13 / 447
【2020/05 邂逅】
《第2週 月曜日 夜》①
しおりを挟む
《第2週 月曜日 夜》
あの二人を引き合わせたのにはそれなりの理由がある。
法医学教室なんて都内なら郊外まで含めてそれなりに数もあるし、当然頼れる宛もある。何なら監察医務院がある、別に法医学教室があるところに拘る必要すらない。もっと名も位もある人間だって居るだろう。
藤川は既に気がついている筈だ。そろそろ人払いして探りを進めている頃だろう。
そして長谷も藤川の狂気に気がついている筈。
あの二人は。
片や、愛されて育った故か恐ろしく勘のいい人たらし。
反面、欲しいものは手に入れないと気が済まないたち。
片や、この世の誰のことも、神も仏も、己さえも信じない厭世主義者。
反面、承認や賞賛にひどく飢えている。
死ねなかった代償なのか。
長谷は社会的に死ぬことが許されなかった。
藤川は物理的に死ぬことが許されなかった。
二人して、同じような過ちを繰り返しながら、人を盾にしてうまく取り繕って生きている。コインの表と裏だ。
緩慢な自殺を、或いは不慮の事態を誘い、誰かに己を狙わせ、自らを追い詰めるような生き方。あまりにも似すぎている。
このままいけばいつかどちらも社会的に破滅するか、心身を記憶に蝕まれて病み続け、唐突に終わるだろう。
何の因果でこんなことに。これが宿痾というものなのか。
亡くなる数日前の生気のなくなった長谷の父親が漏らした言葉が脳裏から消えない。
「あの子おれの死をくれてやりたい」
自分が死の縁から助け上げたせいで苦しんでいるなら、死なせてやりたいと。
そうすれば、おれは倅とやり直せる、彼は死に直せると。
当然、そんな都合の良い奇跡は起きなかった。
但、何の巡り合わせか、今になって奴の倅が自分のもとに来てしまった。
その時おれには敢えて引き合わせるという最悪の選択以外、考えられなかった。
理由?そんなもの、有って無いようなものだ。
帰りの道すがら、イヤホンで音楽を聴きながら歩いていると、ふと、小曽川さんが授業の前に「今日は実習ないですよ、体力もちませんもん」と言っていたのを思い出した。
でも肩書から考えるに、普段は授業以外にも剖検したり、手続きの書面を作ったり記録を作成したり、研究したり、監察医務院に呼ばれたりしつつ、医療法人で役員なんかもしてるわけで。
実は滅茶苦茶ハードな生活なのでは。
目の下に陰というか隈というか、疲れが滲んでいるのはそのせいだろう。
それに加え、食事はしないとか、どうやって生命維持してるんだろうか。
即身仏でも目指してるようだ。
品川駅からの余裕で歩いて帰れる道程の途中で、今日一日のあれこれを思い出す。
サブリミナルのように、首筋の痕を見せる仕草、指を立てて口止めする仕草が瞼の裏にちらつく。徐々に、冷静に淡々と歩くのが無理になってきて、ウェブから自宅最寄り駅の前にあるビジネスホテルを予約した。
あの二人を引き合わせたのにはそれなりの理由がある。
法医学教室なんて都内なら郊外まで含めてそれなりに数もあるし、当然頼れる宛もある。何なら監察医務院がある、別に法医学教室があるところに拘る必要すらない。もっと名も位もある人間だって居るだろう。
藤川は既に気がついている筈だ。そろそろ人払いして探りを進めている頃だろう。
そして長谷も藤川の狂気に気がついている筈。
あの二人は。
片や、愛されて育った故か恐ろしく勘のいい人たらし。
反面、欲しいものは手に入れないと気が済まないたち。
片や、この世の誰のことも、神も仏も、己さえも信じない厭世主義者。
反面、承認や賞賛にひどく飢えている。
死ねなかった代償なのか。
長谷は社会的に死ぬことが許されなかった。
藤川は物理的に死ぬことが許されなかった。
二人して、同じような過ちを繰り返しながら、人を盾にしてうまく取り繕って生きている。コインの表と裏だ。
緩慢な自殺を、或いは不慮の事態を誘い、誰かに己を狙わせ、自らを追い詰めるような生き方。あまりにも似すぎている。
このままいけばいつかどちらも社会的に破滅するか、心身を記憶に蝕まれて病み続け、唐突に終わるだろう。
何の因果でこんなことに。これが宿痾というものなのか。
亡くなる数日前の生気のなくなった長谷の父親が漏らした言葉が脳裏から消えない。
「あの子おれの死をくれてやりたい」
自分が死の縁から助け上げたせいで苦しんでいるなら、死なせてやりたいと。
そうすれば、おれは倅とやり直せる、彼は死に直せると。
当然、そんな都合の良い奇跡は起きなかった。
但、何の巡り合わせか、今になって奴の倅が自分のもとに来てしまった。
その時おれには敢えて引き合わせるという最悪の選択以外、考えられなかった。
理由?そんなもの、有って無いようなものだ。
帰りの道すがら、イヤホンで音楽を聴きながら歩いていると、ふと、小曽川さんが授業の前に「今日は実習ないですよ、体力もちませんもん」と言っていたのを思い出した。
でも肩書から考えるに、普段は授業以外にも剖検したり、手続きの書面を作ったり記録を作成したり、研究したり、監察医務院に呼ばれたりしつつ、医療法人で役員なんかもしてるわけで。
実は滅茶苦茶ハードな生活なのでは。
目の下に陰というか隈というか、疲れが滲んでいるのはそのせいだろう。
それに加え、食事はしないとか、どうやって生命維持してるんだろうか。
即身仏でも目指してるようだ。
品川駅からの余裕で歩いて帰れる道程の途中で、今日一日のあれこれを思い出す。
サブリミナルのように、首筋の痕を見せる仕草、指を立てて口止めする仕草が瞼の裏にちらつく。徐々に、冷静に淡々と歩くのが無理になってきて、ウェブから自宅最寄り駅の前にあるビジネスホテルを予約した。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる