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【2019/05 苦界】
《第二週 金曜日 深夜》
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あのあと、冷めた惣菜とおにぎりを食べて、シャワーも浴びず布団に潜った。
頭の中で、あの、先生の身に起きた(今はまだ確証が取れていないから、かもしれない、だけど)ことの一部が反芻されて、なかなか寝付けなかった。
昼間のあの時間のことと、猟奇的すぎる事件の落差がすごくて、自分の中で消化しきれない。
眠りにつくべく部屋を暗くして布団を被り、努めて呼吸を整えて寝落ちて、尿意で目が覚めたとき十分眠れたと思ってスマートフォンを見ると、2時間ほどしか経っていない。改めて眠ろうとしたが、深い眠りにつけず繰り返し目を覚ました。
寝転がったままスマートフォンで再び検索を開き、改めて事件に関する情報を探り、画面を閉じる前に見ていたページを再び開いてみる。
■明幸さんの日記より抜粋■
明優に目に見えない、理解されにくい病気がいくつもあること、通院で苦痛を負わせてしまっていることには責任を感じている。
もし下の子が生まれたら一生懸命お世話すると言ってくれたので決めたが、その子も同じように苦しめることになるのではと思うと不安はある。
先生、何か持病があったのか。いや、今もあるんだろうか。
下の子?弟か妹が居るのか。なんか想像がつかない。
「明優くんは情緒や感覚に偏りが有り、トラブルが続き小学校には通っていなかった。また、思春期早発症のため3年前から内分泌専門医の治療を受けるため9歳から都内の大学病院に通院していたという。」
「周囲との発達の大きなズレは学校という社会での生活で問題になりうることと、患児自身の自尊心や尊厳にも関わる問題ともなることを考慮し、明幸さんは明優くんが学校に行きたがらないことを否定せず、通院も杳子さんには任せず自身が付き添っていたという」
「夫妻は交換日記形式で明優くんの日々の様子や病状、毎日の出来事について詳しく記録を残しており、この中にも姉妹間でのトラブルについても記載があったという」
学校に通わず育った人が、今は大学で先生をしているのか。
情緒や感覚に偏り、というのは今で言う発達障害のことだろうか。
思春期早発症と検索すると、小児内分泌学会や国立成育医療研究センターや小児科クリニックによる説明がヒットした。
「思春期早発症は、二次性徴が異常に早く出現し、ほかの成長が追いつかないまま早く収束してしまう病気です。
通常の二次性徴の開始年齢は男子では10歳から13歳、女子では8歳から12歳頃で、それより前に二次性徴が見られるときは思春期早発症の疑いが出てきます。
思春期早発症の診断は、成長曲線を確認し、診察と、骨年齢(手のレントゲン検査)、血液検査などを行いますが、場合によっては負荷試験やMRI検査などが必要なことがあります。
特に男児は陰毛発育や成長異常などにより見つかることが多く、診断が遅れがちです。いろいろと検査をして原因を見極める必要があります。女子の場合は特発性で特定の原因がないことが多いです。原因により治療方法も異なります。
お子さんの思春期の時期を正確に判断するには成長曲線をつけることと、診察や検査が必要です。母子手帳、保育園・幼稚園~現在までの身長体重の記録(測定年月日と身長体重が数字でわかるもの)をできるだけ多く持参してください。成長曲線を作成します。」
「ゴナドトロピン依存性思春期早発症
中枢のゴナドトロピン放出ホルモン分泌亢進から始まるゴナドトロピン分泌促進を認めるもので、脳内の変化に起因する。
思春期の開始を決定する因子は未だ不明な点が多い。最近になって、GPR54, KISS1, MKRN3遺伝子の単独変異によるゴナドトロピン依存性思春期早発症例が報告された。
治療の目的は①原疾患があればその治療②成人身長低下の防止③精神的成熟と身体成熟の不均衡の是正である。」
思春期、ということは当時この病気だったということか。結構深刻な病気だ。この説明のとおりだとすると。先生の身長は本来ならもっと伸びるはずだったということか。確かに先生、あの世代の男性の平均身長よりどう見ても小さい。
検索してみると、平成2年度で14歳男子の平均身長が165cm、成人は170cmだ。このくらいの段階までに完全に成長が止まったということか。
でも、これが事件となにか関係あるんだろうか。
先生の小柄さからふと、昨日のことを思い出す。
あの細い腰に抱きついたおれをそっと押し返して引き剥がして、「今日は此処までだよ、ダメだよ、こんなこと人に言っちゃ」と言いながら、右の親指でおれの頬を撫でた。
触れられたときの感触が忘れられない。その「こんなこと」をしたのは先生なのに。言えないようなことしたのわかってるんじゃないか、本当に狡い。
そういえば、あのとき先生からしていたいい匂いが気になる。あれは何の匂いなんだろう。今までに嗅いだことのない感じの甘い匂いだった。
整髪料やなんかの「つけるもの」とか洗濯洗剤や香水とかの「身につけるもの」の「香らせるための匂い」とも違う匂い。
果物の匂いに似ている気もしたけど、似ている果物の名前がぱっと出てこない。
このままこの事件を調べ続けても、内容が内容なので、休日なのに滅入ってしまう気がする。
適当に食べて一旦洗濯回ししながら軽く掃除して、走りにでも出かけたほうがいいかもしれない。
戻ったら洗濯物を干して、そのあとはどうしようか。
頭の中で、あの、先生の身に起きた(今はまだ確証が取れていないから、かもしれない、だけど)ことの一部が反芻されて、なかなか寝付けなかった。
昼間のあの時間のことと、猟奇的すぎる事件の落差がすごくて、自分の中で消化しきれない。
眠りにつくべく部屋を暗くして布団を被り、努めて呼吸を整えて寝落ちて、尿意で目が覚めたとき十分眠れたと思ってスマートフォンを見ると、2時間ほどしか経っていない。改めて眠ろうとしたが、深い眠りにつけず繰り返し目を覚ました。
寝転がったままスマートフォンで再び検索を開き、改めて事件に関する情報を探り、画面を閉じる前に見ていたページを再び開いてみる。
■明幸さんの日記より抜粋■
明優に目に見えない、理解されにくい病気がいくつもあること、通院で苦痛を負わせてしまっていることには責任を感じている。
もし下の子が生まれたら一生懸命お世話すると言ってくれたので決めたが、その子も同じように苦しめることになるのではと思うと不安はある。
先生、何か持病があったのか。いや、今もあるんだろうか。
下の子?弟か妹が居るのか。なんか想像がつかない。
「明優くんは情緒や感覚に偏りが有り、トラブルが続き小学校には通っていなかった。また、思春期早発症のため3年前から内分泌専門医の治療を受けるため9歳から都内の大学病院に通院していたという。」
「周囲との発達の大きなズレは学校という社会での生活で問題になりうることと、患児自身の自尊心や尊厳にも関わる問題ともなることを考慮し、明幸さんは明優くんが学校に行きたがらないことを否定せず、通院も杳子さんには任せず自身が付き添っていたという」
「夫妻は交換日記形式で明優くんの日々の様子や病状、毎日の出来事について詳しく記録を残しており、この中にも姉妹間でのトラブルについても記載があったという」
学校に通わず育った人が、今は大学で先生をしているのか。
情緒や感覚に偏り、というのは今で言う発達障害のことだろうか。
思春期早発症と検索すると、小児内分泌学会や国立成育医療研究センターや小児科クリニックによる説明がヒットした。
「思春期早発症は、二次性徴が異常に早く出現し、ほかの成長が追いつかないまま早く収束してしまう病気です。
通常の二次性徴の開始年齢は男子では10歳から13歳、女子では8歳から12歳頃で、それより前に二次性徴が見られるときは思春期早発症の疑いが出てきます。
思春期早発症の診断は、成長曲線を確認し、診察と、骨年齢(手のレントゲン検査)、血液検査などを行いますが、場合によっては負荷試験やMRI検査などが必要なことがあります。
特に男児は陰毛発育や成長異常などにより見つかることが多く、診断が遅れがちです。いろいろと検査をして原因を見極める必要があります。女子の場合は特発性で特定の原因がないことが多いです。原因により治療方法も異なります。
お子さんの思春期の時期を正確に判断するには成長曲線をつけることと、診察や検査が必要です。母子手帳、保育園・幼稚園~現在までの身長体重の記録(測定年月日と身長体重が数字でわかるもの)をできるだけ多く持参してください。成長曲線を作成します。」
「ゴナドトロピン依存性思春期早発症
中枢のゴナドトロピン放出ホルモン分泌亢進から始まるゴナドトロピン分泌促進を認めるもので、脳内の変化に起因する。
思春期の開始を決定する因子は未だ不明な点が多い。最近になって、GPR54, KISS1, MKRN3遺伝子の単独変異によるゴナドトロピン依存性思春期早発症例が報告された。
治療の目的は①原疾患があればその治療②成人身長低下の防止③精神的成熟と身体成熟の不均衡の是正である。」
思春期、ということは当時この病気だったということか。結構深刻な病気だ。この説明のとおりだとすると。先生の身長は本来ならもっと伸びるはずだったということか。確かに先生、あの世代の男性の平均身長よりどう見ても小さい。
検索してみると、平成2年度で14歳男子の平均身長が165cm、成人は170cmだ。このくらいの段階までに完全に成長が止まったということか。
でも、これが事件となにか関係あるんだろうか。
先生の小柄さからふと、昨日のことを思い出す。
あの細い腰に抱きついたおれをそっと押し返して引き剥がして、「今日は此処までだよ、ダメだよ、こんなこと人に言っちゃ」と言いながら、右の親指でおれの頬を撫でた。
触れられたときの感触が忘れられない。その「こんなこと」をしたのは先生なのに。言えないようなことしたのわかってるんじゃないか、本当に狡い。
そういえば、あのとき先生からしていたいい匂いが気になる。あれは何の匂いなんだろう。今までに嗅いだことのない感じの甘い匂いだった。
整髪料やなんかの「つけるもの」とか洗濯洗剤や香水とかの「身につけるもの」の「香らせるための匂い」とも違う匂い。
果物の匂いに似ている気もしたけど、似ている果物の名前がぱっと出てこない。
このままこの事件を調べ続けても、内容が内容なので、休日なのに滅入ってしまう気がする。
適当に食べて一旦洗濯回ししながら軽く掃除して、走りにでも出かけたほうがいいかもしれない。
戻ったら洗濯物を干して、そのあとはどうしようか。
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