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【2020/05 埋火】
《第3週 木曜日 昼》①
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昼も近くなって、映像を見ながら今日のお昼どうしようかななどと思っていると、スマートフォンの通知が明滅した。大石先生だった。
木曜は午後から手術や治療手技の指導で来るらしい。ランチ行かない?というお誘いだった。よくもまあヌケヌケと、と思う反面あんな酔っててもちゃんと約束したことは覚えてるもんなんだなと妙に感心した。
指定された店は本館の横の中華料理屋だ。送られてきたURLを開くと冷麺がいろいろある。それと、ランチにはサラダ・スープ・杏仁豆腐・コーヒーがつく。
おれは誘いに乗って、大石先生に会ってみることにした。小曽川さんに伝えると「うわぁ、大石先生もどうかと思うけど、長谷くんやっぱ聞き分け良すぎだと思いますよ…」と言った。
「でも、そのくらいしかいいとこないですから、多分」
おれは財布とスマートフォンを持ってとりあえず外に出た。校内の敷地を突っ切って、出てすぐの店なのでわかりやすい。
店に入ると既に大石先生は席についてオーダーを済ませていた。話しかけようとすると、マスクをしたまま指を立てて「しー」とやったあと、スマートフォンを見せてくる。
「通達が出てて、マスク必須、口頭での会話は控えるよう言われてるから、会話はLINEで」
ああ、そういえばそうだ。昨日アレだけ防疫させられたのにマスクのことすっかり忘れてた。
大石先生はエタノールを小さいアトマイザーで持ってきていて、手にかけてくれて、スマートフォンもエタノール含有のクリーナーで拭いてくれて、マスクも一枚分けてくれた。
「本当は一旦流水と石鹸で洗ったほうがいいんだけど、とりあえずこれで」
有り難く頂戴しておれは指示どおりにした。
おれのほうからメッセージを送る。
「先生のせいでおれふられちゃいましたよ、けど、同棲する権利は得られました。今の部屋が契約夏で切れるので、藤川先生のお宅にお世話になります」
大石先生は画面とおれの顔を二度見している。
「え?何?どういうこと?何が起きたの?」
おれは手を上げて店員さんに牛肉冷麺をオーダーしてから再びメッセージを送る。
「藤川先生が下心に負けました」
大石先生が笑って吹き出す。
「下心って!長谷くん怒ったほうがいいよそれ(笑)」
「ですよね?でもなんか憎めなくて。おれもアホだからやった~ってなっちゃいましたし」
互いにマスクの下はめちゃくちゃ笑っている。おれは大石先生にも友だちになるのは断られたはずのに、不思議なほど険悪さは全く生じていなかった。もっと昔から知ってる人みたいだ。
「先生は、藤川先生がウリやってる話って知ってるんですか?おれ昨日はじめて聞きました、多摩で」
「ああ、やっぱみんな知ってるんだよね、言わないけど。勿論知ってるよ。知ってるけどおれは結局止められなかったな」
大石先生はマスクを下からそっと捲って、少しだけお冷に口をつけた。
「アキくんの中にはおれには想像もできないような嵐というか、言語化できない感情があって、そういったものを強制的に遮断するために、自分を切り離すために性行為に逃げるって部分もあるんだと思ってる。本当にしたいのかどうかって正直読めない。でも、わかってることとして、アキくんは大事にされるより、自分を苦しめるようなセックスが好きだよ」
「なんでですか?」
「わかんないなあ、おれはそっちの分野には明るくないし。長谷くん、アキくんのお母さんに会って訊いてみたら?おれアポとってあげてもいいよ」
どうしよう、話してみたい。でも。
木曜は午後から手術や治療手技の指導で来るらしい。ランチ行かない?というお誘いだった。よくもまあヌケヌケと、と思う反面あんな酔っててもちゃんと約束したことは覚えてるもんなんだなと妙に感心した。
指定された店は本館の横の中華料理屋だ。送られてきたURLを開くと冷麺がいろいろある。それと、ランチにはサラダ・スープ・杏仁豆腐・コーヒーがつく。
おれは誘いに乗って、大石先生に会ってみることにした。小曽川さんに伝えると「うわぁ、大石先生もどうかと思うけど、長谷くんやっぱ聞き分け良すぎだと思いますよ…」と言った。
「でも、そのくらいしかいいとこないですから、多分」
おれは財布とスマートフォンを持ってとりあえず外に出た。校内の敷地を突っ切って、出てすぐの店なのでわかりやすい。
店に入ると既に大石先生は席についてオーダーを済ませていた。話しかけようとすると、マスクをしたまま指を立てて「しー」とやったあと、スマートフォンを見せてくる。
「通達が出てて、マスク必須、口頭での会話は控えるよう言われてるから、会話はLINEで」
ああ、そういえばそうだ。昨日アレだけ防疫させられたのにマスクのことすっかり忘れてた。
大石先生はエタノールを小さいアトマイザーで持ってきていて、手にかけてくれて、スマートフォンもエタノール含有のクリーナーで拭いてくれて、マスクも一枚分けてくれた。
「本当は一旦流水と石鹸で洗ったほうがいいんだけど、とりあえずこれで」
有り難く頂戴しておれは指示どおりにした。
おれのほうからメッセージを送る。
「先生のせいでおれふられちゃいましたよ、けど、同棲する権利は得られました。今の部屋が契約夏で切れるので、藤川先生のお宅にお世話になります」
大石先生は画面とおれの顔を二度見している。
「え?何?どういうこと?何が起きたの?」
おれは手を上げて店員さんに牛肉冷麺をオーダーしてから再びメッセージを送る。
「藤川先生が下心に負けました」
大石先生が笑って吹き出す。
「下心って!長谷くん怒ったほうがいいよそれ(笑)」
「ですよね?でもなんか憎めなくて。おれもアホだからやった~ってなっちゃいましたし」
互いにマスクの下はめちゃくちゃ笑っている。おれは大石先生にも友だちになるのは断られたはずのに、不思議なほど険悪さは全く生じていなかった。もっと昔から知ってる人みたいだ。
「先生は、藤川先生がウリやってる話って知ってるんですか?おれ昨日はじめて聞きました、多摩で」
「ああ、やっぱみんな知ってるんだよね、言わないけど。勿論知ってるよ。知ってるけどおれは結局止められなかったな」
大石先生はマスクを下からそっと捲って、少しだけお冷に口をつけた。
「アキくんの中にはおれには想像もできないような嵐というか、言語化できない感情があって、そういったものを強制的に遮断するために、自分を切り離すために性行為に逃げるって部分もあるんだと思ってる。本当にしたいのかどうかって正直読めない。でも、わかってることとして、アキくんは大事にされるより、自分を苦しめるようなセックスが好きだよ」
「なんでですか?」
「わかんないなあ、おれはそっちの分野には明るくないし。長谷くん、アキくんのお母さんに会って訊いてみたら?おれアポとってあげてもいいよ」
どうしよう、話してみたい。でも。
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