Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 教育】

《第2週 火曜日 朝》

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「おはようございます、すみません、先生のお部屋開いてないんですが…」
小曽川さんは自室でBluetoothスピーカーから音楽を流しながら何やらパソコンで英文の書類を作成していた。
「あ、おはようございます、監察医務院行ってその後実家の病院の会議出るから長谷くん来たら関連の授受けて、暇だったら他の講義も見学してきていいよって言ってましたよ。今日は戻ってこないかもですねえ」
そう言って渡されたプリントには今日行われる関連の法医学専攻の必須授業が書いてあった。
午前は2限の創傷学。こちらのキャンパスで直接受けられるらしい。
「あ、そうだ。先生まだ長谷くんに連絡先教えてないですかね?名刺ってもらいました?」
昨日受け取ったものがシャツの胸ポケットに入ったままだった。差し出すと先生の携帯の番号とLINEのIDを小さく書いてくれた。
「これ仕事用のガラホのほうなんで、おれから教えてもらったって言って差し支えないですよ」
「ありがとうございます」
電話番号は早速電話帳に登録し、一言送っておく。
「おはようございます、長谷です。小曽川さんから電話番号教えていただきました。」
思ったより早く返信が来た。
「了解です。こちらも登録しときます。尚、急ですが午後からでいいので監察医務院に来てください。」
地図のURLが別途送られてきた。
住所は文京区大塚四丁目21番18号。
更に移動経路が画像で送られて来る。
仕事が早い。
「小曽川さん、先生に呼ばれたので午後から監察医務院行ってきます。」
「あ、じゃあですねえ、交通費経費にできるからこのSuica使ってください、チャージしたら領収書取っておいてくださいね」
袖机の引き出しから出した、深緑色のパスケースに入ったSuicaを渡される。
「2限までって何したらいいですかね」
「ん~、多分刑事さんとか鑑識さんって外傷の見分け方とか書いてある小さい冊子もらってると思うんですけど、その監修に大石先生も関わってたはずなんで読んどくといいんじゃないですかねえ」
鞄の中を漁り、該当の文庫本サイズの冊子を取り出す。
奥付にある監修者の名前を確認すると、『専任教授(救急医学領域)/救急救命センター主任 大石悠』とあった。
正直、朝イチで先生に会わずに済んだのは有難かった。
先生の姓を悪用した上で、先生のこと、身体とか性癖を勝手に想像して、来てくれたキャストに勝手に転移して、めちゃくちゃに何度も抱いたので、罪悪感が酷い。
そして、一回そういうことをして発散したら当面大丈夫だろうと思ったが全くそんなこともなく、今も頭の奥から生々しい感触と残像が消えない。
あと、あの首筋の痕が、今日はどうなっているのか。他にも見えないところに痕がついてたりしないんだろうかとか妄執が止まらない。
こんな状態で会って、本当に大丈夫なのか。
こんな状態で何事もなくこの見学期間全うできるんだろうか。
モヤモヤと考えながら2限前の休み時間、指定された教室に移動した。

まだ誰もいない教室で黙々とスーツ姿で均整の取れた体型の男性が準備をしている。
グレイヘアで助手さん助教さんにしては年上に見える。トップの髪を後ろで軽くまとめ、あとは後ろに流している。
一重だが目は大きく、鼻筋が通り、口元が凛々しい。膚の感じからは40代前半くらいに見えた。
「あの、すみません、高輪署から藤川先生のところに見学で来ている長谷と申します、参加したいのですが」
「あぁ玲のとこの」
目を細めて、皺を寄せて笑った。
「好きなとこ座っていいよ、きみ、グロ画像とか平気な人?」
「あ、割と大丈夫だと思います」
藤川先生の授業と同じように教卓の傍に座った。
「昨日が初日だっけ、どうだった」
「思ったよりまだ藤川先生とは話せてないです、授業は普通だったと思います」
首筋の痕のことは言わなくていいよな?
てか、この人、何者だろう。
「玲のことでなんかあったら、おれか小曽川に頼ればいいよ。付き合い長いから」
「お気遣いありがとうございます…てか、あの、お名前お伺いしてもよろしいですか」
「創傷学の担当の大石です」
あぁ、この人がそうなのか。
では藤川先生とは同じ歳くらいなのだろう。
「きみ、玲のこと、知りたいんじゃない」
「え」
ヒヤリとしたものが心臓に流れ込む感じがした。
「なんとなくだよ、でもやめた方がいい」
「それは、何故ですか」
声に動揺が出てしまう。大石先生にもそれが伝わっているのがわかる。
「そのうちわかるよ、多分ね」
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