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【1988/05 Erwachen des Frühlings】
《第1週 土曜日》⑥
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《第1週 土曜日》⑥
一部が見つからない?一部とは?
「え、報道ではばらして流したとか、捨てて回収されたってことで一部見つかってるって話じゃなかったか?」
「いや、それはそれでそうなんだわ。実際それで一応の身元確認はできてる。けども、見つかってるのは遺髪の一部とか、血液だのの反応であって明確に肉体の損傷部位がどっか出てきたわけでない。見つかった骨片から想定される部位の筋肉の大半や臓器の一部がどうにも見つからないってよ…それも、おれが疑ってるとおりだとしたら、多分あの女が全部知ってる」
正直考えていることがよくわからない。わたしは1つの現象から先回りして様々なパターンを想定して考えるのはあまり得意ではない。自分の本来の専門や診療科目的には、事が起きてからの駆け込み訴えや問題解決の手助けの要望を請けることが多い。想定している内容をもっと具体的に把握しておかないと難しい。
「で、やはりうまくそこも引き出せってことか。段々荷が重くなってきたな。予想として、どういう答えを想定してるんだ?ぼかさなくていい、もっと具体的に話してほしい。策が立てられない」
思い切って言うと、小曽川は深く息をついた。
「わかった。それは言うとおりだわ。おれは、少なくともアキくんのお母さんば殺したのは伯母さん、つまり、アキくんの母親の姉だと思ってる。そこまでは話した」
「うん」
わたしは背後の複合機にセットされていたコピー用紙を給紙トレイから数枚取り出して、4色ボールペンを手にとった。一枚目の紙に黒のインクで簡単に相関図を書き起こし、色インクで仔細を書き込んでいく。もう一枚の紙には時系列でこれまで確認したアキくんに関する出来事を書いた。
「おれはアキくんの今抱えている問題はその先で起きたと思ってる。死亡したと思われる時期と、アキくんが発見されるまでの間、かなりの期間が開いてる。その間アキくんに何かあった。…あんまり口に出して言いたくない内容だども」
「それもなんとなくわかるよ。でも、言いたくないって、いったいどんな」
わたしが書き出す内容を見ながら、しばらく小曽川は黙っていた。一通り書き終わるのを待ってから、続きを話し始めた。
「おれは、殺した後、アキくんに食わせたんでねえかと思ってる。肉類を忌避している点とはそれで辻褄が合う。そんで、同じ時期、アキくんに何らかの性的虐待を加えたんでないかと思ってる」
「…根拠は」
聞いた瞬間、自分の手や顔から血の気が引くのを感じ、言葉に詰まった。確かに肉類を忌避する理由としては辻褄は合う。しかしその後のことは、何から推測したのか。
「あの女のことで最初相談してきたスタッフから妊娠していると聞いた。尋ねたら月齢が…少し経ってるから今なら8ヶ月位。そんで、アキくんが最後に登校したのと母親の死亡時期がほぼ合致で昨年7月頃。アキくんが見つかったのは11月の末。8ヶ月前はちょうどその中間だ」
「え、だって、夫由来の不妊だって」
冷たい感覚が背中にまで広がる。アキくんは思春期早発で、事件当時に生殖能力が既に十分あった。可能性としてはゼロではない。
「そう、それよ。夫由来の不妊だって前提を考えれば、じゃあ胎の子供は誰の子供だ?その時期その女は、どこに居て何をしてた?ってことになってくる」
「思春期早発のことを知ってて襲ったってことか、でも、だとしたらそれを知る手がかりはどこで誰から得たのかってことも気にならんか。アキくんの両親は養子に出す事断るにも明確に事情は言ってなかったはずでは」
「んだ。したから、おれは、行方不明のアキくんの父親のこともあの女が、養子もらうのを諦める代わり、何故養子に出せないのか聞き出した上で消したんでないかと思ってる」
一部が見つからない?一部とは?
「え、報道ではばらして流したとか、捨てて回収されたってことで一部見つかってるって話じゃなかったか?」
「いや、それはそれでそうなんだわ。実際それで一応の身元確認はできてる。けども、見つかってるのは遺髪の一部とか、血液だのの反応であって明確に肉体の損傷部位がどっか出てきたわけでない。見つかった骨片から想定される部位の筋肉の大半や臓器の一部がどうにも見つからないってよ…それも、おれが疑ってるとおりだとしたら、多分あの女が全部知ってる」
正直考えていることがよくわからない。わたしは1つの現象から先回りして様々なパターンを想定して考えるのはあまり得意ではない。自分の本来の専門や診療科目的には、事が起きてからの駆け込み訴えや問題解決の手助けの要望を請けることが多い。想定している内容をもっと具体的に把握しておかないと難しい。
「で、やはりうまくそこも引き出せってことか。段々荷が重くなってきたな。予想として、どういう答えを想定してるんだ?ぼかさなくていい、もっと具体的に話してほしい。策が立てられない」
思い切って言うと、小曽川は深く息をついた。
「わかった。それは言うとおりだわ。おれは、少なくともアキくんのお母さんば殺したのは伯母さん、つまり、アキくんの母親の姉だと思ってる。そこまでは話した」
「うん」
わたしは背後の複合機にセットされていたコピー用紙を給紙トレイから数枚取り出して、4色ボールペンを手にとった。一枚目の紙に黒のインクで簡単に相関図を書き起こし、色インクで仔細を書き込んでいく。もう一枚の紙には時系列でこれまで確認したアキくんに関する出来事を書いた。
「おれはアキくんの今抱えている問題はその先で起きたと思ってる。死亡したと思われる時期と、アキくんが発見されるまでの間、かなりの期間が開いてる。その間アキくんに何かあった。…あんまり口に出して言いたくない内容だども」
「それもなんとなくわかるよ。でも、言いたくないって、いったいどんな」
わたしが書き出す内容を見ながら、しばらく小曽川は黙っていた。一通り書き終わるのを待ってから、続きを話し始めた。
「おれは、殺した後、アキくんに食わせたんでねえかと思ってる。肉類を忌避している点とはそれで辻褄が合う。そんで、同じ時期、アキくんに何らかの性的虐待を加えたんでないかと思ってる」
「…根拠は」
聞いた瞬間、自分の手や顔から血の気が引くのを感じ、言葉に詰まった。確かに肉類を忌避する理由としては辻褄は合う。しかしその後のことは、何から推測したのか。
「あの女のことで最初相談してきたスタッフから妊娠していると聞いた。尋ねたら月齢が…少し経ってるから今なら8ヶ月位。そんで、アキくんが最後に登校したのと母親の死亡時期がほぼ合致で昨年7月頃。アキくんが見つかったのは11月の末。8ヶ月前はちょうどその中間だ」
「え、だって、夫由来の不妊だって」
冷たい感覚が背中にまで広がる。アキくんは思春期早発で、事件当時に生殖能力が既に十分あった。可能性としてはゼロではない。
「そう、それよ。夫由来の不妊だって前提を考えれば、じゃあ胎の子供は誰の子供だ?その時期その女は、どこに居て何をしてた?ってことになってくる」
「思春期早発のことを知ってて襲ったってことか、でも、だとしたらそれを知る手がかりはどこで誰から得たのかってことも気にならんか。アキくんの両親は養子に出す事断るにも明確に事情は言ってなかったはずでは」
「んだ。したから、おれは、行方不明のアキくんの父親のこともあの女が、養子もらうのを諦める代わり、何故養子に出せないのか聞き出した上で消したんでないかと思ってる」
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