Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 邂逅】

《第2週 月曜日 昼前》①

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今日の昼前、突然昔馴染みから「手伝ってほしい」とメッセージが入った。
救急救命センターの宿直明け。しかも感染症対応が複数あり、前日から帰れず泊まり込みだった。記録や事務処理を終えてようやっと帰れるとなったところでお呼び出しだ。
しかし明日の休みは古巣で創傷学の講義があり、準備が必要、返却する課題の採点もあるという状況。正直、早く帰って寝て取り掛かりたい。
だが、もし自分が断ったら、その先どうなるか考えると、無視して帰ることはできない。
トーク画面を開き、通話ボタンを押すと息を吐いて苛立ちを押し殺すように呟く声がした。
「…ハルくん、返事遅い」
今更「手伝う?何を?」なんて聞き返す必要もない関係。昔馴染みといえばなんてことはない無難な関係のようだが、そうではない。
返事する間もなく通話は切れた。拒否権なんて、端から無い。
「じゃあ切るから、着いたら連絡して」
附属病院から大学の校舎に移動したところでもう一度通話ボタンを押したが反応がない。
奴の研究室のある建物の前でメッセージを送った。

「一階に着いた」とスマートフォンに通知が入った。
白衣を脱いで、ハンガーに掛け、スチール製の本棚のダボ穴にひっかけたS字フックに釣った。
ソファの下に隠した蓋付きの引き出しから、バスタオル数枚と蓋付きの白いレトルトパウチ、アズレン末の包装、キシロカインゼリー、イソプレンラバーのグローブとコンドーム等々を出してソファ前のカフェテーブルに並べていると、硬い革のソールの音が近づいてくる。
やがて、外から鍵を開ける音がした。
「おれが明けでラッキーだったね」
声の主、通話中”ハルくん”と呼ばれていた人物は、音を立てないようそっとドアを閉め、後ろ手で施錠し直して、音もなく少しずつ近づいてきて、爪先が触れる一歩前で止まった。
ソファの端、ドア近いところに雑に深く座ったまま見上げる。
現場仕事上がりだけにグレイヘアになりかかった肩までの髪は後頭部中心に小さく丸めてあるが、サイドが少し崩れて下りている。
ボタンホールを紺色に篝り、合わせの縁を同じ紺色でパイピングされたシャツを着て、ライトグレーのスラックス。靴も紺色。
体型は年齢の割に引き締まって程よく筋肉量がある。
顔立ちは薄く、目立ったパーツもなく、地味だが凛として整っている。
膚の肌理が歳相応に粗くなったくらいで、あまり中学校で出会ってから変わっていない。
同世代の男性に較べ服装が洒落ているくらい。
腕組みをして冷たい目で上から見下ろしたまま問い詰められる。表情自体は穏やかに落ち着いているが、目は笑っていない。
「①誰かと別れた②誰か好きになった③過去を引きずり出されるような出来事があった、今回はどれなのかな?」
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