Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 友よⅡ】

《第3週 火曜日 夜半》④

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あんな話を聞いて、あんな遣り取りをした挙げ句、酔って居眠りしている大石先生を目の前にした状態での藤川先生の突然の連絡に心臓は跳ねた。
只でさえ藤川先生に内緒で密会中の、心の余裕も準備がない状態で連絡が来るなんて思わなかった。しかもさっき一度通話して話しているのに。でも、うれしいものはうれしい。
けど、最後うっかり本音が出てしまったのは失敗だった。無駄に心配させてしまったかもしれない。明日は気を取り直して元気な状態で行かなくちゃ。
おれは、正直、大石先生が少し羨ましかった。そしてその大石先生に強く乞われる藤川先生のことも。
制約をすべて受け容れ生活していた母のようには信仰しきれず、家から逃げ出した自分には、そんなふうに盲目的に誰かを愛せる気はしない。
それどころか、そうならないように此処10年間はずっと必死だった。
おれは「信仰を受け容れれば愛してもらえる」そういう条件付きの愛情のかけられ方に、そして「従わなければ見捨てられる」という脅威に、ずっと心が縛られていた。
だから相手に利用されても、受け容れてもらえるだけでがうれしいとかそんな気持ちすらなくて、只、嫌われ見捨てられるのが怖くて、逃げられなかった。
家でも、家以外の場所でも、やっとの思いで家から逃げて信仰を離れても、その先でも、ずっと同じことの繰り返しだった。
その経験が重い枷になって、未だに藻掻いている。
思えば、絶対的被害者の立場で振る舞える子供の頃、慕ってた近所のお兄さんから最初にいたずらされたとき、正直に言えばよかった。でも、言えなかった。
あの件がなかったら、同性を性的に意識することは一生なかった気がするし、当時は女の子の友達も無邪気に告白してくる子もいて、悪い気はしてなかった。
でも母はおれに好意や接触を求める子に異常に敵意を剥き出しにするものだから、後で母の目耳に触れるおそれを思うと、殆ど女の子とは遊べなかった。
せめて、おれが信仰の強制はいやだ、おれにいたずらした年上の同性のひとたちに性的に扱われるのはいやだと拒めたら、誰かに助けを求められたら、それを訴える宛や手段を知っていたらと思うと、未だに後悔はある。
誰にも言えず、男にしか欲情できなくなっていく自分を隠し続けた結果、おれの母親はおれを嫌い、家族よりも信仰を選んでおれとお父さんを置いていなくなった。
おれは見捨てられ、誰からも選ばれなかった。
今更、居なくなった親や宗教、環境のせいにしたってどうしようもないことはわかっている。けど、ときにふと思い出して、憤怒と悲嘆に慟哭したくなる。
だからこそずっと、もう二度と人を好きにはなるまいと決めて、自分の感情を見ないようにしてきた。抑えがたい衝動に駆られても、その手段が不道徳と言われようと、カネで解決してきた。
そんなことに慣れきった中で、藤川先生に出会ってしまった。
こちらの動揺を見透かすように弄び、欲望に正直に振る舞う先生を、利用されかねないのを承知で懲りずに好きになってしまったことも否定はできない。しかもおれはそんな先生のことを正直羨ましくも思っている。
日々をともに過ごすほどに、先生の仕事に対する意識の高さとか、優しい部分とか、通常経験し得ないであろうつらい経験、そういうものを少しずつ知っていくにつれ、先生のことがもっと知りたくなった。
せっかく好きだと言ってもらえたのに、それが友達の好きなのかそうじゃないのかなんてこと訊くのも、先生の過去をこれ以上嗅ぎ回るのも良くないのはわかっている。
今も見捨てられるのは怖い。余計なことをして先生に嫌われたくない。先生に選ばれたい。
おれなんかが与えられるものならそれは捧ぐし、見返りもいらない。
でも、そのために条件を課されたり利用されてもいいとは思わない。
そんなのは重いって切り捨てられるのも怖いけど、先生がどう考えてるのか知りたい。
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