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【2020/05 野火】
《第3週 金曜日 昼》②
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「あ、はい、あの、え…?」
いきなり言われて、混乱した。うちの父親が、先生を?
「もしかして、知らない?」
「え、今ちょうど、事件に関する資料読ませてもらってたんですけど…何処か書いてるのかな…」
食べていたものをこぼさないように一旦避けて、ファイルを開いて探していると、その人は笑って「まあ、後でゆっくり確認したらいいじゃない」と言った。
そして、大石先生からは週末午後できるだけ早く会いたいと言っていたと聞いてたので、よかったら今日晩御飯でもご相伴にいらっしゃいと誘ってくれた。
「感染症のアレで、面会禁止かもって言われてたんですけど、大丈夫ですかね」
「うちはサービス付き高齢者住宅の一般型って言って、基本的には住人が高齢者だけの賃貸住宅なの。スタッフも常駐なわけじゃないし、対策してきてくれる分には問題ないから。念の為マスクして、手洗い消毒はしっかりやってもらえればいいかな」
声は柔らかいが、案外さばけた物言いをする。なんとなく、先生に似ている感じがするように思えた。
「ねえ、長谷くんは何か好きな食べ物ってある?普段は一人分だし作り甲斐がないの。いい機会だしお題出して」
「え!そんな!おれなんでもいただきますよ」
なんかそうやって人を試そうとするとこもなんか似てる気がする…ステップファミリーとはいえ、一緒に住んでた期間は長くないとはいえ、やっぱり一緒に暮らしてると似るのか。
「やだぁ、なんでもいいが一番困るんだってば~!なんかない?」
そう言われても、食べてる途中だったこともあって腹ペコでもないので、具体的に何か食べたいという欲求が湧きづらい。普段、そんなに家で食べないし、仕事ある日は外食とか食堂で食べたりするからそういうとこで食べてるもの以外がいい。
「ん~…じゃあ、夜ですし、糖質カロリー控えめでそこそこ食べでのあるおかずとなんか炊き込んだり味がついたご飯と具沢山の汁物がいいです…」
「…具体的な品名で言わないあたり、なかなか長谷くん勝負に出るね…わかった考えとくね」
手元でメモしているのか、ペン先が紙の上を滑る音がする。
「長谷くんはお酒は飲むの?」
「いえ、おれは飲まないです、飲めないってことはないんですけど…」
あんな事があると、酒というものがつくづく怖い。只でさえ結構公私の切り替えというかオンオフが激しい世界で、集まりがある度にその恐ろしさを余計に身に沁みて知っているので、自ら飲もうと思わなくなってしまった。
「アレルギーは?」
「特にないです、ちょっと春先花粉症っぽくはなるんですけど、ひどくはないです…あの、質問いいですか」
結構矢継ぎ早に話しかけられていたので、一旦声をかける。
「先生…玲さんとは、よくお会いになるんですか」
「病院で時々会うくらいかな。でもあの子やっぱり無意識に警戒してるのか、引け目があるのか、来たり来なかったりするし、メンタルも不安定だから連絡取れなくなることもあるし、まちまち。こないだ珍しくお外でデートしたけど、そのときは安定してて楽しかったな」
あ、そうか、あの日だ。
先生追いかけて路上で捕まえた日、初めて先生を抱いた日。
思い出して、それまで冷や汗をかきっぱなしだったのに、急激に体温が上がる。
「そうそう、あのね、そのとき、初めて手をつないでくれたのよ」
え、初めて?反応に困っていると、先生のお母さんは本当に嬉しそうに言った。
「長い道のりだったわ、目も合わせてくれなかったのが手をつないで歩いてくれるようになるなんて、ほんと夢みたいだった…あの瞬間、英一郎さんにも見せたかった」
いきなり言われて、混乱した。うちの父親が、先生を?
「もしかして、知らない?」
「え、今ちょうど、事件に関する資料読ませてもらってたんですけど…何処か書いてるのかな…」
食べていたものをこぼさないように一旦避けて、ファイルを開いて探していると、その人は笑って「まあ、後でゆっくり確認したらいいじゃない」と言った。
そして、大石先生からは週末午後できるだけ早く会いたいと言っていたと聞いてたので、よかったら今日晩御飯でもご相伴にいらっしゃいと誘ってくれた。
「感染症のアレで、面会禁止かもって言われてたんですけど、大丈夫ですかね」
「うちはサービス付き高齢者住宅の一般型って言って、基本的には住人が高齢者だけの賃貸住宅なの。スタッフも常駐なわけじゃないし、対策してきてくれる分には問題ないから。念の為マスクして、手洗い消毒はしっかりやってもらえればいいかな」
声は柔らかいが、案外さばけた物言いをする。なんとなく、先生に似ている感じがするように思えた。
「ねえ、長谷くんは何か好きな食べ物ってある?普段は一人分だし作り甲斐がないの。いい機会だしお題出して」
「え!そんな!おれなんでもいただきますよ」
なんかそうやって人を試そうとするとこもなんか似てる気がする…ステップファミリーとはいえ、一緒に住んでた期間は長くないとはいえ、やっぱり一緒に暮らしてると似るのか。
「やだぁ、なんでもいいが一番困るんだってば~!なんかない?」
そう言われても、食べてる途中だったこともあって腹ペコでもないので、具体的に何か食べたいという欲求が湧きづらい。普段、そんなに家で食べないし、仕事ある日は外食とか食堂で食べたりするからそういうとこで食べてるもの以外がいい。
「ん~…じゃあ、夜ですし、糖質カロリー控えめでそこそこ食べでのあるおかずとなんか炊き込んだり味がついたご飯と具沢山の汁物がいいです…」
「…具体的な品名で言わないあたり、なかなか長谷くん勝負に出るね…わかった考えとくね」
手元でメモしているのか、ペン先が紙の上を滑る音がする。
「長谷くんはお酒は飲むの?」
「いえ、おれは飲まないです、飲めないってことはないんですけど…」
あんな事があると、酒というものがつくづく怖い。只でさえ結構公私の切り替えというかオンオフが激しい世界で、集まりがある度にその恐ろしさを余計に身に沁みて知っているので、自ら飲もうと思わなくなってしまった。
「アレルギーは?」
「特にないです、ちょっと春先花粉症っぽくはなるんですけど、ひどくはないです…あの、質問いいですか」
結構矢継ぎ早に話しかけられていたので、一旦声をかける。
「先生…玲さんとは、よくお会いになるんですか」
「病院で時々会うくらいかな。でもあの子やっぱり無意識に警戒してるのか、引け目があるのか、来たり来なかったりするし、メンタルも不安定だから連絡取れなくなることもあるし、まちまち。こないだ珍しくお外でデートしたけど、そのときは安定してて楽しかったな」
あ、そうか、あの日だ。
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思い出して、それまで冷や汗をかきっぱなしだったのに、急激に体温が上がる。
「そうそう、あのね、そのとき、初めて手をつないでくれたのよ」
え、初めて?反応に困っていると、先生のお母さんは本当に嬉しそうに言った。
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