158 / 447
【1989/05 komm tanz mit mir】
《第二週 土曜日 午前》⑦
しおりを挟む
やっぱり、アキくんが受けた被害は、性的なものだけじゃないのでは。切りつけられたような傷も、この額の傷も、明確な攻撃性をもって与えられたものにしか思えない。
「なんでなのか、お父さんとお母さんも知らないの?」
「わかんない、きいちゃいけない気がして、言えないの。お父さんもお母さんもやさしすぎるから、なんか言えないの」
アキくんはアキくんなりに、ストレスを抱えていることを初めて知った。子供返りして無邪気に甘えているだけだと思っていた。もしかして、負い目を感じて無理してそのように振る舞っているだけなんじゃないか。そう考えると胸の奥が痛んだ。
「アキくんは、いつからアキくんなのかもわかんないの、気がついたら病院にいて、お父さんかお母さんがずーっといっしょだったの。病院出たら、ここが今日からアキくんのおうちだよって、連れてこられたの」
自分が何者なのかわからないまま、自分の身になにか起きたのか知らないまま、おそらくは治療にあたったお医者さん夫婦に引き取られてアキくんは此処に居る。
アキくんの身に何が起きたんだろう。本当の親はどうしたんだろう。きょうだいは、ほんとならいたはずってことは、生まれずに死んだのか。
「ねえ、アキくん、それ、おれがアキくんのお父さんとお母さんに訊いたらダメかなあ」
「うーん…アキくんはこわいから今のままでいい…」
アキくんが望まないのに、訊く必要はないか。でも、いつかはアキくんも知ることになるんだろうか。それはアキくんにとっていいことなんだろうか。或いはもうこのまま知らないままのほうがいいんだろうか。その内容にも凭るだろうけど。
「ねえハルくん、ハルくんはアキくんにさわられるのきらい?」
話が先程の行為のことに戻った。本当にアキくんは自分の過去の話には触れてほしくないんだな。怖いって言ったのも本当なんだと思う。本能的に忌避したくなるような、重大な事情があることはアキくんも察しているんだろう。
「嫌じゃないよ、でも本当はきっとダメなんだよ、こういうの」
アキくんはいつもの「なんで?」という表情でおれを見る。
「普通、男同士でそういうことしないんだよ」
「普通ってじゃあ何が普通?だからお父さんおこったのかな」
あ、やっぱりやろうとしたことはあるんだ。
「男と女ですることだからさ。親子でもそういうことはしないんだよ」
やっぱりアキくんはいつもの「なんで?」という表情でおれを見ている。
「こういうことの目的って、繁殖…子供を作ることにあるからなんじゃないかな」
合ってるかわからないながらも説明してみる。
「子供を作ること?知ってるよ交尾って言うんだよ、動物はみんなするよ、テレビでも見た。でもね」
ん?でも?
「さっきもいったけどね、オス同士でも交尾ってするんだよ。人間もするんだよ、アキくん知ってるよ。昔は当たり前だったこともあるんだよ。するって知ってるのに、なんでダメなのかな」
ああ、やっぱアキくんのほうがよく知ってるし、よく考えてるんだ。
自分がそういうものを避けてきたせいもあるけど、生活をどうするかにばかり追われて、そんなこと疑問に思ったこともなかった。自分には関係がないと思っていた。
友達という概念に、性行為が絡んでくるとも思っていなかった。
言われてみれば、同性の友達とそういう関係を持っては、何故いけないんだろう。
「なんでなのか、お父さんとお母さんも知らないの?」
「わかんない、きいちゃいけない気がして、言えないの。お父さんもお母さんもやさしすぎるから、なんか言えないの」
アキくんはアキくんなりに、ストレスを抱えていることを初めて知った。子供返りして無邪気に甘えているだけだと思っていた。もしかして、負い目を感じて無理してそのように振る舞っているだけなんじゃないか。そう考えると胸の奥が痛んだ。
「アキくんは、いつからアキくんなのかもわかんないの、気がついたら病院にいて、お父さんかお母さんがずーっといっしょだったの。病院出たら、ここが今日からアキくんのおうちだよって、連れてこられたの」
自分が何者なのかわからないまま、自分の身になにか起きたのか知らないまま、おそらくは治療にあたったお医者さん夫婦に引き取られてアキくんは此処に居る。
アキくんの身に何が起きたんだろう。本当の親はどうしたんだろう。きょうだいは、ほんとならいたはずってことは、生まれずに死んだのか。
「ねえ、アキくん、それ、おれがアキくんのお父さんとお母さんに訊いたらダメかなあ」
「うーん…アキくんはこわいから今のままでいい…」
アキくんが望まないのに、訊く必要はないか。でも、いつかはアキくんも知ることになるんだろうか。それはアキくんにとっていいことなんだろうか。或いはもうこのまま知らないままのほうがいいんだろうか。その内容にも凭るだろうけど。
「ねえハルくん、ハルくんはアキくんにさわられるのきらい?」
話が先程の行為のことに戻った。本当にアキくんは自分の過去の話には触れてほしくないんだな。怖いって言ったのも本当なんだと思う。本能的に忌避したくなるような、重大な事情があることはアキくんも察しているんだろう。
「嫌じゃないよ、でも本当はきっとダメなんだよ、こういうの」
アキくんはいつもの「なんで?」という表情でおれを見る。
「普通、男同士でそういうことしないんだよ」
「普通ってじゃあ何が普通?だからお父さんおこったのかな」
あ、やっぱりやろうとしたことはあるんだ。
「男と女ですることだからさ。親子でもそういうことはしないんだよ」
やっぱりアキくんはいつもの「なんで?」という表情でおれを見ている。
「こういうことの目的って、繁殖…子供を作ることにあるからなんじゃないかな」
合ってるかわからないながらも説明してみる。
「子供を作ること?知ってるよ交尾って言うんだよ、動物はみんなするよ、テレビでも見た。でもね」
ん?でも?
「さっきもいったけどね、オス同士でも交尾ってするんだよ。人間もするんだよ、アキくん知ってるよ。昔は当たり前だったこともあるんだよ。するって知ってるのに、なんでダメなのかな」
ああ、やっぱアキくんのほうがよく知ってるし、よく考えてるんだ。
自分がそういうものを避けてきたせいもあるけど、生活をどうするかにばかり追われて、そんなこと疑問に思ったこともなかった。自分には関係がないと思っていた。
友達という概念に、性行為が絡んでくるとも思っていなかった。
言われてみれば、同性の友達とそういう関係を持っては、何故いけないんだろう。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる