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【2020/05 友よⅢ】
《第3週 水曜日 朝》②
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ハルくんが選んでくれた服を言われるがまま着て、整えてもらって一緒に家を出た。行き先は同じなのでタクシーで向かう。
ハルくんは授業は今季は創傷学のみ、あとは形成専攻のゼミ指導、今日は形成の外来、木曜は手術や治療手技の指導、週末は概ねずっとERで泊まり込み、月曜の朝が明けでなんだかんだやってるうちいつも上がりは昼頃だ。
おれは今日は2限以外はほぼ自由で、楽な曜日ではある。
さっきまであんなことしていたとは思えないくらいハルくんはのんびりしている。というか、前々から思っているが、こんなのんびりしておとなしいのにERにいる人間なのがちょっと不思議だ。
でも実際行ったときは別人のようにテキパキしてて、ピンチになるほどシャキッとして頼りになるタイプだと聞かされて、最初は随分驚いた記憶がある。
しかし、元々何につけギャップが激しいタイプではあった。
普段はつらっとした表情でなんでも応じてくれるのに嫉妬に駆られたときの責めは執拗だし、そのくせ泣く。
おれが実家を出たときも高輪のマンション出たときも理由も訊かなかったくせに、おれのことずっと諦めない。
おれのこと好きなくせに、酒はやめないし、女にもわりかしだらしなくて、でも結局おれのところには呼ばれれば戻ってくる。
おれのこと好きなくせに、おれがやらかすのを待って自分を怒らせて、おれが欲しがるようにサディスティックに振る舞う。
あっちも多分そう思っているとは思うけど、感情と行動がバラバラで、支離滅裂だ。
おれがハルくんから二度、実家と高輪から離れた理由は、単純に通う場所的に不便があったというのもあるが、勿論それだけじゃない。
親密になるほどにハルくんに徐々に現れた、その背面二反の、相互に矛盾するおれに対する振る舞いが単純に怖かったのがひとつ。
そして、このままおれと一緒に居たら、ハルくんはどんどんおかしくなってしまうんじゃないか、おれのせいじゃないかという恐怖。
あと、おれが思う以上にハルくんがおれに尽くすことで、自分にはそこまでしてもらう価値はないのに、と思ううち、おれが勝手に怖くなった。
とにかく怖かったのだ。
そうやって勝手に逃げたおれを、ハルくんは本当は逃げた故に執着している部分もあるんじゃないかと思わなくもない。
でも結局離れることも、関係を大きく変えることもなく、今も付かず離れずずっと付き合っている。別れたとはおそらくどちらも思っていない。
ハルくんは、おれにとって友達で、初めての相手で、きょうだいで、先輩で、同僚で、恋人。ハルくんもそれは多分同じ。
互いを裏切っての火遊びがやめられないのも、そうなった理由も多分同じ。代わりになる人間なんか、きっと見つかりはしない。
只、心身にダメージを負ったままになっているおれのほうが長くは生きないだろうとは思っている。
だからおれが握っているすべての資産はおれが死んだらハルくんに行くように水面下で準備している。
そんな物はいらない、おれが死んだら自分も死ぬと、ハルくんは言った。
でも、おれだってそれを言ったら、本当はもう生きていたくなんかない。あれ以上生きていたくなかった。
全て忘れて多幸感と全能感に包まれていた中で、最初に思い出した感情がそれだ。
あの日死ぬと決めたのに、死ねなかっただけで、その後の時間なんか全部長い暇潰しに過ぎない。
早く終わらないかな、と、収納の布団の中で薄れいく意識の中で思っていたときのまま、おれは生きている。生きた死骸みたいに。
『にんげんは、中途半端な死体として生まれてきて、一生かかって完全な死体になるんだ。』
引用:映画『さらば箱舟』(寺山修司監督・1984年公開)より
ハルくんは授業は今季は創傷学のみ、あとは形成専攻のゼミ指導、今日は形成の外来、木曜は手術や治療手技の指導、週末は概ねずっとERで泊まり込み、月曜の朝が明けでなんだかんだやってるうちいつも上がりは昼頃だ。
おれは今日は2限以外はほぼ自由で、楽な曜日ではある。
さっきまであんなことしていたとは思えないくらいハルくんはのんびりしている。というか、前々から思っているが、こんなのんびりしておとなしいのにERにいる人間なのがちょっと不思議だ。
でも実際行ったときは別人のようにテキパキしてて、ピンチになるほどシャキッとして頼りになるタイプだと聞かされて、最初は随分驚いた記憶がある。
しかし、元々何につけギャップが激しいタイプではあった。
普段はつらっとした表情でなんでも応じてくれるのに嫉妬に駆られたときの責めは執拗だし、そのくせ泣く。
おれが実家を出たときも高輪のマンション出たときも理由も訊かなかったくせに、おれのことずっと諦めない。
おれのこと好きなくせに、酒はやめないし、女にもわりかしだらしなくて、でも結局おれのところには呼ばれれば戻ってくる。
おれのこと好きなくせに、おれがやらかすのを待って自分を怒らせて、おれが欲しがるようにサディスティックに振る舞う。
あっちも多分そう思っているとは思うけど、感情と行動がバラバラで、支離滅裂だ。
おれがハルくんから二度、実家と高輪から離れた理由は、単純に通う場所的に不便があったというのもあるが、勿論それだけじゃない。
親密になるほどにハルくんに徐々に現れた、その背面二反の、相互に矛盾するおれに対する振る舞いが単純に怖かったのがひとつ。
そして、このままおれと一緒に居たら、ハルくんはどんどんおかしくなってしまうんじゃないか、おれのせいじゃないかという恐怖。
あと、おれが思う以上にハルくんがおれに尽くすことで、自分にはそこまでしてもらう価値はないのに、と思ううち、おれが勝手に怖くなった。
とにかく怖かったのだ。
そうやって勝手に逃げたおれを、ハルくんは本当は逃げた故に執着している部分もあるんじゃないかと思わなくもない。
でも結局離れることも、関係を大きく変えることもなく、今も付かず離れずずっと付き合っている。別れたとはおそらくどちらも思っていない。
ハルくんは、おれにとって友達で、初めての相手で、きょうだいで、先輩で、同僚で、恋人。ハルくんもそれは多分同じ。
互いを裏切っての火遊びがやめられないのも、そうなった理由も多分同じ。代わりになる人間なんか、きっと見つかりはしない。
只、心身にダメージを負ったままになっているおれのほうが長くは生きないだろうとは思っている。
だからおれが握っているすべての資産はおれが死んだらハルくんに行くように水面下で準備している。
そんな物はいらない、おれが死んだら自分も死ぬと、ハルくんは言った。
でも、おれだってそれを言ったら、本当はもう生きていたくなんかない。あれ以上生きていたくなかった。
全て忘れて多幸感と全能感に包まれていた中で、最初に思い出した感情がそれだ。
あの日死ぬと決めたのに、死ねなかっただけで、その後の時間なんか全部長い暇潰しに過ぎない。
早く終わらないかな、と、収納の布団の中で薄れいく意識の中で思っていたときのまま、おれは生きている。生きた死骸みたいに。
『にんげんは、中途半端な死体として生まれてきて、一生かかって完全な死体になるんだ。』
引用:映画『さらば箱舟』(寺山修司監督・1984年公開)より
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