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【2020/05 友よⅡ】
《第3週 火曜日 夜半》⑦
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浴室に入ると噎せ返るような百合の青臭さを含んだ芳しい香りが充満している。
浴槽の湯は入れ直してくれたのか思ったよりぬるくなっていない。バスソルトが入っているのか色付きの油膜が少し浮いているが百合の香りのほうが強烈なせいか、あまり強くない香りのものなのか、あまりよくわからない。
シャワーを出して全身をこの空間の香りのもとになっているボディソープで軽く洗い、続けてそのまま髪の毛も洗った。サロン専売のヘアケアが揃っているので存分に使わせてもらう。
洗い終えて浴槽に浸かって改めてお湯の香りを嗅いでみたがやっともしかしてローズマリーかな?くらいの感じだった。自分が浸かった後、一旦冷めたので半分抜いて足したのだろう。
やはり朝晩はまだ何気に冷えるのか、浸かっていると体の怠さが少し抜けていく。そういや酒飲んだ後だから長湯して眠ったら大変だ、そこそこにして出ないと。心地よくなってきたところでサクッと切り上げて浴室を出た。
着替えて寝室に向かうと、アキくんは既に本を開いたまま眠ってしまっていて、風邪をひくといけないと思いそっと片腕を差しいれて体を持ち上げ、上にかけるものを引き出していると途中で目を覚ました。
「だいじょぶ、自分でやる…」
そうは言うものの、ふにゃふにゃしていつまでも転がっている。本をサイドテーブルによけて、結局かけ直してやった。間もなく再びアキくんは寝息を立て始めた。でも、3時間もしたら多分また起きてしまうだろう。
セミダブルを2つ並べたクイーンサイズだが、アキくんが眠るベッドの方におれも潜り込む。二人で一緒に包まっていると、一緒に過ごした日々を思い出す。中学時代、そして、再会してからの同棲していた頃。
アキくんは相変わらずすぐに散らかすし、物をこぼすし、なくすし、ひどく甘えん坊で、わがままで、純真ゆえに野蛮で、高潔であるゆえに自分をひどく嫌っていた。ずっと何も変わっていない。
でも、どうしてアキくんは頑なに家を出ていったのか、おれと暮らしていた部屋を出ていったのか、今もわからないままでいる。わからないまま、離れたのに今もこうやって行き来している。
只、おれは別れたとは思っていないし、おれにとってアキくんはそれ以前に「homme fatale」即ち「おれを破滅させる魔物」だ。
だが、アキくんはおれのこと何だと思っているだろう。おれは「開けてはいけない記憶の箱を開けた人間」でもある。おれは記憶を暴いた代償にどんな理不尽な要求も聞き入れ、交わりもすれば、望まれれば傷つけもする。
おれは長谷くんには友達だと言った。けど通常、少なくとも、こんな関係の友達はない。わかってる。
寧ろ、アキくんにとってはおれのほうが魔物なのかもしれない。一緒にいてはいけない、いることはできないと何か察したのかもしれない。
でもおれはどんな関係でもいい、離れない。破滅するならそれでもいい。アキくんとなら、アキくんが望むなら何処までだって墜ちる。
だって、あのときアキくんが強引におれを連れて来なかったら、おれはどうなっていたかわからない。それなのにおれは、誘惑されたとはいえど結果的にアキくんのメンタルを破壊する「記憶」というトリガーを引いた。
おれを憎んだっていいくらいなのに、アキくんはずっと祈りを捧ぐが如く、己が為すべきことを追及して待っていた。そこまでの時間はあまりに重く、遠かった。もう絶対に離れない。一緒には居られなくても。
おれは加重毛布の下の見えないアキくんの手を握った。指先が薄く、ひどく冷たい。重ねた爪先も同様に。
浴槽の湯は入れ直してくれたのか思ったよりぬるくなっていない。バスソルトが入っているのか色付きの油膜が少し浮いているが百合の香りのほうが強烈なせいか、あまり強くない香りのものなのか、あまりよくわからない。
シャワーを出して全身をこの空間の香りのもとになっているボディソープで軽く洗い、続けてそのまま髪の毛も洗った。サロン専売のヘアケアが揃っているので存分に使わせてもらう。
洗い終えて浴槽に浸かって改めてお湯の香りを嗅いでみたがやっともしかしてローズマリーかな?くらいの感じだった。自分が浸かった後、一旦冷めたので半分抜いて足したのだろう。
やはり朝晩はまだ何気に冷えるのか、浸かっていると体の怠さが少し抜けていく。そういや酒飲んだ後だから長湯して眠ったら大変だ、そこそこにして出ないと。心地よくなってきたところでサクッと切り上げて浴室を出た。
着替えて寝室に向かうと、アキくんは既に本を開いたまま眠ってしまっていて、風邪をひくといけないと思いそっと片腕を差しいれて体を持ち上げ、上にかけるものを引き出していると途中で目を覚ました。
「だいじょぶ、自分でやる…」
そうは言うものの、ふにゃふにゃしていつまでも転がっている。本をサイドテーブルによけて、結局かけ直してやった。間もなく再びアキくんは寝息を立て始めた。でも、3時間もしたら多分また起きてしまうだろう。
セミダブルを2つ並べたクイーンサイズだが、アキくんが眠るベッドの方におれも潜り込む。二人で一緒に包まっていると、一緒に過ごした日々を思い出す。中学時代、そして、再会してからの同棲していた頃。
アキくんは相変わらずすぐに散らかすし、物をこぼすし、なくすし、ひどく甘えん坊で、わがままで、純真ゆえに野蛮で、高潔であるゆえに自分をひどく嫌っていた。ずっと何も変わっていない。
でも、どうしてアキくんは頑なに家を出ていったのか、おれと暮らしていた部屋を出ていったのか、今もわからないままでいる。わからないまま、離れたのに今もこうやって行き来している。
只、おれは別れたとは思っていないし、おれにとってアキくんはそれ以前に「homme fatale」即ち「おれを破滅させる魔物」だ。
だが、アキくんはおれのこと何だと思っているだろう。おれは「開けてはいけない記憶の箱を開けた人間」でもある。おれは記憶を暴いた代償にどんな理不尽な要求も聞き入れ、交わりもすれば、望まれれば傷つけもする。
おれは長谷くんには友達だと言った。けど通常、少なくとも、こんな関係の友達はない。わかってる。
寧ろ、アキくんにとってはおれのほうが魔物なのかもしれない。一緒にいてはいけない、いることはできないと何か察したのかもしれない。
でもおれはどんな関係でもいい、離れない。破滅するならそれでもいい。アキくんとなら、アキくんが望むなら何処までだって墜ちる。
だって、あのときアキくんが強引におれを連れて来なかったら、おれはどうなっていたかわからない。それなのにおれは、誘惑されたとはいえど結果的にアキくんのメンタルを破壊する「記憶」というトリガーを引いた。
おれを憎んだっていいくらいなのに、アキくんはずっと祈りを捧ぐが如く、己が為すべきことを追及して待っていた。そこまでの時間はあまりに重く、遠かった。もう絶対に離れない。一緒には居られなくても。
おれは加重毛布の下の見えないアキくんの手を握った。指先が薄く、ひどく冷たい。重ねた爪先も同様に。
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