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【2020/05 狂濤Ⅲ】
《第三週 月曜日 業後》③
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「それで、妹さんは、このことを知ったとき、どうでしたか」
メインを食べ終えたところで話しかけると、小さく「泣いてたよ」と答えた。
「話したのがね、ちょうど先週末でね。うちの親が死んでからずっと、優明からは本当のお父さんのこと教えてくれ、会いたいって言われてたんだけど、そういう背景から話さなきゃいけないから、おれもしんどくて黙ってた」
それはそうだろう、自分が身勝手な犯行に因って、先生の尊厳を奪った末に命を得たことなんて、そう簡単に受け容れられることではない。その秘密を抱えてきた小曽川さんの両親や小曽川さんの気持ちも察するに余りある。
「でも、今度優明結婚するから、優明にもお相手にも話しておこうと思って。今回はそれで破談になるようなお相手じゃなかったし」
「今回?」
「親が生きてる間に見合い話が来てて、うまく話が進んだ相手がいたんだけどさ、そこそこいい家の人でね。でも、優明が養子である事情を興信所に調べさせたみたいで、急に断られた」
そんな理不尽な。それは相手が卑怯すぎないか?優明さんが養子だってこと知ってて話受けておいて、後からコソコソ調べるとか…いや、おれも業務的にはあれこれ調べる側の人間なので言えたことじゃないかもしれないけど。
メインの後、ローストビーフの載ったピラフが出てきたが、もうお腹はそこそこいっぱいになりつつある。何せ此処までハムチーズのタルト、南瓜のムース、スモークサーモン、鮑と帆立貝のなんちゃらと、一皿一皿は多くないが結構な量食べている。
「てかさ~聞いてよ長谷くんさあ、今問題はさあ、あの人なんだよ~」
そのピラフを目の前に小曽川さんがヘロヘロになって訴える。また冷めちゃいますよ、と思いつつも訴えを聞く。
「優明は絶対あの人に自分の結婚式に来てほしいの、来てくれないなら式もパーティーもしなくていいってきかないの!でもあの人絶対縦に首振らないんだよ~どうしよ~、キャンセルだってタダじゃないんだよ~」
「もしかして、それでおれにどうにか説得してほしいとか仰っしゃります?もしかして」
期待に満ちた眼で小曽川さんがおれを見る。
「え、いや、待ってください。小曽川さんが言えばいいじゃないですか」
「だあって、あの人おれにポイポイ仕事投げるくせに、おれに対する心の壁はエベレストですもん…」
しょんぼりしてフォークを手に取り、上に乗っているローストビーフを口に運ぶ。おれもそれに倣って一緒に食べ始めた。どれだけいい肉なのか、しっとりやわらかく牛臭さがなく、もう普段買ってる肉とは明らかに違う。赤を飲みたくなってきて追加で注文した。
「それ言ったら小曽川さんもだいぶ先生には辛辣じゃないですか、相手の嫌な面は鏡って言うじゃないですか」
「だぁってえ~」
ローストビーフの下のピラフも程よく加えられた本わさびの香りが心地よい。ローストビーフとともに一緒に口に運ぶとたまらない。うっとりと味わっていると突然「長谷くん、なんかおれに隠してることあるでしょ」と顔を前に出して言ってきた。
どうしよう、それこそ何もないとは言えない。俯いて小声で答える。
「あります…小曽川さんが絶対口外しないなら、先生説得するの手伝います…」
小曽川さんは凡そ空間に似合わないガッツポーズをして「やったぁ~」と言った。そして「で、その隠してることってアレでしょ、あの人とやっちゃったんでしょ」とニヤニヤしながら言った。
「そのとおりです…バレてましたかね…」
ピラフの皿が下げられデザートが来るのを待つ間、少し酔いが回りそうだったのでソフトドリンクを頼んだ。
「あーあ、やっぱりね~ほんとどうしようもないな~あの人のそういうとこ!だから優明に紹介するのほんとはおれ嫌なんですよね~」
「まあまあ、おれもお力になりますから、そう仰らず。てか小曽川さんはそんなに先生のこと嫌いなんですか?」
「嫌いなわけじゃないです、苦手なんです」
学校でのやり取り見ててもなんとなくお二人の間に棘のようなものは感じてたけど、なんか納得がいった。物は言いようだなあ、と思った。
メインを食べ終えたところで話しかけると、小さく「泣いてたよ」と答えた。
「話したのがね、ちょうど先週末でね。うちの親が死んでからずっと、優明からは本当のお父さんのこと教えてくれ、会いたいって言われてたんだけど、そういう背景から話さなきゃいけないから、おれもしんどくて黙ってた」
それはそうだろう、自分が身勝手な犯行に因って、先生の尊厳を奪った末に命を得たことなんて、そう簡単に受け容れられることではない。その秘密を抱えてきた小曽川さんの両親や小曽川さんの気持ちも察するに余りある。
「でも、今度優明結婚するから、優明にもお相手にも話しておこうと思って。今回はそれで破談になるようなお相手じゃなかったし」
「今回?」
「親が生きてる間に見合い話が来てて、うまく話が進んだ相手がいたんだけどさ、そこそこいい家の人でね。でも、優明が養子である事情を興信所に調べさせたみたいで、急に断られた」
そんな理不尽な。それは相手が卑怯すぎないか?優明さんが養子だってこと知ってて話受けておいて、後からコソコソ調べるとか…いや、おれも業務的にはあれこれ調べる側の人間なので言えたことじゃないかもしれないけど。
メインの後、ローストビーフの載ったピラフが出てきたが、もうお腹はそこそこいっぱいになりつつある。何せ此処までハムチーズのタルト、南瓜のムース、スモークサーモン、鮑と帆立貝のなんちゃらと、一皿一皿は多くないが結構な量食べている。
「てかさ~聞いてよ長谷くんさあ、今問題はさあ、あの人なんだよ~」
そのピラフを目の前に小曽川さんがヘロヘロになって訴える。また冷めちゃいますよ、と思いつつも訴えを聞く。
「優明は絶対あの人に自分の結婚式に来てほしいの、来てくれないなら式もパーティーもしなくていいってきかないの!でもあの人絶対縦に首振らないんだよ~どうしよ~、キャンセルだってタダじゃないんだよ~」
「もしかして、それでおれにどうにか説得してほしいとか仰っしゃります?もしかして」
期待に満ちた眼で小曽川さんがおれを見る。
「え、いや、待ってください。小曽川さんが言えばいいじゃないですか」
「だあって、あの人おれにポイポイ仕事投げるくせに、おれに対する心の壁はエベレストですもん…」
しょんぼりしてフォークを手に取り、上に乗っているローストビーフを口に運ぶ。おれもそれに倣って一緒に食べ始めた。どれだけいい肉なのか、しっとりやわらかく牛臭さがなく、もう普段買ってる肉とは明らかに違う。赤を飲みたくなってきて追加で注文した。
「それ言ったら小曽川さんもだいぶ先生には辛辣じゃないですか、相手の嫌な面は鏡って言うじゃないですか」
「だぁってえ~」
ローストビーフの下のピラフも程よく加えられた本わさびの香りが心地よい。ローストビーフとともに一緒に口に運ぶとたまらない。うっとりと味わっていると突然「長谷くん、なんかおれに隠してることあるでしょ」と顔を前に出して言ってきた。
どうしよう、それこそ何もないとは言えない。俯いて小声で答える。
「あります…小曽川さんが絶対口外しないなら、先生説得するの手伝います…」
小曽川さんは凡そ空間に似合わないガッツポーズをして「やったぁ~」と言った。そして「で、その隠してることってアレでしょ、あの人とやっちゃったんでしょ」とニヤニヤしながら言った。
「そのとおりです…バレてましたかね…」
ピラフの皿が下げられデザートが来るのを待つ間、少し酔いが回りそうだったのでソフトドリンクを頼んだ。
「あーあ、やっぱりね~ほんとどうしようもないな~あの人のそういうとこ!だから優明に紹介するのほんとはおれ嫌なんですよね~」
「まあまあ、おれもお力になりますから、そう仰らず。てか小曽川さんはそんなに先生のこと嫌いなんですか?」
「嫌いなわけじゃないです、苦手なんです」
学校でのやり取り見ててもなんとなくお二人の間に棘のようなものは感じてたけど、なんか納得がいった。物は言いようだなあ、と思った。
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