Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 道連れ】

《第3週 木曜日 夜》⑦ (*)

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そして、それ今も何も変わってはいない。
おれは誰かに罰されて、許されて、誰かに憐れまれて、慰められたい。
でも、その誰かがおれのことをどう思っているのか、真意はどうだっていい。
おれが利用したいぶんだけ、おれのことも利用してくれて構わない。
おれはもう誰かが思いを捧げてくれても、何も返せるものはないから。
好きだとか嫌いだとか、そんなこと、おれにはジャッジする資格はない。
もう思い出してはいけない。もう知りたくない。もう味わいたくない。
誰かに自分を好きになってほしい、おれを選んでほしいなどと願う気持ちは。
それでも、こうやって同じ顔で見つめて、同じ声で子供の頃のように呼びかけられて、願望のままに触れられたら、作り上げた今の自分なんてひとたまりもなくなる。
「…おとうさん、こわして…」
「何を?」
「ぜんぶ、なにもいらないからつれてって」
「何処に?」
「どこだっていいよ、もうつかれたよ…」
困った顔で何度も啄むように口づけながら、その唇は「そうかぁ、でも、そらできひんよ」と囁いた。
逃れられぬよう肩に手を回し、速度と勢いを上げて脈打つように奥に突き当てられ、過敏な膨らみと奥の襞を中から重みと熱を帯びたものに押し開きながら擦り上げられて、それに合わせて腹の奥の疼く感覚も強くなっていく。
体を重ねて、その一部を奥に引き入れて、これ以上無いほどに密接に触れているのに、それでももっと欲しくて、舌を絡めて、脚を絡めて、引き寄せて腰を振る。自分の涙より、滴る汗で髪の毛が湿って冷えるのを感じる。
粘膜と体液でぬめる音と、獣のような荒い息遣いと、喘ぎ。それにときどき混じる譫言のような遣り取りが静まり返る室内に漂う。やがて身を震わせて達し、脱力しても、先輩は動きを止めない。
必死にしがみついて「おとうさん、すき」と泣くおれを何も言わずきつく抱き寄せて、達するまで、体内ではりつめたそれが膨張伸縮を繰り返しながら体液を注ぎ込んで果てるまで続ける。おれが繰り返し達し気を失おうが構わずに。
だからいつも気がつくと事は終わって先輩は眠っていて、妙に落ち着いた気持ちで目を覚ましたおれは、全て洗い流しにバスルームに向かう。戻ってきても概ね先輩は眠っている。
おれは先輩の顔をできるだけ見ないように、背を向けて布団の中に深く潜って上掛けの端をまるめて抱え込むように抱きついて、顔を埋めて眠る。
続けて眠れる時間はせいぜい3時間とか4時間。それなのにこんなことをして疲れ切っていても、その間何を夢見るかわからない不安が押し寄せる。
もう大丈夫。次に目が覚めたらいつもの「今の自分」だ。
そう念じ、言い聞かせて眠る。
先輩には、先輩に出ないと頼めない、話さなければならないことがある。
今回連絡をとったのはそのためであって、こんなことのためじゃない。
でも、あの顔で、あの声で、名前を呼ばれたら揺らいでしまう。
だから、連絡をするのは正直怖かった。
しかもこんなタイミングで、こんなときだからこそだけど、再び、先輩の背後に勝手に父の面影を追って、溺れてしまう気がしていた。
好きになってほしいわけでもない、家庭を捨てておれを選んでほしいなどと願う気持ちは一切ないのに。

『思い出って嫉妬ぶかいものよ。これから思い出したりなんかすると、たちまち過去が復讐しにやってくるんだわ。』
(引用:ジオノ・飛ばなかった男 寺山修司ドラマシナリオ集 筑摩書房)
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