Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
上 下
8 / 447
【2020/05 邂逅】

《第2週 月曜日 昼》②

しおりを挟む
「ここ、日当たりも良くて気持ちいいですね、あとで藤川先生もお昼かお茶に誘おうかなぁ」
ガラス張りのカフェテリアには、風に揺れる新緑も眩しい木々の合間から春の終わりの暖かい光が差し込んでいる。
「や、多分難しいと思うなあ…あの人、本当に仕事最優先だし、基本何も食べないから」
事も無げに言うのを聞き、耳を疑った。
「食べないってどういうことですか?」
「まんまですよ、食べないんです、あの人」
自分のために買ったチルドのカフェラテのカップに刺したストローを、無意識におれは噛み潰していた。

入口の引き戸に鍵をかけて、焦茶色の裏にコーティングが施されたカーテンを閉めた。ミラーレースカーテンが掛かっているので外から見えないことはわかっているが、閉めておかないとなんとなく落ち着かない。
入口傍の戸棚から白い半透明の箱を出し、
順に並べる。処方薬が入ったもの、市販薬が入った箱、サプリメントが入ったもの、使い切りサイズのプロテインと完全栄養食の粉、シェイカーが入った箱。
必要なものを用法容量を確認してステンレスの膿盆に出し、プロテインと完全栄養食は一緒くたにシェイカーに入れて無糖のミルクティを注いで振り混ぜた。
2、3回に分けて錠剤を口に放り込み、シェイカーから液状のものを吸い上げて強引に流した。
まともに食事を取らなくなってから10年近い。見つかって口出しされるのが嫌で、補給時には絶対に人を入れないようにしている。助教にすらここの鍵だけは渡していない。

前後不覚になるほど何かに耽溺している時間以外、何もかも面倒で、食べたり出したりだってしなくていいなら早くそうなりたい。
絶対的な快楽だけがほしい。それ以外何もわからなくなりたい。早くめちゃくちゃになりたい。消えたい。
全て摂取しきって、自費で取り付けた自動洗浄の洗面台で容器を洗い流す。ああ、そうだ。入室したら手洗い消毒うがいはするように伝えなかった、言わなくては。

戸棚に出したものを片付けて机に戻ると、スマートフォンに通知が入っていた。助教から「長谷くん連れて戻ります」とショートメールが来ている。
「わかりました」とだけ返信した。
机上に伏せてあった小さい手鏡で首周りが見えていないか確認してから、鍵を解いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

甥の性奴隷に堕ちた叔父さま

月歌(ツキウタ)
BL
甥の性奴隷として叔父が色々される話

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

処理中です...