Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【1989/05 komm tanz mit mir】

《第二週 土曜日 午前》①

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アキくんのお父さんとお母さんが居るうちにアキくんの服を借りて着替えて、アキくんと戸棚の箱から小銭をもらい、それぞれ制服を持って下に降りて数件横のビルのクリーニング店に持っていった。アキくんが話せないことはお店の人も知っているのかごく当たり前に対応してくれた。
戻って玄関でお父さんとお母さんがクリニックに出勤するのを見送って、アキくんとお部屋の本棚から通信教材の中2の5月号のテキストと中2用の各教科の参考書とワークブックを抱えてリビングダイニングに戻ってきた。
「何の教科からやろうかなあ、ハルくんはなにやりたい?」
テキストを早速開いて、アキくんはやる気十分だ。しかし、水を差すようで申し訳ないが、おれはシャワーを浴びたい。
「アキくん、あのね、おれ昨日寝る前のアレで汗かいたからシャワー借りようと思ってたんだけど、入ってきていい?」
「きのうのあれ?」
「そうだよ、したでしょ」
「した?なにしたの?」
ああ、簡潔にぴしっと言わないと伝わらないって言ってたな、曖昧なぼかした言い方ではダメってことか。恥ずかしいけど説明するしかない。
「アキくんがやらしいキスするから、おれ我慢できなくてキスされてる間にオナニーして、イッちゃって、取り急ぎ拭いて手洗いに行ったでしょ」
「あれってそういうなまえなの?」
アキくん、知識としてそういうことは頭に入ってなくて、そういう行為の名称も認識してなくて、ノー知識無意識でそういうことしてるんだ。しまった、もしかしてこれは、名称を出して言うべきではなかったのか。
「そうだよ、だからシャワー入らせて」
平静を装って淡々と言うと、アキくんは「いいよ!」と言ってくれた。よかった。そう思って立ち上がり、風呂場に向かいとしたその時、アキくんが後ろから抱きついてきた。
「じゃあアキくんも一緒入る」
まさかの申し出に心臓が跳ね上がる。そんなの、おれの理性が保たない。絶対にだめだ。昨夜あんなキスされてるのに、今直接素肌で触れられたりしたら何も意識しないで乗り切るのは難しい。
「いや、待って、だめだよ」
「なんでー?」
困り顔で抗議されると心は痛いけど、だめなものはだめだ。出会って間もない子の家でタダ飯食らってお風呂入れてもらって、同性のその子に二度もディープキスされて興奮して射精してる時点でだいぶどうかしてる。
しかもおれがアキくんがお父さんにする行いに腹が立ったのも、おれが多分そういう欲求を持っていたからだ。それは、アキくんに対しておれが持ってしまった好意ゆえなのか、それとも単なる性欲の発露なのか、ある種の独占欲や支配欲の萌芽なのか、わからない。
でも、その証拠に、あんな事があったおかげか、今朝お父さんといちゃつくのを見ても胸が騒いだり腹は立たなかった。妙に落ち着いて見れた。
アキくんのことはかわいいと思う。触れられてひどく興奮して、自分にそういう欲求があると気付かされるくらいには。でも、守ってあげないととも思うし、おれにはもうひとりの先生のような部分もあるし、でも同じ学年の同性の男の子のうちのひとりだ。
そもそもそれ以前に性的な被害を受けてしまっている子だし、迂闊にそんなことしちゃいけない。
でも、アキくんが女性を忌避する状態はわかるけど、なんでこんなに同じ性別の相手には密接にふれあいたがるんだろう。しかも、その戯れ方は衝動的で、純粋で無邪気であるゆえにひどく野蛮だ。
おれみたいな孤立感を拗らせた人間がが理性をなくして交わったら、きっと互いを貪るように泥沼に堕ちると思う。それでアキくんを傷つけることになってしまったら取り返しがつかない。できるだけ回避するしかない。
「まだ裸見られるのは恥ずかしいから、此処で待ってて、ね」
やっとの思いで言うと、アキくんは「わかった。アキくんも、多分ちょっとはずかしいかも」と言ってくれたので、安堵してリビングダイニングを離れ、洗面所に向かった。
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