Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
上 下
115 / 447
【2020/05 命令】

《第三週 月曜日 午後》②

しおりを挟む
俺たち、とあえて書いたのは、今はこの父親、父さんとおれ二人きりの家族だからだ。母親はおれが中学の時に病死してしまった。もともと循環器系の持病があったこと、随分無理をして生み育ててくれていたことは亡くなった後で知った。母親が死んでからはオヤジの…直人さん夫婦のところに預けられた。
ユカもおれと同じ頃あの夫婦のところに来た。ユカは所謂家出少女だった。もとは由美子さんがやってる芸能事務所の入所希望者で、入所基準には十分達していて是非にと寮を用意していた。が、親の許可はとったと偽って上京してきたためトラブルになり、由美子さんの一時預かりになったのだった。そしてそのままずっとあの家にいる。
話を戻すが、父の罪状は銃砲刀剣類所持等取締法違反、世にいう銃刀法違反である。拳銃の単純所持によるもので、団体の活動として行われた場合は1年以上15年以下の懲役となる。父は幹部の椅子を条件にオヤジの身代わりになって7年入ることになった。入ったのはおれが30になった頃なので、出所が近づいている。もうすぐ還暦だ。
このタイミングで周囲がざわつき出したのは何かあるような気がして、本人に先ずは訊く必要があった。
「直球で訊くけどさ、なんか急に怪しい動きが出てきてて、父さんの出所に絡んでなんかやろうとしてるような感じがあるんだけど、心当たりない?てか本当に教誨師さんやおれ以外とは接触してないんだよね?中で変なヤツとつるんでないでしょうね?」
「えぇ…なんだよ久しぶりにあったと思ったら尋問かよお、なんも知らないよおれだって」
顔を前に近づけて父さんの目を見る。まだ目は赤く鼻をぐすぐすさせている。だめだ、笑いそうになってしまう。笑うのを堪えていると父さんも吹き出した。
「そんな暇ないよ、なにげ真面目だそおれ。刑務作業だって割と楽しく集中してやってるし、運動時間はめいっぱい有効活用するし、自由時間もやること決めてるからひとりだしな」
「自由時間って何してんのさ」
「それがさ、聞いてよ。小説書いてんの」
意外だ。でも家に居た頃もよくひとりでクルマ弄ってたりしてた。飲む打つ買うということもしない人だったので真面目といえばそうだ。稼業がちょっとアレなだけで、上に忠実で下にも気が利く、基本的には只の気のいいおっさんではある。
「いつから」
「先月くらいかな。本読む楽しみ知ったら只読むだけじゃ物足りなくなって、そっから想像膨らませて勝手に書いてんの」
「へぇ、二次創作じゃん」
父さんはキョトンとして「なんだいそりゃ、にじ?」と首を傾げている。ユカの悪い影響が出るとこだった。
「いや、まあそれはいいよ。父さんが知らないならいいんだ。出所したらその小説読ましてよ、読んでみたいから。あと、なんか出所したら欲しい物とかない?」
「え~恥ずかしいなあ読まれるの。てか今のおれ浦島太郎みたいなもんだよ?とりあえずスマホの使い方教えてよ、面白そうだから」
あとは時間いっぱいまで他愛のない、互いの生活であったことを時間いっぱいまで話した。
「じゃあふみ、仕事がんばれよ」
「うん、じゃあね、また」
父さんは何でも正直に話してくれるのに、おれはまだ言えてない。表向き由美子さんの会社の社員として籍を置いたまま、実際には直人さんの身辺警護していること。バンドマンはいいけどヤクザはだめだと言われたのに結局ヤクザになったことも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...