Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【1993/12 Can you kill me】

《第4週 日曜日 午後》① (*)

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当日、あの日ホテルで会った片岡さんがわざわざ車でうちのマンションに迎えに来た。そりゃあもうアレな人が乗っているとひと目で判る黒塗りでスモーク貼りの立派な上位モデルの外国産セダン。部下と思しき若い、おれと同じくらいの歳の人が助手席から降りてきて、恭しくドアを開けて乗車を促してくれた。
格好は場所柄できるだけちゃんとしたほうがいいだろうと思い、ブルーグレーと紺色のグレンチェックのスラックス、淡いグレーの刺子のラインが入ったシャツ、黒いカフドボートネックにフレンチスリーブの綿ニットを選んだ。車での移動なのでコートは薄手の紺のステンカラーコートにした。特に持っていくようなものも思い浮かばなかったので財布と家の鍵だけ持って出た。
車中では特に話すこともなく、窓の外を眺めていた。普段電車移動ばかりなので普段自分の足で歩かないところを眺めているだけで少し楽しい。国道1号線から芝公園を突っ切って、東京タワーの脇を通り日比谷通りに抜ける。ホテルの車止めでおれと片岡さんは車を降り、部下の人が車の運転を引き継いで去っていった。片岡さんの後をついてロビーに入ると、毛足の長い絨毯にふわりと足が沈む感触がした。
一階にラウンジがあり、そこで待っているという。ラウンジに入ると隅の一角に明らかにちょっと不穏な空気が漂っている席があった。後ろに手を組んで立ったまま高価そうなスーツを纏った髪をなでつけた連中が複数付き添っている。おそらくあの席だな、と思ったらやはりそのとおりだった。ソファに腰掛けていたのは、長身でガタイのいい顎髭を生やした男と、髪の毛を脱色しているおれよりも歳下の少年だった。
男の左脇に腰掛けていたその少年はおれを一瞥して、興味なさそうにテーブルの上のトレイに並ぶ焼き菓子を手にとって割った。反対側の右脇に座るよう呼ばれ、傍らに腰を下ろした。身元を証明するものを出すよう求められ、他に出せるものもないので写真がついている学生証を出すと、男はまじまじと印字されている内容を見て、性行動や性癖の分析でもするのかと言ったので思わずちょっと笑った。首を振って否定する。
「いえ、研究したいことは別なので、安心してください。おれは…」
そこまで言ったところで骨ばって厚みのある手が伸びてきて、おれの目を覆う前髪を指でそっと掻き分けた。目を見つめられるのがおれは苦手で、僅かに視線を落とした。
「おれは、なんだ?」
「時々、理不尽なひどい目に遭いたくなるんです、何かに打ち込んでいても自分の中に生じる言葉にできないような感情…不安や煩悶が解消できなくて、気が狂れそうで、何も考えられなくなる時間が欲しくなって」
手が下に降り今度は膝にかかる。脚を開かせるとその手がそのまま内腿の足の付根に近いところまで伸びてきた。まさか、こんなところで?と思い「あの、」と声をかけた瞬間、爪を立てて強く抓られ、痛みに身が竦み声を漏れた。その容赦ない仕打ちに強い被支配欲求が湧き上がる。これからどう扱われるのかを思うと心臓は高鳴り、下半身が息づき血液が集まるのを感じる。それを察した男の手が脚の間の隆起しかけている膨らみをなぞり上げ、おれの耳元に顔を寄せる。
「いい反応だ、悪くない」
そう囁くとおれを手を引いて立ち上がり、連れの者全員に呼び出すまで戻って待機するよう告げてエレベーターホールに向かった。指定した階は14。到着して部屋に入ると、そこはキングサイズのベッドを備えたスーペリアルームだった。室内に入ると、ベッドサイドのデスクの下には予め持ち込んでいたと思われるスーツケースがあり、デスクの上や椅子の上にはその中から出したと思われるものが置かれている。使用感がありながらもよく手入れされた責め具や衛生用品だ。
ベッドの前まで手を引いておれを連れてきたその男は、手を離して服をすべて脱ぐように言ってから、一旦引き返しクローゼットからハンガーを2本手に取り、改めてベッドに戻って腰掛けた。上等そうなシャンブレーの黒いスラックスの生地が青っぽく艶めき、淡いグレーの綿サテンのシャツはしっかりと糊付けされハリを保っている。横に細い銀縁の眼鏡から鋭い瞳がこちらを見ている。左側に少し流して整えた髪の毛が、僅かに頬にかかっている。
コートから順に一枚ずつ脱いでいくと、腕を伸ばして受け取り、皺にならないよう丁寧に左手に引っ掛けたハンガーにかけていく。何を話すわけでもなく、おれは自分を舐めるように見つめる視線を意識しながら、できるだけゆっくりと、見せつけるように服を脱いだ。すべて脱ぎ終わると、テーブルから首輪を取って目の前に正座するよう指示され、それに従った。その間におれを服をクローゼットに片付け、再びベッドに戻って腰を下ろす。
大型犬用と思われる赤い首輪は本皮製で、一般にプレイに使われるような安っぽいものではなくそれなりの重みがあった。丁寧に首に嵌めると、右の手でおれの頬をそっと撫で、邪な欲望を滲ませて微笑む。
「おれは征谷直人、■■会系■■組の若頭で本部長だ。よろしくな、玲」
ほんの一瞬の間を置いて、つい先程おれを撫でた手が頬を打った。それなりの勢いと力で張られたので、少し体勢が崩れて右手を床についてしまった。その手を尖った靴の先が踏みつける。
「玲、返事は早いほうがいいぞ。あと、挨拶ができてないな」
爪先を上げて靴の先をおれの口元に突き出す。姿勢を立て直し、手前に手をついて頭を垂れ靴の先に口づけた。
「よろしくお願いします。直人さんのお好みどおり躾け直していただきたいです」
「いい心がけだ」
直人さんは立ち上がってイルリガートルを用意し、グリセリン25%、食塩2%、これを精製水を遣い40~42度程度の湯で割り作成すると、成人の直腸許容注入量である420ccを充填して蓋をしっかりと締め、チャンネルコネクターでロックした2mのゴム管とその先にエボナイト製のネラトンカテーテルをつないだ。一連の作業を終えるまで床に座ったまま待機していると、ベッドの上に上がり左を下にし、下肢を軽く屈曲して横向きに寝るよう指示された。
ベッドの上にはよく見ると防水シーツと吸収剤入りの大きめのペットシーツが拡げてある。そこに腰を下ろして横たわった。準備を終えた直人さんがサイドテーブルに準備したものを置いて、背後からおれの尻に触れる。肛門にワセリンを塗布し静かにカテーテルを肛門内に挿入すると、ガートルを持って立ち上がり、1.5mほどの高さにしたところでおれに声をかけた。
「今何するところか判るか?」
はい、と小さく返事をすると、ロックを解除し注入が開始された。温度が下らないように速やかに注入していく。急激に入りすぎないようこまめにチャンネルコネクターを調節し速度を加減しながら入れている。ロックしたり解除したりを繰り返す、その乾いたクリック音だけが部屋に響く。「そろそろかな」と呟くのが聞こえて間もなく軽い排泄欲求が起こった。しかしそのまま注入は続けられた。やがてこれ以上は我慢し得ないと感じ始め、挙手した。
「もう、だめです」
「あとほんの少しだ、ああほら終わった。管を抜くから我慢して起きて、こちらに背を向けて座りなさい」
漏出しそうな感覚を堪えてなんとか言われるとおり座り直すと、大きな手が頭の上に置かれ優しく撫でる。
「此処で全部出しなさい。おれのために尊厳を捨てられるか、誠意を見せてくれ」
行為の前処理として行なっているにしては仰々しいと思っていた。しかしまさか此処で出すように言われるとは思わなかった。
「いやです」
「玲、腰を上げて尻の肉を開いて見せなさい」
俯いて首を振ると「わかった、しょうがないな」と言って気配が少し遠くなった。背後で金属質な音がする。気配が戻ってくると同時に突き飛ばされ、おれはベッドに沈んだ。倒れた上から頭を押さえつけられ息ができない。それより、突き飛ばされた衝撃で注がれた内容液が僅かに漏れ、内腿にそれが伝いペットシーツに染みていくのがわかり、心がざわついた。支配されていく実感がどうしようもなく痴情を喚起する。
強引に足を開き、両方の腿にベルトを巻き付けて、そこに金属の棒状の拘束具を取り付ける。更に手首には手錠を嵌め、それも腿のベルトの横に着いている金具に繋いだ。脚は閉じることができず、手の自由も全く利かない状態になった。やや余裕がある状態の首輪に指を引っ掛けてそのまま引き起こされ、首が締まって目の前がチカチカする。息ができるようになっても暫くは目の前がちらついて見えない。
「拒否権はないんだよ。こちらを背にしたまま中腰で膝立ちになって、体の力を抜きなさい」
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