Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 埋火】

《第3週 木曜日 午後》①

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敷地内には建物で待機するよう放送が流れている。おれは先生と小曽川さんにメッセージを送り、無事を確認した。飯野さんからは館内で先生や小曽川さんの警護にあたるよう指示が出たため、フロアの人員を先生も含め1フロア下にある空き教室に集約し、窓から離れた席で待機してもらう。
やがて管轄である愛宕警察署から刑事組織犯罪対策課と警備課の職員が臨場し、本庁や公安からも人が来た。報道各社も集まりだし、外が騒がしい。それに反して、藤川先生がいると学生さんは緊張するのか妙に室内は静かだった。
小曽川さん曰く、直接関わる機会が少ないレアキャラな上に、属性も特殊、しかもこの状況なのに肩書のある先生が平然とノイズキャンセリングイヤホンを着けて黙々と仕事しているのは、否が応でも緊張感は高まるでしょ、とのこと。まあそれもそうだ。
「ところで素朴に疑問だったんですけどお、長谷くんって、此処に通っている間も手錠とか拳銃とか警棒とかそういう装備ってしているものなんですか?」
「まあ、はい、一応は」
おれはシャツの上に着ているベストをそっと引っ張って、こっそり中を見せた。
「うわ、やば。なんか、暗器使いみたい」
「いや、おれみたいなガタイ良くて明らかに代謝の良いやつが態々重ね着してるの暑そうだなとか思わなかったですか?」
小曽川さんに言うと「うーん、言われてみれば、とは思いますけどねえ」とすっかり感心し切っていた。
飯野さんからは明日の朝は署に来るよう指示が入ったため、了解の旨返信した。先生に伝えるためそっと近づいて目の前にしゃがむ。先生はイヤホンを外してこちらに顔を向けた
「どうした?」
「どうしたじゃないですよ、発砲事件程度じゃ動じないんだなあって思って」
そう言うと先生はちょっと不服そうにそんなことはないと否定する。そして、おれに顔を近づけて小さい声で耳打ちした。
「長谷、おれちょっと連絡取りたい人が居て此処を出たいんだけどダメかな」
「階段室とかトイレくらいならいいですよ、窓から見えるとこじゃないですし」
それを聞くと先生はスマートフォンを手に廊下に出て行った。そして更に、それを見た小曽川さんが何も言わず先生の後を追って少し間を開けて出ていってしまった。
廊下に顔を出して様子を見ると、先生は階段室へ、そして小曽川さんは階段室の扉の傍で様子を伺っている。何やらただならぬ雰囲気がそこにはあった。

階段室でメッセージ画面を開き、ふみにメッセージを送るが返信が来ない。何かない限りこちらから連絡するなとは言われていたが、あったから連絡しているのに、あの野郎。
そう思っているとユカちゃんが由美子さんの代わりに連絡を寄越した。
「ご無事で何よりです。奥様は仕事があるので逆に下手にあちらも迂闊には狙えないので無事です。わたしは奥様と行動をともにしています。直人さんには文鷹さんが警護についています。ご無事ですが所在はお伝えできません。」
おれには、一つ懸念があった。どうしてもそれを確認しておきたかった。
「直人さん、おれが最初に出会った頃はいかついのいっぱい連れてたじゃないですか。会う度そういう人らが送迎にイカニモな黒塗りのクルマで乗り付けて、高級ホテルで落ち合ってた。でもだんだん直人さんの家で普通に会うようになって、4人家族でひっそり暮らしてるとこにおれがお邪魔するような感じになったよね。あのときの人達はどうしたんです?」
「デートの方法が変わったのは直人さんの心境の変化だとは思います。そもそも私は奥様に拾われてハウスキーパーになっただけの身の上なので、あまり組のことはよくわからないです。お力になれず申し訳ありません。」
うーん、それもそうか。
「文鷹さんの部下が水面下で今回の件に探りを入れています。そのうち報告が上がるかと思うのでおまちください。おそらくは、文鷹さんのお父様の出所のタイミングに合わせて謀反を考えている一派があるのではないかと。」
なんだよ、十分知ってるんじゃん。
ほんと食えない子だなあ。
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