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【2020/05 暗転】
《第3週 水曜日 業後》
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小曽川さんは探していたらしく、会議室に入ってくるなり安堵して溜息をついた。
「長谷くうん、直帰していいとは言われたにしたって、おれに何も言わず単独行動はダメですってば~!せめてLINEくらいくださいよ~」
「す、すみません…つい…」
平謝りして、おれは席を立った。そして、お二人に礼を言う。
「ありがとうございました。実はおれ、小曽川さんに、優明さんの結婚式に来るよう説得してほしいって言われたりしてたんですが、藤川先生怒らせちゃって、どうしていいのかわからなくて…」
「怒る?あの藤川くんがですか?」
小林さんは心底驚いたという顔をした。
緒方先生も「それは、その結婚式に来いって話自体に?」と不思議そうに訊いてくる。
「いえ、そうじゃなくて…内緒で大石先生と飲みに行って聞いちゃったりしたからなんですけど…」
「やっぱり、自分から言える相手、言えるタイミングじゃないと、過去のこと探られるのは嫌なんでしょうね。娘さんのこともですけど」
ああ、やっぱそうだよな。おれが思い上がってただけで、先生にとっては多分まだそれほどの関係じゃないんだな。改めてそう思うと堪えるものがあった。
改めてお礼を言って、おれと小曽川さんは会議室をあとにした。
帰りの電車で小曽川さんは、先生から言われるであろうことの予想を話していた。
何故大石先生とサシで会ってたんだ、何故嘘をついたんだ、人の過去何勝手に探ってんだ。
いや、どれもごもっともだ。多分もう、そのままおれは振られるんだろうし、とりあえずおとなしく先生の気が済むまで怒られよう。
小曽川さんとは新宿で別れた。
それはそのまま新宿三丁目まで地下道を通って出て、百貨店で菓子折りを買って、そのままおれはノー予告で東新宿の先生の家まで向かった。
記憶をたどって路地に入り、建物を見つけてエントランスまでは入ったものの、部屋番号を押して呼び出しボタンを押しても一向に応答がない。まだ帰っていないんだろうか。
スマートフォンでLINEを起動してメッセージを送ってみるが、そちらも応答はない。宛が外れた。
出来ることならひとことでも謝っておきたかった。メッセージ画面に謝罪の言葉を打ち込む。
「先生、お疲れさまです。多摩キャンパスからの帰りに先生のご自宅に立ち寄りましたが、いらっしゃらないようなので失礼します。お叱りは存分にお受けするつもりです。」
不法侵入にはなってしまうと思ったが、住民の方が入ってきたところで愛想よく挨拶して背後からそっと入れてもらい、先生の部屋のスライドドアの取っ手の上部に菓子折りの入った袋を吊り下げてから、おれは帰った。
先生とはもうこの部屋で暮らすという選択肢もおそらくないし、先生を抱くことは二度とないんだな、結局やはりおれは誰かを好きになってはいけないんだなと思うと、鎖骨の下、胸の奥が何かで深く刺されたように痛んだ。
いっそもう、自棄を起こして痛飲して酔い潰れてしまったりしたいところだが、そういうわけにもいかない。つまらないことで遅れを取りたくない。
おれは寄り道することもなく家に帰り、シャワーを浴びてそのまま服も着ずベッドに潜り込んだ。しかし、その夜は雨が降り急に冷えたため、明け方には寒くて目が覚めた。
自分の肌と肌が当たるたび、この感触が先生のものだったら良かったのにと思ってしまう。でも、もうそれは手の届かないものに戻ってしまった。
脳内で、行為の最中の先生の甘えた声や、絡みつく手足の感触、骨の当たる感触、柔かな粘膜の感触、熱を具に思い出しながら、おれは先生で抜いた。
「長谷くうん、直帰していいとは言われたにしたって、おれに何も言わず単独行動はダメですってば~!せめてLINEくらいくださいよ~」
「す、すみません…つい…」
平謝りして、おれは席を立った。そして、お二人に礼を言う。
「ありがとうございました。実はおれ、小曽川さんに、優明さんの結婚式に来るよう説得してほしいって言われたりしてたんですが、藤川先生怒らせちゃって、どうしていいのかわからなくて…」
「怒る?あの藤川くんがですか?」
小林さんは心底驚いたという顔をした。
緒方先生も「それは、その結婚式に来いって話自体に?」と不思議そうに訊いてくる。
「いえ、そうじゃなくて…内緒で大石先生と飲みに行って聞いちゃったりしたからなんですけど…」
「やっぱり、自分から言える相手、言えるタイミングじゃないと、過去のこと探られるのは嫌なんでしょうね。娘さんのこともですけど」
ああ、やっぱそうだよな。おれが思い上がってただけで、先生にとっては多分まだそれほどの関係じゃないんだな。改めてそう思うと堪えるものがあった。
改めてお礼を言って、おれと小曽川さんは会議室をあとにした。
帰りの電車で小曽川さんは、先生から言われるであろうことの予想を話していた。
何故大石先生とサシで会ってたんだ、何故嘘をついたんだ、人の過去何勝手に探ってんだ。
いや、どれもごもっともだ。多分もう、そのままおれは振られるんだろうし、とりあえずおとなしく先生の気が済むまで怒られよう。
小曽川さんとは新宿で別れた。
それはそのまま新宿三丁目まで地下道を通って出て、百貨店で菓子折りを買って、そのままおれはノー予告で東新宿の先生の家まで向かった。
記憶をたどって路地に入り、建物を見つけてエントランスまでは入ったものの、部屋番号を押して呼び出しボタンを押しても一向に応答がない。まだ帰っていないんだろうか。
スマートフォンでLINEを起動してメッセージを送ってみるが、そちらも応答はない。宛が外れた。
出来ることならひとことでも謝っておきたかった。メッセージ画面に謝罪の言葉を打ち込む。
「先生、お疲れさまです。多摩キャンパスからの帰りに先生のご自宅に立ち寄りましたが、いらっしゃらないようなので失礼します。お叱りは存分にお受けするつもりです。」
不法侵入にはなってしまうと思ったが、住民の方が入ってきたところで愛想よく挨拶して背後からそっと入れてもらい、先生の部屋のスライドドアの取っ手の上部に菓子折りの入った袋を吊り下げてから、おれは帰った。
先生とはもうこの部屋で暮らすという選択肢もおそらくないし、先生を抱くことは二度とないんだな、結局やはりおれは誰かを好きになってはいけないんだなと思うと、鎖骨の下、胸の奥が何かで深く刺されたように痛んだ。
いっそもう、自棄を起こして痛飲して酔い潰れてしまったりしたいところだが、そういうわけにもいかない。つまらないことで遅れを取りたくない。
おれは寄り道することもなく家に帰り、シャワーを浴びてそのまま服も着ずベッドに潜り込んだ。しかし、その夜は雨が降り急に冷えたため、明け方には寒くて目が覚めた。
自分の肌と肌が当たるたび、この感触が先生のものだったら良かったのにと思ってしまう。でも、もうそれは手の届かないものに戻ってしまった。
脳内で、行為の最中の先生の甘えた声や、絡みつく手足の感触、骨の当たる感触、柔かな粘膜の感触、熱を具に思い出しながら、おれは先生で抜いた。
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