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【2020/05 道連れ】
《第3週 木曜日 深夜》⑤
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「おれや、おれの客がもし消されたら話が大きくなる。その上でどっか飛んだり、その前におれの客にどっか飛ばれたら、警察の面子が潰れるし、できれば早く抑え込ませたい。そのためにも仕事は一旦全部捨てます。あと、引越して暫く隠れておきたいんで、その手配も頼みたいんですよ。ちょっとした夜逃げ的な作業ですね」
ベッドの上で仰向けに寝転んで、腹式で大きく息を吸って吐いた。
「てかな、なんでおまえがそこまでする必要があるん」
おれの顔を上から先輩が覗いている。
「恩義があるんですよ。長い付き合いだし、それなりに。…先輩と同じですよ。関係はどうあれ、おれのこと言い値で買ってくれて、我儘聞いて甘やかしてくれて、気持ちの面で救ってもらった部分があるんです」
「言わずもがな、どうせその人も歳上なんやろ?ファザコンの根ぇが深すぎるんよ」
笑って言うと、顔を近づけて額や頬に口づけた。さっきまで吸っていた煙草の匂いがする。
「まあ、そうなんですけどね。でも、遺留品なり骨片の1つでも出てくれりゃ諦めも付くんですけど、一切ないんで諦めがつかないですよ、やっぱり」
「30年以上も一切出てこないってあるんや…遺棄した経緯とか場所については供述あったはずやんな」
仕事場置いとくやつだからやらんと言ったのに、先輩はお菓子のファミリーパックを取り出して袋を開ける。中の個包装を破って、2つ入っているうちの1つをおれの口元に差し出した。
「勿論それはあったんですが、その地点や周囲から物証は見つからなかったんです。殺害した現場にも。…てか、おれが食事積極的に摂らなくなったのも、事件が背景にあるんですけど、それは知ってます?」
口を開けてその小さなパイを受け取る。飴がけになった部分がパリパリしてておいしい。この商品、よく考えたらおれが小さい頃からずっとある。自分に関する記憶が消えてもそういうことは忘れてなかったんだよなあ。
「うん、それは、まあ…死にかかって、そんときの影響で体あちこち悪いって話もしとったし」
「それもあるんですけど、それだけじゃないんです。これも、報道こそされなかった部分なんですけど、おれは母親の遺体を、知らずとはいえ食してしまったんで、その時のことが過ぎっちゃうんですよ。食事をする度に」
一瞬、こちらを見る先輩の表情が固くなった。
「でも、別に、栄養補給に使うサプリメントや薬の類だって植物由来なり動物性のものだってあるし、何れにせよ呼吸するだけでも微生物殺したりしているわけやし、気にしだしたらキリがないやろ」
「ええ、まあ、理屈はわかってるんですけどね。今も肉類はどうやっても無理です。だけど、今のお母さんが作ってくれたごはんとか、その、お客というかパトロンの自宅とか、ハルくんや先輩と居るときはある程度食べられたし、吐き戻すことも減ってそんなにひどくなかった。分け与え合ったり交換したりもできて、楽しかったな」
改まって、眼鏡を外してサイドテーブルに置き、おれの顔の傍らすぐに手をついて、顔を寄せる。
「なあ、今生の別れみたいな言い方すなよ」
「いや、でも今回しくったら、実際おれ消されるかもしれないじゃないですか。でも、おれはそれでもいいんです。遺産の分与も今のうち全部決めておきたいって言ったのは、そういう、なんかあったときのためでもあるんですよ。先輩、もし、本当に今回の件に絡んでおれが死んだらどうします?」
寂しそうに笑って先輩は言った。
「そらあ泣くよ。信じるかどうかわからんけど、おれはおれで愛してるんよ。多分声あげてワンワン泣くし、他の仕事ほってでも殺ったやつ潰したる」
「そっか…それはおまかせします、でもほんと、なんかあったらうちの母のこととか、遺産のことお願いしますね」
その眼に少しずつ、涙が溜まっていくのが見えた。
「アホぬかせ、絶対死なせへん」
ベッドの上で仰向けに寝転んで、腹式で大きく息を吸って吐いた。
「てかな、なんでおまえがそこまでする必要があるん」
おれの顔を上から先輩が覗いている。
「恩義があるんですよ。長い付き合いだし、それなりに。…先輩と同じですよ。関係はどうあれ、おれのこと言い値で買ってくれて、我儘聞いて甘やかしてくれて、気持ちの面で救ってもらった部分があるんです」
「言わずもがな、どうせその人も歳上なんやろ?ファザコンの根ぇが深すぎるんよ」
笑って言うと、顔を近づけて額や頬に口づけた。さっきまで吸っていた煙草の匂いがする。
「まあ、そうなんですけどね。でも、遺留品なり骨片の1つでも出てくれりゃ諦めも付くんですけど、一切ないんで諦めがつかないですよ、やっぱり」
「30年以上も一切出てこないってあるんや…遺棄した経緯とか場所については供述あったはずやんな」
仕事場置いとくやつだからやらんと言ったのに、先輩はお菓子のファミリーパックを取り出して袋を開ける。中の個包装を破って、2つ入っているうちの1つをおれの口元に差し出した。
「勿論それはあったんですが、その地点や周囲から物証は見つからなかったんです。殺害した現場にも。…てか、おれが食事積極的に摂らなくなったのも、事件が背景にあるんですけど、それは知ってます?」
口を開けてその小さなパイを受け取る。飴がけになった部分がパリパリしてておいしい。この商品、よく考えたらおれが小さい頃からずっとある。自分に関する記憶が消えてもそういうことは忘れてなかったんだよなあ。
「うん、それは、まあ…死にかかって、そんときの影響で体あちこち悪いって話もしとったし」
「それもあるんですけど、それだけじゃないんです。これも、報道こそされなかった部分なんですけど、おれは母親の遺体を、知らずとはいえ食してしまったんで、その時のことが過ぎっちゃうんですよ。食事をする度に」
一瞬、こちらを見る先輩の表情が固くなった。
「でも、別に、栄養補給に使うサプリメントや薬の類だって植物由来なり動物性のものだってあるし、何れにせよ呼吸するだけでも微生物殺したりしているわけやし、気にしだしたらキリがないやろ」
「ええ、まあ、理屈はわかってるんですけどね。今も肉類はどうやっても無理です。だけど、今のお母さんが作ってくれたごはんとか、その、お客というかパトロンの自宅とか、ハルくんや先輩と居るときはある程度食べられたし、吐き戻すことも減ってそんなにひどくなかった。分け与え合ったり交換したりもできて、楽しかったな」
改まって、眼鏡を外してサイドテーブルに置き、おれの顔の傍らすぐに手をついて、顔を寄せる。
「なあ、今生の別れみたいな言い方すなよ」
「いや、でも今回しくったら、実際おれ消されるかもしれないじゃないですか。でも、おれはそれでもいいんです。遺産の分与も今のうち全部決めておきたいって言ったのは、そういう、なんかあったときのためでもあるんですよ。先輩、もし、本当に今回の件に絡んでおれが死んだらどうします?」
寂しそうに笑って先輩は言った。
「そらあ泣くよ。信じるかどうかわからんけど、おれはおれで愛してるんよ。多分声あげてワンワン泣くし、他の仕事ほってでも殺ったやつ潰したる」
「そっか…それはおまかせします、でもほんと、なんかあったらうちの母のこととか、遺産のことお願いしますね」
その眼に少しずつ、涙が溜まっていくのが見えた。
「アホぬかせ、絶対死なせへん」
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