Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 教育】

《第二週 火曜日 事後》

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風呂から出てシルクサテンの紺の寝間着を着てダイニングに行くと、6人掛けのダイニングの手前の左側の席で徳永が先に食事をとっていた。
「カレーうどんいいなー、ひとくちちょうだい」
横から覗き込むと手の甲で遮られる。
「お前食うの下手くそで汁撒き散らすからダメ」
口を尖らせていると、ユカが「玲さんは文鷹さんの斜め向かいにおかけください、すぐ用意しますので」と後ろから襟首を摘んで誘導しようとする。
「ユカさん待って、わかったから、首」
冷静且つ丁寧でソツがないように見えて、中々大胆だと思う。そうじゃなきゃこの家の使用人なんか務まらないか。
とりあえず離してもらい、指示されたとおり斜め向かいの位置に座って、食事が出てくるのを待つ。ダイニングからソファを挟んで更に向こう側のリビングからは街の灯りが見える。自宅周辺とは違って、周りは暗く、都心のきらびやかな夜景が遠目に見える。
暫くすると、中華粥と付け合せの揚げジャコ搾菜、とろみがついた豆腐のすまし汁、干し椎茸や蕗や人参が入った煮物の小鉢が出てきた。傍らに水の入ったピッチャーとグラス、竹の割箸と木の匙が置かれる。
「無理せず、食べられるだけ召し上がってください」
そう言うとユカは同じものを御盆に乗せ、征谷の部屋に向かった。
付け合せでついていた揚げジャコをかけて、匙を手にとって粥を少しずつ口に運び入れて味わっていると、食べ終わった徳永が頬杖をついてこちらをじっと見ていた。
「ひとくちほしくなった?」
「そんなに物欲しそうに見えるか?」
思わず鼻で笑ってしまった。
食事はどれもあっさりはしているが旨味が効いていておいしい。此処で出されるのは柔らかいものだけで、肉類や形のある魚は食べないのを知っているので出ない。安心して食べられる。
「おれ、風呂入るから」
静かに席を立ち、使った食器類をシンクに置き、軽く流してから徳永は出ていった。

普段は人を食った態度で煽るくせに、時々いたずらっぽく甘えてくる。そして、ひとり何かしている姿を見ていると、何気ない顔が寂しげに見える。
藤川玲はそういうところがある。掴みどころがなく、一対一になると正直何を話していいのかわからない。
ジャケットを脱いでハンガーに掛け、腰回りに下げていたあれこれを外して、クローゼットに仕舞う。中に用意されている寝間着とタオルを持って洗面所に向かった。
奴がつかった道具をユカが片付けている。
「浴槽のお湯、冷めてると思うんでシャワーのほうがいいかもしれません」
もともと浸かるつもりはなかったのでそれでいいと答え、浴室内で服を脱いで、ドア前に放る。拾い上げて畳んで、下着や靴下は洗濯機に入れタイマーをセットし、ユカが出ていった。
改装したばかりの設備は使い勝手がよく、すぐに温かい湯が出る。酷く汗をかいたので早々に頭から浴びる。壁面に埋め込まれている棚から紫のシャンプーを取り出し、髪を泡立てていると扉の向こうから声がした。
「ふみ、おれ、先に寝てる」とだけ言い残し、まもなく気配は消えた。
その声の裏にあの寂しげな顔が思い浮かぶ。
奴に情けをかけたって、いいこと無いのに。
そんなことわかってるのに。
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