Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
上 下
240 / 447
【2020/05 野火】

《第3週 金曜日 昼》①

しおりを挟む
正午にはまだなっていなかったがシフト外で出勤したおれに飯野さんが「適当に飯行ってきていいぞ」と声をかけてくれたので、お言葉に甘えて署の斜め前のマンションにあるスーパーに弁当を買いに出た。
おそらく、ファイルの内容を見たらおれがショックを受けることは想定してたんじゃないかと思う。
さすが高級住宅地だけあって、全体的に惣菜やお弁当の質が見るからに高い。勿論その分割高感はあるけど、品ぞろえが良い。有名店のお寿司やクリスピークリームドーナツまで売っている。なんかすごい。
楽しんでウロウロしていたら結構な時間が潰れてしまった。でも、いい気分転換にはなった。
会議室に戻って、スマートフォンでSNSを流し見しながらひとり黙々と食べていると、大石先生からメッセージが来た。
「お疲れ様、起きました。アキくんのお母さんに連絡先教えといたけどよかった?」
いきなりすぎる。しかも事後承諾。アポとってあげてもいいよって言ってたから、大石先生から約束取り付けてくれるのかと思っていた。
「いいですよ。けど、向こうから連絡きた時判別できないので、おれにもあちらの連絡先教えて下さい」
返信すると間もなく折り返し、住んでいる施設の情報、部屋番号、電話番号とメールアドレスが送られてきた。名前は、藤川さくら。登記にあったのと同じ名前だ。
「感染症の対応で施設のハウスルールがどうなってるかとかわかんないし、直接連絡取り合ってみて。」
そこの確認もおれに丸投げ。思わず吹き出してしまった。安請け合いしといて結局それって。突っ込みたかったけど教えてもらえただけでも有り難いと思って堪えた。
「ありがとうございます。連絡してみますね。」
一先ず礼を伝えると「うん、じゃあ出勤するからまたね」と返ってきた。週末は泊まり込みとは聞いてたけど、こんな早くから行くものなのか。
いや、医療福祉系は夜勤こなせてこそ食い扶持になるっていうし、別に泊まりがある仕事自体は珍しくはないんだけど、今から行って、一体いつまで勤務なんだろう。前に芝公園で会ったとき月曜昼過ぎで、明けだって言ってた。
泊まり込みで尚且つ明けも残業が発生すると思うってのも、自分の仕事だって本来は1勤務24時間からの明けて午後上がり、休みがあって日勤や夕勤があって、また24時間とかだし、あるあるなんだけど。酔ってる上ボロボロだった気がする。
警察もポジションによっては泊まり込みが数日続くとか1週間以上休みがないとか、休み返上になることだってある。もしかして、救急救命も似たような状態だったりするんだろうか。
毎週末泊まり込みで連勤、明けて翌日一日休んで授業があって、指導があって、また翌日午後から週末いっぱい泊まり込み、という流れだとしたら、なかなかに過酷だ。
取り急ぎ教えて貰った連絡先を電話帳に登録した。そして、おそるおそる、電話番号をタップして架電してみる。
1分半ほど呼び出し音が鳴り、反応がないので切ろうとした時、通話用スピーカーから柔らかいながら聞き取りやすい声で「はい、藤川です」と聞こえてきた。
そして、おれが名乗る前に問いかけてくる。
「長谷くんで間違いないですか?」
「あ、はい、そうです。はじめまして…あの、なんか突然すみません…」
何から話していいのかわからず恐縮しきっているおれに、その人は言った。
「アキくんを発見したおまわりさんの息子さん、でしょ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...