Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 友よ】

《第3週 火曜日 午後》①

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学生さんで混雑する時間を避けて後で三眼が始まるころ食事に出ることにして、とりあえず小曽川さんのところで話をしながら、書庫にある本を読んで時間を潰していた。その中で今、先生が何を研究しているのか訊いてみた。
前提として、元は心理学をやっていた人なので、日本心理学会、社会心理学会、感情心理学会などそれ関係の学会に多く所属しているという。まずそこで博士になって研究をやっていたが、医学系私学御三家を再受験して進路を変えた。
そこで精神医学分野に進み、国試も難なく受かり、一通り研修も修了して、研究したり教鞭を執りながら臨床に立っていた時期もあったということもあり、精神神経学会の専門医でもあった。しかしその後更に進路を変えた。
現在は准教授で日本法医学会の認定医。この国では解剖医自体が極端に少なく、そもそも150人程度しか居ないという狭き門だ。二転三転しつつ辿り着いた此処でようやく落ち着いたのは、先生の努力と実績の積み重ねもあるが、結局今のお師匠さんのおかげであるという。
と、いうか。先週、小曽川さんと多摩キャンパスの授業に訪問したときにお会いした法医学の教授先生は実に藤川先生のことをメロメロに溺愛していた。なるほどそれでマンション住ませてもらったり、新橋の校舎でひとり好きにやらさせてもらえているわけか、と思った。
そもそも先生にとっては、解剖医や教員の仕事も経営者の仕事も思うように下りない研究費を自分で賄うための手段でしかなく、本来重点を置きたいのは研究だからね、と小曽川さんは言った。
「で、今は結局、何の研究をなさってるんですか?」
「今はまだ言えないですよ、うっかり外に漏れて先越されたら今までの努力が水の泡ですもん」
「おれ全然何もわからないのにそれでもですか?」
「逆だよ~、よくわかってない人のほうが重要性わかってないからポロッと言っちゃうの」
なるほど、それはそうかも。
そんなこんな話をしていたら、先生が戻ってきたのかエレベーターがフロアに上がってきて開く音が聞こえた。そしてノックもせず書庫に先生が入ってきた。
「お、よかった、いたいた」
両手に何やら百貨店の袋を下げている。
「お留守番ありがとう。はい長谷にはお弁当。南のはおやつ」
それぞれ受け取った袋から中身を取り出してみると、おれのほうには牛ステーキがぎっしり載ったお弁当にスモークサーモンの入った華やかなサラダ。小曽川さんには色とりどりのマカロンと胡椒が効いたチーズ味のパイだった。手渡した後黙って戻ろうとする先生を呼び止めた。
「先生、あの、お父さんは」
「今の所は持ち直したから大丈夫。ほったらかしてすまないけど、少し一人にしてほしいんだ。ごめんね」
そう言い残すと、先生は書庫を出て自分の部屋の鍵を開けて入り、そのまま内側から施錠したようだった。
「持ち直しはしたけど、良くはないんだろうなあ。ねえ長谷くん、ちょっと此処離れて、気分転換にコレ外持ってって食べよっか」
袋を手に小曽川さんが席を立つ。後を追って、一緒に下に降りて外に出た。もう日差しの当たるところは結構暑い。カフェテリア周囲の灌木が茂ったテラスで食べることにして、席を確保してから交代で飲み物を買いに行った。
席に戻ると、小曽川さんはマカロンの個包装を剥いて既に口をモグモグさせていた。おれも弁当の包装を剥いで蓋を開け、竹の割り箸を手に取る。食べ始めて暫くしたところで、小曽川さんは言った。
「ゆっくりでいいですよ、食べるの。あんまり早く戻ると気まずい思いしちゃうと思うんで」
顔を上げると、小曽川さんはつらっとした顔でカフェテリアで買ったアイスティに、ストローを刺した紙パックから強引に牛乳を絞り出して混ぜていた。まあだいたいこういうとこでミルクティ頼むとコーヒーフレッシュを入れることもできるアイスティであってミルクティではないからそうしたくなるのもしょうがない。
いや、それはいい。
「気まずい思いってなんですか?」
「今頃あの人多分、大石先生とあそこで会ってますから。聞きたくないでしょ、自分が寝た相手が他の人としてるの」
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