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【2020/05 牢獄】
《第二週 木曜日 昼》
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「おまたせ、今日は助教くんと長谷くんはどうした?」
シフトをこなし、事務処理や記録を終わらせてなんとか昼休み終わる直前ギリギリに玲の仕事部屋に着いた。合鍵で部屋に入り、再び施錠する。
「今日は二人で多摩行ってもらったんだ、師匠のとこで実習があるから。おれは今日医療法人の会議があるし」
玲はカーテンを閉じて、服を脱いでソファの背凭れにかけると、裾を捲り上げ、変色した脇腹を指差した。
骨に触ってみると痛みがあるようだ。ヒビくらい入ってるのかもしれないがその箇所だとヒビ程度だと固定するまでもないし、そのうち治るからおとなしくしておけとしか言えない。
それに、昨晩の痕であれば今の時点で元気そうなら内臓は問題ない。
「自分だって医者なんだし、内出血なんか自分でヘパリンでもペルガレンでも塗って湿布でも貼っとけばいいのに。」
「ハルくん冷たい、会いたかったのに」
打撲、擦過傷、吸引性皮下出血、咬傷。
昔ほど酷くはないとはいえ、またこんなにも傷めつけられて。
淡々と処置していると、細い腕が伸びて、指がおれの肩を捉え引き寄せる。頬を寄せて凭れかかって甘えてきた。
「言っとくけど、今日はそういうことをするつもりはないからね」
「なんだ、つまんな」
言うと思った。
「アキくんがおれに会いたいって言うの、概ね不安とかイライラで落ち着かないからエロい事して忘れたいってだけでしょ、おれの都合とか気持ちは無視じゃん、いつだって。こないだだってさ」
恨みがましくお説教してみるものの、黙っておれに貼り付いて離れようとしない。これはもう、今日終わったら泊りに来るつもりだろう。
「うちに来るなら来てもいいけど、しないよ」
「なんで?」
「なんでも」
玲はシュンとなっておれから離れて、ソファの上で膝を抱えて座った。
「ハルくんのケチ」
「ケチで結構だよ。いいから、手当させてよ」
背凭れ側に回り込んで、傷になっているところや痕がついているところに薬を塗っていく。
「ハルくんは、おれと友達に戻りたいの?」
「アキくんは、友達に戻れると思うの?」
戻れる訳がない。お互いわかってる。
おれと玲は、玲がこの大学に入ってから、博論が終わって法医学に転向するまで一緒に暮らしていた。
住んでいたのは今おれが住んでいる部屋で、もとは玲が中学卒業後から暮らしていた親名義の1DKのマンションだ。
ある日突然、何の前触れもなく玲は出ていった。今の玲が住んでいるのは師匠がバブル時代に住んでいた物件で、おれは訪ねたことはない。
何故出ていったのかはいまも訊けていない。「別れよう」とは言われていないから、訊く必要がないと思っている。
但、おれたちの今の関係が何なのか、形容できる言葉がない。少なくとも友達ではない。
こんな生き方をしていたら、早晩、玲はそのうち破滅するだろう。
既に何度となくそういう危機的瞬間はあった。
もし次が来たら、おれはその時一緒に滅びたっていい。
玲がおれのことをどう思っているのかはわからない。
でも、おれからすれば、玲はおれのHomme Fataleだ。
「ハルくん、今日行っちゃダメ?明日準夜で週末また夜勤なんでしょ?」
「だから、いいよ、別に来たって。来てもいいけど、しないよ」
シフトをこなし、事務処理や記録を終わらせてなんとか昼休み終わる直前ギリギリに玲の仕事部屋に着いた。合鍵で部屋に入り、再び施錠する。
「今日は二人で多摩行ってもらったんだ、師匠のとこで実習があるから。おれは今日医療法人の会議があるし」
玲はカーテンを閉じて、服を脱いでソファの背凭れにかけると、裾を捲り上げ、変色した脇腹を指差した。
骨に触ってみると痛みがあるようだ。ヒビくらい入ってるのかもしれないがその箇所だとヒビ程度だと固定するまでもないし、そのうち治るからおとなしくしておけとしか言えない。
それに、昨晩の痕であれば今の時点で元気そうなら内臓は問題ない。
「自分だって医者なんだし、内出血なんか自分でヘパリンでもペルガレンでも塗って湿布でも貼っとけばいいのに。」
「ハルくん冷たい、会いたかったのに」
打撲、擦過傷、吸引性皮下出血、咬傷。
昔ほど酷くはないとはいえ、またこんなにも傷めつけられて。
淡々と処置していると、細い腕が伸びて、指がおれの肩を捉え引き寄せる。頬を寄せて凭れかかって甘えてきた。
「言っとくけど、今日はそういうことをするつもりはないからね」
「なんだ、つまんな」
言うと思った。
「アキくんがおれに会いたいって言うの、概ね不安とかイライラで落ち着かないからエロい事して忘れたいってだけでしょ、おれの都合とか気持ちは無視じゃん、いつだって。こないだだってさ」
恨みがましくお説教してみるものの、黙っておれに貼り付いて離れようとしない。これはもう、今日終わったら泊りに来るつもりだろう。
「うちに来るなら来てもいいけど、しないよ」
「なんで?」
「なんでも」
玲はシュンとなっておれから離れて、ソファの上で膝を抱えて座った。
「ハルくんのケチ」
「ケチで結構だよ。いいから、手当させてよ」
背凭れ側に回り込んで、傷になっているところや痕がついているところに薬を塗っていく。
「ハルくんは、おれと友達に戻りたいの?」
「アキくんは、友達に戻れると思うの?」
戻れる訳がない。お互いわかってる。
おれと玲は、玲がこの大学に入ってから、博論が終わって法医学に転向するまで一緒に暮らしていた。
住んでいたのは今おれが住んでいる部屋で、もとは玲が中学卒業後から暮らしていた親名義の1DKのマンションだ。
ある日突然、何の前触れもなく玲は出ていった。今の玲が住んでいるのは師匠がバブル時代に住んでいた物件で、おれは訪ねたことはない。
何故出ていったのかはいまも訊けていない。「別れよう」とは言われていないから、訊く必要がないと思っている。
但、おれたちの今の関係が何なのか、形容できる言葉がない。少なくとも友達ではない。
こんな生き方をしていたら、早晩、玲はそのうち破滅するだろう。
既に何度となくそういう危機的瞬間はあった。
もし次が来たら、おれはその時一緒に滅びたっていい。
玲がおれのことをどう思っているのかはわからない。
でも、おれからすれば、玲はおれのHomme Fataleだ。
「ハルくん、今日行っちゃダメ?明日準夜で週末また夜勤なんでしょ?」
「だから、いいよ、別に来たって。来てもいいけど、しないよ」
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