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【2020/05 友よⅢ】
《第3週 水曜日 未明》①
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目を覚ますと3時間ほど経っていた。体に回されていた腕を解いてベッドを出てトイレに行き、そのまま歯を磨いて、ワークデスクに向かって3時間ほど仕事する。
安いイヤホンの充電が切れるのを目処に見切りをつけて再びベッドに戻る頃にはだいたい朝方だ。
期日が迫っていた書き物と提出物が一通り終わって、仕掛りがない状態になった。これでやっと、当面、少なくとも長谷の相手をする間は机に張り付きっぱなしにならなくていい。
役員の仕事も前倒しでやっつけたので、あとは5月6月分の処理を上期終わりにやる。監察医務院や師匠の呼び出しや、授業やらゼミやら院生の指導や剖検はあるだろうけど、本来はそれだけに専念したい。通常業務の本体はそこだ。
長谷が居ること自体に問題はないだろう。寧ろ、学生が警察の鑑識なり検視官なり、その他の捜査関連の組織など、研究職や解剖医以外の進路について興味持つきっかけにもなると思う。
他に研究している領域や、臨床に目指すものがないのであれば、ここは潰しが効かない分野だから確実に食っていきたいなら色々検討できたほうがいい。丁度来ていた、進路に迷っている学生からの相談メールにもその旨を返した。
寝室に戻ると、おれを待っていたハルくんが上掛けを捲って手招きしている。その隙間から転がり込むとおれを抱き寄せて耳元でハルくんが囁く。
「アキくんさ、この部屋で長谷くんとセックスしたの?」
「え、なんで知ってんの」
夜も明けかけた青い光に染まった部屋で、目の前のハルくんの表情だけがはっきりと見える。
「教えてもらったんだよ」
「誰に」
ハルくんはなかなか言わないでニヤニヤ笑っている。足の親指を使ってハルくんの足の指を掴むと白状した。
「昨日、長谷くんに」
「え」
「おれ、長谷くんと飲んでたの」
今度はおれが言葉に詰まる。昨日のLINEを思い出して「長谷、だってジム寄って帰るって」と呟くと、ハルくんは「おれが口止めしたから嘘ついてくれたんだよ、叱ってやるなよ」と言っておれを上から押さえつけて組み敷いた。
「ひどい、なんでそんなコソコソ会ってんの」
「アキくんのこと、知りたそうだったから」
隠れて会っていたこと自体にもちょっとイラッとしてたのに、理由がそれって。
「何それ、勝手に人のこと喋んなよ」
思わず地声で、普通の声量で言い返した。
「アキくんのことはあんま喋ってないよ、それより、おれの生い立ち話したな」
「なんで?」
「おれとアキくんがどういう関係か知りたそうだったから」
上から見下ろしていたハルくんが少しずつおれに近づいて、覆い被さって包むように抱きしめた。おれも腕を伸ばして肩から背を包むように手を回す。
「だってさ、あの時アキくんが強引におうち連れて行ってなかったら、今のおれは居ないんだよ」
「いや、そりゃそうだけど、そんなとこから話す必要なくない?」
不服を申し立てるもハルくんは聞きもせず、おれの寝間着の裾を手繰って脇腹から手を差し入れる。指の背を腋窩まで滑らせてなぞっていく。
「あるよ、おれは渡す気ないって、言いたかったから」
「嫌な言い方するなよ、おれは」
続けて「モノじゃない」と言うまでもなく、ハルくんの唇がおれの口を塞ぐ。
強引に割り込んだ舌がおれの舌を探り、強く吸われ、この歳になっても外れきれていない舌小帯が痛んだ。
唇が離れると、ハルくんは言った。
「モノじゃない、だろ?言うと思ったよ」
安いイヤホンの充電が切れるのを目処に見切りをつけて再びベッドに戻る頃にはだいたい朝方だ。
期日が迫っていた書き物と提出物が一通り終わって、仕掛りがない状態になった。これでやっと、当面、少なくとも長谷の相手をする間は机に張り付きっぱなしにならなくていい。
役員の仕事も前倒しでやっつけたので、あとは5月6月分の処理を上期終わりにやる。監察医務院や師匠の呼び出しや、授業やらゼミやら院生の指導や剖検はあるだろうけど、本来はそれだけに専念したい。通常業務の本体はそこだ。
長谷が居ること自体に問題はないだろう。寧ろ、学生が警察の鑑識なり検視官なり、その他の捜査関連の組織など、研究職や解剖医以外の進路について興味持つきっかけにもなると思う。
他に研究している領域や、臨床に目指すものがないのであれば、ここは潰しが効かない分野だから確実に食っていきたいなら色々検討できたほうがいい。丁度来ていた、進路に迷っている学生からの相談メールにもその旨を返した。
寝室に戻ると、おれを待っていたハルくんが上掛けを捲って手招きしている。その隙間から転がり込むとおれを抱き寄せて耳元でハルくんが囁く。
「アキくんさ、この部屋で長谷くんとセックスしたの?」
「え、なんで知ってんの」
夜も明けかけた青い光に染まった部屋で、目の前のハルくんの表情だけがはっきりと見える。
「教えてもらったんだよ」
「誰に」
ハルくんはなかなか言わないでニヤニヤ笑っている。足の親指を使ってハルくんの足の指を掴むと白状した。
「昨日、長谷くんに」
「え」
「おれ、長谷くんと飲んでたの」
今度はおれが言葉に詰まる。昨日のLINEを思い出して「長谷、だってジム寄って帰るって」と呟くと、ハルくんは「おれが口止めしたから嘘ついてくれたんだよ、叱ってやるなよ」と言っておれを上から押さえつけて組み敷いた。
「ひどい、なんでそんなコソコソ会ってんの」
「アキくんのこと、知りたそうだったから」
隠れて会っていたこと自体にもちょっとイラッとしてたのに、理由がそれって。
「何それ、勝手に人のこと喋んなよ」
思わず地声で、普通の声量で言い返した。
「アキくんのことはあんま喋ってないよ、それより、おれの生い立ち話したな」
「なんで?」
「おれとアキくんがどういう関係か知りたそうだったから」
上から見下ろしていたハルくんが少しずつおれに近づいて、覆い被さって包むように抱きしめた。おれも腕を伸ばして肩から背を包むように手を回す。
「だってさ、あの時アキくんが強引におうち連れて行ってなかったら、今のおれは居ないんだよ」
「いや、そりゃそうだけど、そんなとこから話す必要なくない?」
不服を申し立てるもハルくんは聞きもせず、おれの寝間着の裾を手繰って脇腹から手を差し入れる。指の背を腋窩まで滑らせてなぞっていく。
「あるよ、おれは渡す気ないって、言いたかったから」
「嫌な言い方するなよ、おれは」
続けて「モノじゃない」と言うまでもなく、ハルくんの唇がおれの口を塞ぐ。
強引に割り込んだ舌がおれの舌を探り、強く吸われ、この歳になっても外れきれていない舌小帯が痛んだ。
唇が離れると、ハルくんは言った。
「モノじゃない、だろ?言うと思ったよ」
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