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【2020/05 野火】
《第3週 金曜日 夜》⑥
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「あの、これ、どうやって作るんですか…」
これは、スーパーに売ってる昔からあるゼリーのもとに温めた炭酸水を入れて作るらしい。作り方は昔その製品の箱に書いてあったのを切り取っておいたのだという。
「多分今ならメーカーのウェブサイトにも載ってるんじゃない?作り方。どう、おいしい?」
「おいしいです、あとで調べてみます」
妙にポヨンとした感触のゼリーが口の中でシュワシュワするのを楽しんでいると、キッチンの方で鳴っていたラジオの音が小さくなって、着信音が鳴った。
「メールかな?」
席を立って確認しに行っている間、おれは特にそれを気にせず暢気にゼリーを食べていた。そして、確認して戻って来る頃には食べ終えていた。
戻ってきた先生のお母さんは再び話を始める。
「玲さんを引き取った背景をもうちょっと話すと、英一郎さんは今で言うアセクシャルアロマンティックでね。だからわたしたち夫婦は恋愛感情ではなく、同じ志を持つ仲間として、仕事のために一緒になった。うちが玲さんの養育を任されたのもそれなら転移しないだろうという前提でだったんだけど、アキくんの欲求は容赦がなかった。だからそこにハルくんが来たことは、ある意味ラッキーと言うかと言うか、有り難いことではあったの。それが咎めなかったもう一つの理由」
なるほどなあ、親御さん的にはそれなりに考えた上でそうしてたってことか。でも、先生自身はどうなんだろう。
「先生が、そういうことに耽溺するのって、やっぱり、実のお父さんが恋しいからなんでしょうか。大石先生は、言語化できない感情を強制的に遮断するため性行為に逃げてるって部分もあるんじゃないかと思ってる、って言ってました」
「そっか。うーん、どうだろうね。それは流石に本人に聞いてみないとわからないかなあ…そういうことって、長谷くん、アキくんとしたの?」
しまった。墓穴を掘った…正直に言うしかない…。
「…し、しました…大石先生から、おれのこと、他に何か聞いてますか?」
「ううん、別に。アキくんのところに来てる警察の人が話聞きたいって言ってるけど連絡先教えちゃってもいい?ってかるーく言われて。こんなことの後だし、しょうがないなと思ってOKしただけ」
よくそれで、おれから連絡が来た時落ち着いていられたなあ。肝が据わっていらっしゃる。
「なんで、おれが先生を見つけた警官の子だって知ってたんですか」
「高輪署の長谷くんっていうから、てっきりあなたのお父さんのことかと思ったの最初。でも声が若いし、確か亡くなって、玲さんお葬式行ったよな…って。だからもしかして息子さん?って訊いたの」
「なんだぁ、知ってたわけではないんですね…」
でも、おかげで知ることが出来たからいいか…。
脱力して背を丸めていると、インターホンのチャイムが鳴った。
先生のお母さんが席を立ち、確認ボタンを押すと、モニターにエントランスのカメラが捉えた人影が映る。遠目にしか見えないが男性のようだ。特に何も言わず立っている。
エントランスにあった詰所は宿直の人を残して退勤しているのか明かりは点いているがカーテンが閉まっているようだ。
インターホンのモニターの横のロック解除のボタンを押すと、エレベーターホールのロックが解除されてその人物は中に入った。
「誰かいらっしゃるんですか?おれ、このまま此処に居ていいんですかね」
おそるおそる声をかけると、振り返って先生のお母さんはこともなげに言った。
「いいんじゃない?噂をすれば何とやらよ」
「…え?」
取り付く島も無く、先生のお母さんは扉を開けて通路を抜けて玄関へと向かう。
施錠を解除したスライドドアの向こうから風が入ってきて、聞き覚えのある声がした。
これは、スーパーに売ってる昔からあるゼリーのもとに温めた炭酸水を入れて作るらしい。作り方は昔その製品の箱に書いてあったのを切り取っておいたのだという。
「多分今ならメーカーのウェブサイトにも載ってるんじゃない?作り方。どう、おいしい?」
「おいしいです、あとで調べてみます」
妙にポヨンとした感触のゼリーが口の中でシュワシュワするのを楽しんでいると、キッチンの方で鳴っていたラジオの音が小さくなって、着信音が鳴った。
「メールかな?」
席を立って確認しに行っている間、おれは特にそれを気にせず暢気にゼリーを食べていた。そして、確認して戻って来る頃には食べ終えていた。
戻ってきた先生のお母さんは再び話を始める。
「玲さんを引き取った背景をもうちょっと話すと、英一郎さんは今で言うアセクシャルアロマンティックでね。だからわたしたち夫婦は恋愛感情ではなく、同じ志を持つ仲間として、仕事のために一緒になった。うちが玲さんの養育を任されたのもそれなら転移しないだろうという前提でだったんだけど、アキくんの欲求は容赦がなかった。だからそこにハルくんが来たことは、ある意味ラッキーと言うかと言うか、有り難いことではあったの。それが咎めなかったもう一つの理由」
なるほどなあ、親御さん的にはそれなりに考えた上でそうしてたってことか。でも、先生自身はどうなんだろう。
「先生が、そういうことに耽溺するのって、やっぱり、実のお父さんが恋しいからなんでしょうか。大石先生は、言語化できない感情を強制的に遮断するため性行為に逃げてるって部分もあるんじゃないかと思ってる、って言ってました」
「そっか。うーん、どうだろうね。それは流石に本人に聞いてみないとわからないかなあ…そういうことって、長谷くん、アキくんとしたの?」
しまった。墓穴を掘った…正直に言うしかない…。
「…し、しました…大石先生から、おれのこと、他に何か聞いてますか?」
「ううん、別に。アキくんのところに来てる警察の人が話聞きたいって言ってるけど連絡先教えちゃってもいい?ってかるーく言われて。こんなことの後だし、しょうがないなと思ってOKしただけ」
よくそれで、おれから連絡が来た時落ち着いていられたなあ。肝が据わっていらっしゃる。
「なんで、おれが先生を見つけた警官の子だって知ってたんですか」
「高輪署の長谷くんっていうから、てっきりあなたのお父さんのことかと思ったの最初。でも声が若いし、確か亡くなって、玲さんお葬式行ったよな…って。だからもしかして息子さん?って訊いたの」
「なんだぁ、知ってたわけではないんですね…」
でも、おかげで知ることが出来たからいいか…。
脱力して背を丸めていると、インターホンのチャイムが鳴った。
先生のお母さんが席を立ち、確認ボタンを押すと、モニターにエントランスのカメラが捉えた人影が映る。遠目にしか見えないが男性のようだ。特に何も言わず立っている。
エントランスにあった詰所は宿直の人を残して退勤しているのか明かりは点いているがカーテンが閉まっているようだ。
インターホンのモニターの横のロック解除のボタンを押すと、エレベーターホールのロックが解除されてその人物は中に入った。
「誰かいらっしゃるんですか?おれ、このまま此処に居ていいんですかね」
おそるおそる声をかけると、振り返って先生のお母さんはこともなげに言った。
「いいんじゃない?噂をすれば何とやらよ」
「…え?」
取り付く島も無く、先生のお母さんは扉を開けて通路を抜けて玄関へと向かう。
施錠を解除したスライドドアの向こうから風が入ってきて、聞き覚えのある声がした。
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