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【1993/12 Can you kill me】
《第4週 日曜日 夜》③ (*)(●)
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「玲、一旦頭を上げなさい」
体を起こして背中を向けたまま正座し直すと、頭を下げていたせいで思ったよりひどく出血してタオルは結構な範囲が紅く染まっている。そしてまだ出血は止まらず滴り続けていた。
「それで、親はどうした」
「母は助かりませんでした」
「父親は」
「見つかってません、今も」
ゆっくりと前方に回り込み、屈んでおれの顔を見る。指の背で鼻先を拭い、僅かな粘度を帯びた紅い液体を見つめてから再びおれを見た。キーゼルバッハ部位を指で摘むように圧迫しながら問い質す。
「お前、やけに血が止まらなくないか。何か隠しているだろう」
「ただの鎮痛剤の副作用ですよ」
慢性的に頭痛が有り、バファリンを服用している事を話した。バファリンは鎮痛剤として市販されているが、もともとは抗血小板薬なので、連用すると出血しやすくなるし止まりにくい。内出血も出来易くなる。
「他の鎮痛剤にしないのか」
「血が流れたほうが、興奮するから」
暫く黙ったまま患部の圧迫を続け、血が止まったのを確認すると体を拭いたタオルを手にとり、湿った部分で血がついたところを拭って、更に問い質した。
「玲、お前、本当の目的は何だ」
「何も考えない時間がほしい、あと自分を罰してくれる存在がほしいんです」
何も言わずじっと直人さんが俺の顔を見つめる。おそらく、嘘はないか、プレッシャーに負けて俺が本当の目的を吐かないか、様子を見ている。
「腕の傷については理由きかないんですね」
「本気でおれに甚振ってほしくて話に乗ったことはわかった、今更訊くだけ野暮だろう」
その話を切り出されたとき、できるだけ動揺を見せないように努めた。気取られてはいないはずだ。
母親が殺されて、自らも殴打され、生き残ったとはいえ、その後どのように生きてきたのか。おそらく行方不明になった父親も、もう生きてはいないだろう。
サバイバーズ・ギルト。危険な状況から生還を遂げた者が、周りの人々が亡くなったのに自分だけ助かったことに対し抱く罪悪感。玲が抱えている自罰欲求や自傷行為はそこから来ているものに違いない。
そして、自分を罰してほしい願望、傷つけたい欲求を持っている子どもは何故だか皆ひどく美しい。玲もそうだ。守ってやりたい気持ち、庇護欲と、望むことを読み取ってやり、甚振って支配したい欲望を掻き立てるものを持っている。
再び玲に先ほどと同じ体勢を取るように命じ、ベルトを振るい白い肌を斬りつけるように振り抜く。打ち付ける度に声に艶が乗っていく。打ち付けられた箇所は帯状に赤く染まり、やがて皮膚が弾け紅い滴状のものが線上に膨らみ、滲む。それがなだらかなカーブを描いて、腿を流れた。
玲は、口先では抵抗するが、実際にはまるで抵抗しない。それどころか体を震わせ、軽く気をやりそうになっているのがわかる。これは自傷の延長、自傷を他者に委ねているだけではなく、明らかに玲の中では快楽を齎すものに変容している。
甘い声を漏らして、膝を震わせて達し、体の小柄さにさえ不釣り合いな幼い形状のそこから放たれた乳白色のとろりとした体液が、タオルの上で散った。
脱力して体制を崩し倒れ込んだような状態になっていたので、落ち着くのを待って声をかけて、体を抱き起こした。
「玲、こう言うとあれだけど、やけに小さいよな、元からか?」
「これは…殴られて気を失った後、いろいろあって、最終的には餓死仕掛かって、退縮したんです、そのときに。一応機能はしますが、生殖能力はもうないです」
「いろいろってなんだよ」
「言いたくないです」
喉元に手を添え、ゆっくりと力を込めて、気道を圧迫していく。玲は抵抗しなかった。それどころか、そのまま殺されてもいいというように、うっとりとした表情で微笑んだ。
体を起こして背中を向けたまま正座し直すと、頭を下げていたせいで思ったよりひどく出血してタオルは結構な範囲が紅く染まっている。そしてまだ出血は止まらず滴り続けていた。
「それで、親はどうした」
「母は助かりませんでした」
「父親は」
「見つかってません、今も」
ゆっくりと前方に回り込み、屈んでおれの顔を見る。指の背で鼻先を拭い、僅かな粘度を帯びた紅い液体を見つめてから再びおれを見た。キーゼルバッハ部位を指で摘むように圧迫しながら問い質す。
「お前、やけに血が止まらなくないか。何か隠しているだろう」
「ただの鎮痛剤の副作用ですよ」
慢性的に頭痛が有り、バファリンを服用している事を話した。バファリンは鎮痛剤として市販されているが、もともとは抗血小板薬なので、連用すると出血しやすくなるし止まりにくい。内出血も出来易くなる。
「他の鎮痛剤にしないのか」
「血が流れたほうが、興奮するから」
暫く黙ったまま患部の圧迫を続け、血が止まったのを確認すると体を拭いたタオルを手にとり、湿った部分で血がついたところを拭って、更に問い質した。
「玲、お前、本当の目的は何だ」
「何も考えない時間がほしい、あと自分を罰してくれる存在がほしいんです」
何も言わずじっと直人さんが俺の顔を見つめる。おそらく、嘘はないか、プレッシャーに負けて俺が本当の目的を吐かないか、様子を見ている。
「腕の傷については理由きかないんですね」
「本気でおれに甚振ってほしくて話に乗ったことはわかった、今更訊くだけ野暮だろう」
その話を切り出されたとき、できるだけ動揺を見せないように努めた。気取られてはいないはずだ。
母親が殺されて、自らも殴打され、生き残ったとはいえ、その後どのように生きてきたのか。おそらく行方不明になった父親も、もう生きてはいないだろう。
サバイバーズ・ギルト。危険な状況から生還を遂げた者が、周りの人々が亡くなったのに自分だけ助かったことに対し抱く罪悪感。玲が抱えている自罰欲求や自傷行為はそこから来ているものに違いない。
そして、自分を罰してほしい願望、傷つけたい欲求を持っている子どもは何故だか皆ひどく美しい。玲もそうだ。守ってやりたい気持ち、庇護欲と、望むことを読み取ってやり、甚振って支配したい欲望を掻き立てるものを持っている。
再び玲に先ほどと同じ体勢を取るように命じ、ベルトを振るい白い肌を斬りつけるように振り抜く。打ち付ける度に声に艶が乗っていく。打ち付けられた箇所は帯状に赤く染まり、やがて皮膚が弾け紅い滴状のものが線上に膨らみ、滲む。それがなだらかなカーブを描いて、腿を流れた。
玲は、口先では抵抗するが、実際にはまるで抵抗しない。それどころか体を震わせ、軽く気をやりそうになっているのがわかる。これは自傷の延長、自傷を他者に委ねているだけではなく、明らかに玲の中では快楽を齎すものに変容している。
甘い声を漏らして、膝を震わせて達し、体の小柄さにさえ不釣り合いな幼い形状のそこから放たれた乳白色のとろりとした体液が、タオルの上で散った。
脱力して体制を崩し倒れ込んだような状態になっていたので、落ち着くのを待って声をかけて、体を抱き起こした。
「玲、こう言うとあれだけど、やけに小さいよな、元からか?」
「これは…殴られて気を失った後、いろいろあって、最終的には餓死仕掛かって、退縮したんです、そのときに。一応機能はしますが、生殖能力はもうないです」
「いろいろってなんだよ」
「言いたくないです」
喉元に手を添え、ゆっくりと力を込めて、気道を圧迫していく。玲は抵抗しなかった。それどころか、そのまま殺されてもいいというように、うっとりとした表情で微笑んだ。
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