39 / 447
【2020/05 教育】
《第二週 火曜日 事後》
しおりを挟む風呂から出てシルクサテンの紺の寝間着を着てダイニングに行くと、6人掛けのダイニングの手前の左側の席で徳永が先に食事をとっていた。
「カレーうどんいいなー、ひとくちちょうだい」
横から覗き込むと手の甲で遮られる。
「お前食うの下手くそで汁撒き散らすからダメ」
口を尖らせていると、ユカが「玲さんは文鷹さんの斜め向かいにおかけください、すぐ用意しますので」と後ろから襟首を摘んで誘導しようとする。
「ユカさん待って、わかったから、首」
冷静且つ丁寧でソツがないように見えて、中々大胆だと思う。そうじゃなきゃこの家の使用人なんか務まらないか。
とりあえず離してもらい、指示されたとおり斜め向かいの位置に座って、食事が出てくるのを待つ。ダイニングからソファを挟んで更に向こう側のリビングからは街の灯りが見える。自宅周辺とは違って、周りは暗く、都心のきらびやかな夜景が遠目に見える。
暫くすると、中華粥と付け合せの揚げジャコ搾菜、とろみがついた豆腐のすまし汁、干し椎茸や蕗や人参が入った煮物の小鉢が出てきた。傍らに水の入ったピッチャーとグラス、竹の割箸と木の匙が置かれる。
「無理せず、食べられるだけ召し上がってください」
そう言うとユカは同じものを御盆に乗せ、征谷の部屋に向かった。
付け合せでついていた揚げジャコをかけて、匙を手にとって粥を少しずつ口に運び入れて味わっていると、食べ終わった徳永が頬杖をついてこちらをじっと見ていた。
「ひとくちほしくなった?」
「そんなに物欲しそうに見えるか?」
思わず鼻で笑ってしまった。
食事はどれもあっさりはしているが旨味が効いていておいしい。此処で出されるのは柔らかいものだけで、肉類や形のある魚は食べないのを知っているので出ない。安心して食べられる。
「おれ、風呂入るから」
静かに席を立ち、使った食器類をシンクに置き、軽く流してから徳永は出ていった。
普段は人を食った態度で煽るくせに、時々いたずらっぽく甘えてくる。そして、ひとり何かしている姿を見ていると、何気ない顔が寂しげに見える。
藤川玲はそういうところがある。掴みどころがなく、一対一になると正直何を話していいのかわからない。
ジャケットを脱いでハンガーに掛け、腰回りに下げていたあれこれを外して、クローゼットに仕舞う。中に用意されている寝間着とタオルを持って洗面所に向かった。
奴がつかった道具をユカが片付けている。
「浴槽のお湯、冷めてると思うんでシャワーのほうがいいかもしれません」
もともと浸かるつもりはなかったのでそれでいいと答え、浴室内で服を脱いで、ドア前に放る。拾い上げて畳んで、下着や靴下は洗濯機に入れタイマーをセットし、ユカが出ていった。
改装したばかりの設備は使い勝手がよく、すぐに温かい湯が出る。酷く汗をかいたので早々に頭から浴びる。壁面に埋め込まれている棚から紫のシャンプーを取り出し、髪を泡立てていると扉の向こうから声がした。
「ふみ、おれ、先に寝てる」とだけ言い残し、まもなく気配は消えた。
その声の裏にあの寂しげな顔が思い浮かぶ。
奴に情けをかけたって、いいこと無いのに。
そんなことわかってるのに。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる