Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
上 下
212 / 447
【2020/05 道連れ】

《第3週 木曜日 夜》④

しおりを挟む
「不安でしんどくて、誰かに甘えたくて来たんと違うの。そういうことしたがるときって、だいたいそういうことやろ」
「それはまあ、ありますけど」
以前より更に窶れたであろうおれの体を、骨の感触を確かめるように触る。肩口や頬に口づけて笑いながら、耳元に息がかかるように、声の振動が伝わるように、いつもより低く囁く。
「ほらぁ、そういうとこ。あかんで、そんなやさかい悪い人に目ぇつけられるんよ」
「でも、だからこそ、悪い先輩に頼ってんじゃないですか」
顔を先輩の顔のある方に向けると、おれの体から下りた。寝返りを打って仰向けになると、再びおれの上に乗って、今度は見下ろしておれの両手首を掴む。そのまま頭上に押さえつけた。
「ふふ、役得や。弁護士なっておいてよかったわ」
顔に顔が近づき、唇と唇が軽く触れる。下唇を甘咬みすると先輩の舌が生き物のように這い出しておれの口を割り乱暴に掻き回すように蠢いた。歯の裏の付け根や隙間から上顎の際、舌下や舌の脇を生暖かいものを纏ったものが漁る。
甘んじてそれを受け容れていくうち、腹の上で昂ぶった先輩のものが再び息づいて重みと硬さ、熱を増していくのを感じて、自分自身の欲情も再び引き出され、手繰り寄せられていく。それとともに、普段は忘れているはずの失くした記憶も、その頃願望や抱いていた感情も引きずり出されて、心が掻き乱されていく。
先輩はおれの腕を拘束していた手を緩め、頬に添えて溢れ出るものを拭った。身を起こし、上からおれを憐憫と慈悲の入り混じった表情で見下ろして、先輩がおれを呼ぶ。骨ばった手には金色の縁がついた結婚指輪が光っている。その手がそっと伸びて乱れた髪の毛を梳くように撫でた。
そうやって嘗て、おれの親もおれのことを撫でて愛でていたことは、時折ポツポツと思い出すことはあった。だけど、どうやってもハッキリと顔が思い出せない。あとから仕入れた情報としての、概念的なものとしてしか認識ができない。
そういう大事なことを忘れ去った自分が憎いし、醜い欲望を抑えられなかった幼いあの頃の自分も憎い。失ったものの大きさと多さが苦しくて、寂しくて、悔しくて、何もかももう一度捨てて、忘れ去ってしまいたくなる。
すべてを忘れ去ってしまったときの、あの開放感、今ここにいる自分が体感で感じたことや、快と不快しかわからない、あの清々しくも野蛮な感覚を欲してしまう。
それを得たいがために、常に誰かを利用している。
「アキくん、誰もおらんで、なんでも言うてええんよ」
きわめてやさしく、小さな声で先輩が言う。
「だれにも、いわない?」
「今までも言うたことないやろ?」
包み込むように抱き寄せられて視界が塞がれる。ざらついた指先で胸元の薄紅色の突端を転がすようにして弄ばれると、下腹部の奥が疼き始めた。脚を絡めて強引に開かれて、熱帯びたものを重ねて押し当てられる。
「アキくんはどうしてほしい?云うてみ?」
「さっきみたく、何も考えられなくして」
おれがそう言うと、突端を転がしていた指がやさしくそこを抓み捏ねるように弄りはじめ、発情が抑えがたいものに変わっていく。体を震わせ、身を捩って甘い声を洩らすと、先輩は心底愛おしそうに何度もおれの頭を撫でた。
執拗に捏ね回され、耳元で何度も低く懐かしい声で「アキくん」と呼びかけられ、今現在の自分が曖昧になって、本当は誰にこうされたかったのかだけが浮き彫りになっていく。腕を伸ばし、背中に爪を立てて掻き抱き、縋り付いておれは泣いた。
「…おとうさん…」
うわ言のように呼ぶと、耳元で「ほんま、アキくんはかいらしなぁ」と呟いて、先輩は耳介を優しく噛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

甥の性奴隷に堕ちた叔父さま

月歌(ツキウタ)
BL
甥の性奴隷として叔父が色々される話

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

処理中です...