Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【1989/05 komm tanz mit mir】

《第二週 金曜日 夜》①

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お風呂から上がったアキくんはスポーツドリンクに氷を入れて持ってきて飲みながら、お父さんに髪を乾かしてもらっている。おれとアキくんは全く同じ紺色の生地に白のパイピングが施されたパジャマで、並んで座っているときょうだいみたいと言われて、満更でもなかった。
仕上げはお母さんがするため途中で交代したのだけど、お母さんが触っている間、アキくんは固まって動かなくなっていた。それでも終わると振り返って、小さい声ながら「ありがと」と言った。お母さんはそれで十分満足そうだった。
その後、そろそろ歯磨きしておいで、制服と鞄をお部屋のクローゼットに仕舞っておいで、教材を後ろの棚に片付けて、ゲームもテレビの下の箱に戻して、と注意が逸れないように1つずつ具体的にアキくんに指示を出して、全て片付けさせた。
片付け終わるとアキくんは誰に言われるまでもなく「じゃあおやすみなさい」と言って、おれの袖を引っ張ったので、おれも「おやすみなさい」と言って一緒にリビングを出る。
アキくんが玄関入って直ぐ左の扉を開けて、照明のスイッチを押すと、薄暗い間接照明がぼんやりと部屋を照らした。部屋の壁には備え付けの小さいクローゼットが一箇所、ベッドと本棚とおもちゃが入った箱しかない。
「あのね、ベッドがセミダブルだから一緒に寝ても大丈夫だよ」
カーテンやベッドファブリック、ラグはすべて紺色でまとめられていて、壁も絶妙な緑がかった紺色というか、そういう色で、間接照明の上から天井までは切り替えで淡い水色になっている。枕元には大小様々な形と素材のクッションがあって、普段はそこに好きな体勢で寝ているとアキくんは言った。
お先にどうぞと促されてカバーの下に潜ると、中は厚手のタオルケットと毛並みの細かい毛布で、そこそこ適度に重みがあって、不思議な安心感があった。思わずうっとりしていると、その顔を覗き込んでアキくんは嬉しそうに微笑んだ。
そこに、扉をノックする音がして、お父さんがアキくんを呼んだ。扉を開けたまま少し廊下に出て、アキくんがお父さんと話す。
「アキくんはしゃいだり、ハルくんにちょっかい出して夜ふかししたらダメだよ、明日何曜日で何の日?」
「早起きして制服クリーニング出す」
ああそうか。保健室登校は土曜日ナシだから、やることを決めておいて生活リズムを崩させないようにするんだな。心地よくウトウトとしながら会話を聞く。しかし。
「そう、わかったら寝てください」
「うん、お父さん、おやすみのちゅーして」
そこで一気に目が覚めた。
会話が途切れて静まり、僅かに何かが這いずるような濡れた音がした。まさか、でも、覗き見るわけにもいかず、動くことも出来ず、じっと耐えた。
「アキくん、そういうのはダメって言ったでしょう」
「おやすみのときだけだもん」
甘えた口調で言って、アキくんは扉を締めて部屋に戻ってきた。そして、さっきしていたことなど忘れたような平気な顔で照明を常夜灯に切り替えて、同じベッドに入ってきた。
「アキくん、学校でも思ったけど、いつもお父さんとキスするの?」
「うん、でも、おうちだけにしなさいって叱られちゃった」
いや、あのときのような、頬の奥側にちょっとキスするくらいなら、外国では挨拶代わりにするものだとは思うけど、でも。
「さっきみたいなキスも、寝る前、いつもしてるの?」
「うん、するよ?なんで?」
なんで?はこっちの台詞だよ。
一度被害に遭ってるのに、なんで自分からそんなことするの?
お父さんはあくまでもお父さんとして応じてて、そんな疚しい気持ちはないだろうけど、でも、それにしたって、あんなおやすみのキスある?
普段、ネガティブな感情が生じると止まらなくなると思って、できるだけ押し殺してきた。余程のことがあっても、もういちいち腹を立てたりすること自体が馬鹿らしかったから。
でも、今自分でもわけがわからないくらい、アキくんの行いに腹が立ってたまらなかった。
そして、それと同時に、抑えがたい欲望が湧き上がっていた。
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