Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 友よ】

《第3週 火曜日 午後》⑤

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「じゃあ長谷、おれちょっとやっぱ体調もメンタルも微妙だから、また1時間位したら携帯鳴らして起こしてよ。ね」
そっと肩を押して離そうとするけど、なかなか離れてくれない。
「長谷?」
「先生、キスだけさせてくれませんか。軽いやつ」
そんなこと、耳まで赤くして懇願するんだなあなどと思いながら、長谷の下唇を啄むように軽く口付けた。嬉しそうに目を細めて微笑んでから、そっと立ち上がって長谷は出ていった。一旦起き上がって施錠して、再びソファに戻って毛布に包まる。

おれとハルくんは、おれがこの大学に入学して、多摩キャンパスでハルくんに再会して、おれのマンションに呼んで一緒に暮らしてた。ハルくんが外来からERに転属してから激務で、おれも研究だなんだと忙しくはあったけど、何の不満もなかったけど、おれが法医の師匠のマンションに誘われて引っ越して同棲を解消した。
そのときに思っていたのは「なんで此の人は長年離れていたおれのことを見つけられたんだろう、しかもあちこちで他の男と戯れてくるおれを咎めもせず尽くしてくれるんだろう、なんでおれのことそんなに好きなんだろう、なんで」と、おれもハルくんとは再会できて嬉しかったけど、とにかくわからない、ということだった。
おれにとってハルくんは、人生の中で僅かな公立の学校に通ったときにできた、唯一の友達だった。そして、記憶を失くして今の名前になってからのおれの身体に初めて性的に接触した人間、特別な思慕を示してくれた人間だった。
今だってハルくんは、おれがいきなり呼びつけたり急に押しかけたりしても受け容れてくれる。いつだって、何度でも、おれのことを好きだと言って憚らない。でも、やっぱり何故そんなにおれのこと式で居てくれているのかわからないし、おれの好きとハルくんの好きは違う好きなんじゃないかとか、考えてしまう。
何より、わからないことがおれは怖い。そして、こんなにも大事にしてもらっても誠実になれない自分が、自分を大切にできないことがどうしようもなく腹が立つし、自分は罰されるべきだと自分自身を打ちのめしにかかってくる。
でも、おれには自分で自分を罰することさえできなくて、その欲求の解消さえも、おれは自分ひとりでは思うようにできず、ハルくんや直人さんやふみに頼らざるを得ない。自分で自分を罰することができなくなったのは、いつからだっただろう。
少なくとも、ハルくんと引き離されてから実家を出るまでは自分から意識を逸らすこと、自分で自分を傷つけること、傷つくことに夢中だった。ひとりになったとき、知らない誰かに欲望されることを知って、おれはその相手に思考を放棄して自分を罰することを投げて、その一回の成功が依頼心を生んだのだと思う。
その後出会った先輩も、直人さんとふみ、そして再会したハルくんも、その行為やおれの欲求自体、誰も否定しなかった。先輩はおれのことは遊びだと言い切ってたから、直人さんとはそういう契約関係だから、ふみは直人さんの命令で関わってるだけだから、それはそれ、これはこれでよかった。
でも、ハルくんは違う。ハルくんは、おれの自罰欲求やそこから来る不誠実な振る舞いを全部受け容れた上で、おれのことが好きで、おれが好きだからこそ、尽くしてもくれるし、おれの望むようにおれに傷もつける。基本ハルくんはよく泣くから、なんで泣いてまで付き合ってくれるのか、尋ねたこともあった。
でもそのときに返ってきた答えは「アキくんが必要とするんだったら、おれは叶えてあげたいから」で、それに対して逆におれに期待することはあるの?と訊いたら、微笑んで「ないよ」と言った。その後おれの頭を撫でて「アキくんは考えすぎるんだよ、おれのことなんて考えなくてもいいんだよ」と言った。
でも、おれはまだずっと、今も考えている。
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