳き込んだ。
「めっちゃ無駄足じゃん、ごはん食べに行っただけになっちゃってるでしょそれ」
「いや、でも勉強になるお話も聞けたし、先生にも会えたし、今日はこれでいいです…」
先生は一旦ソファを離れて、キッチンへ向かい数枚のキッチンペーパーとメラミンのカップに水を汲んで持ってきた。ゴミ箱にキッチンペーパーを落として、口に水を含んで軽く洗いで吐き出した。
「そんなんだと仕事ぶりが心配になっちゃうな」
再びおれの傍らに腰を下ろして、おれが磨き終わるのを待つ。同じように口をすすぐと、少し水の残ったコップに逆さに歯ブラシを突っ込んでゴミ箱と持って通路に出て一緒に片付けて戻ってくる。
戻ってきた先生が「じゃあ、続きしようか」と立ったままおれに手を差し出して微笑んだ。その手をとって寝室に向かう。ベッドに腰を下ろすと、先生がその前で跪いた。おれのバスローブの帯を解く。
「なんか先生、今日甘えるより自分が攻めたい感じじゃないですか?」
おれは先生の部屋着のオーバーシルエットのTシャツを脱がしながら訊く。
「ん?さっきもなんか引いてたけど、そういうのダメ?」
「いやぁ…ダメじゃないんですけど…さっきみたいに上になられるのは怖いかもしれないです」
そういえば、今までそういうこと正直に伝えたことってなかったな。そりゃ相手は仕事で抱いたり抱かれたりしてるんだからそんなあからさまな欲望とかじゃないから、当然か。先生のさっきの目は本気の目だったもんな。
「わかった、気をつける」
おれを膝に手を添えて前傾姿勢になって近づいた先生の身体から発酵しかかった林檎のような匂いが立ち上る。首筋に唇を、舌を這わせ、片手でバスローブの前身頃を剥ぐ。袖から腕を引き抜いて先生の頭を撫でた。
少しずつ下へ滑らせ胸元の突起を軽く含んで舌先や歯で擽り、甘く吸われ、身を震わせて声を漏らすともう片方も指先を立てて擽ってくる。リビングでつけっぱなしになっているテレビの明かりで僅かに見える目を伏せて愛撫する先生の目元が悩ましい。
先生の指先は少しずつおれの脇腹から腹斜筋のあたりを下り始め、そのまま再び内腿をなぞってから膝上に置かれた。唇が胸の上を離れ、舌先で腹筋を確かめるようになぞって徐々に下腹部に近づき、息づいて鎌首を擡げるそれを、先生の唇が捉えた。
「ついでにやらないと忘れるから持ってきちゃった」
足元に、玄関の手洗い場においてあるペーパータオルを捨ててるゴミ箱を置いて先生はソファに腰掛けた。歯ブラシを有り難く受け取って、ソファに並んで座ったまま、合間に話しながら歯を磨く。
「先生、今日おれがお母さんと会ってたこと怒ってないんですか?」
「ん?別に?」
「じゃあ、何話したとかきにならないんですか?」
「いいよ、どうせおれのこと訊きに来たんでしょ?寧ろ何訊きたかったの、調べるのやめる気ないんだったらいっそもう直接おれに訊けばいいじゃん。てか、いくら同棲する予定とはいえ本人抜きで親に会うとか心臓強すぎない?」
あ、聞こうと思ったこと…そうだ、そういえば…。
「もしかして、態々行ったのに訊くの忘れた?」
おれの方を向いて、顔を覗き込んでくる。正直に「忘れてた…」と呟くと、先生は口の中にあった泡を一旦ゴミ箱に吐き出して笑いながら咳き込んだ。
「めっちゃ無駄足じゃん、ごはん食べに行っただけになっちゃってるでしょそれ」
「いや、でも勉強になるお話も聞けたし、先生にも会えたし、今日はこれでいいです…」
先生は一旦ソファを離れて、キッチンへ向かい数枚のキッチンペーパーとメラミンのカップに水を汲んで持ってきた。ゴミ箱にキッチンペーパーを落として、口に水を含んで軽く洗いで吐き出した。
「そんなんだと仕事ぶりが心配になっちゃうな」
再びおれの傍らに腰を下ろして、おれが磨き終わるのを待つ。同じように口をすすぐと、少し水の残ったコップに逆さに歯ブラシを突っ込んでゴミ箱と持って通路に出て一緒に片付けて戻ってくる。
戻ってきた先生が「じゃあ、続きしようか」と立ったままおれに手を差し出して微笑んだ。その手をとって寝室に向かう。ベッドに腰を下ろすと、先生がその前で跪いた。おれのバスローブの帯を解く。
「なんか先生、今日甘えるより自分が攻めたい感じじゃないですか?」
おれは先生の部屋着のオーバーシルエットのTシャツを脱がしながら訊く。
「ん?さっきもなんか引いてたけど、そういうのダメ?」
「いやぁ…ダメじゃないんですけど…さっきみたいに上になられるのは怖いかもしれないです」
そういえば、今までそういうこと正直に伝えたことってなかったな。そりゃ相手は仕事で抱いたり抱かれたりしてるんだからそんなあからさまな欲望とかじゃないから、当然か。先生のさっきの目は本気の目だったもんな。
「わかった、気をつける」
おれを膝に手を添えて前傾姿勢になって近づいた先生の身体から発酵しかかった林檎のような匂いが立ち上る。首筋に唇を、舌を這わせ、片手でバスローブの前身頃を剥ぐ。袖から腕を引き抜いて先生の頭を撫でた。
少しずつ下へ滑らせ胸元の突起を軽く含んで舌先や歯で擽り、甘く吸われ、身を震わせて声を漏らすともう片方も指先を立てて擽ってくる。リビングでつけっぱなしになっているテレビの明かりで僅かに見える目を伏せて愛撫する先生の目元が悩ましい。
先生の指先は少しずつおれの脇腹から腹斜筋のあたりを下り始め、そのまま再び内腿をなぞってから膝上に置かれた。唇が胸の上を離れ、舌先で腹筋を確かめるようになぞって徐々に下腹部に近づき、息づいて鎌首を擡げるそれを、先生の唇が捉えた。
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