Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 邂逅】

《第2週 月曜日 朝》②

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ゆっくりと引き戸が開き、全容が見える。首元から足の先まで黒衣で覆い、その上からレディースと思われる合わせが逆の白衣を羽織った状態で、その人は立っていた。背は見るからに平均より小さく、体型もかなり華奢だ。
43歳とウェブサイトにはあったはずだが、とてもそうは見えなかった。髭や剃り跡は見当たらず膚も肌理が細かく滑らかで、やはり四十代男性のそれとは思えない。
但、画面上で見たときとは顔立ちも違って見えたので、「あれ、こんな顔だったっけ?」と思った。
目はカーブのゆるい二重、上下とも睫毛が長く、少し目尻が下がっていて微妙に瞼が降りているようにも見え、妙に色っぽい。瞳に睫毛の影がかかり眠そうで、
目の下には薄っすらと隈があり、相応に顔に疲れが滲んでいる。
唇はやや薄く輪郭が不明瞭ながら色がくすんでおらず、小鼻も小さい。えらく整った顔だった。口角は歳のせいか疲れからか少し長くやや下がっているものの機嫌が悪い様子はない。
「あぁ、そうだ先生、やっぱり在室中にカーテン閉じっぱなしにしたり、ドアに施錠してしまうのはできればやめてくださいね」
「はいはい、善処しますね、お疲れ様です」
”困ったなあ”という顔で苦笑いを浮かべて職員の男性がエレベーターホールに去っていくのを見届けてから、「どうぞ」と招き入れてくれた。
引き戸は取っ手を離すと音もなくゆっくりと閉じていく。
「おれが来るより少し早めに時間指定したのに来てないから、もしかしてあっち行ったかと思った、教務に連絡してよかった」
先生はポケットから紺色の革の名刺入れを出して、一枚取り出して差し出した。
「藤川です、長谷久秀くんようこそ。よろしく」
その時の左手の動作が、少し気になった。
名刺入れを開ける為に押さえに使った指は親指から中指の三指。薬指と小指は伸ばしたままで動かなかった。
「あのさ、こうやって単独で見学に寄越すことってあまり無いんだけど、きみ、もしかしてめちゃくちゃ優秀で期待されてたりするんじゃないの」
こちらからも名刺を差し出すと、右手を出して受け取った。親指から中指の三指を使い、薬指と小指は折り曲げた状態だった。
おそらく、左手の薬指小指が動かせないのは間違いなさそうだ。なかなか不便な状態じゃないだろうか。
「いやぁ、そんなことないですよ。中途の鑑識官の募集かかったのかなり久々らしいんで単に受かったのが自分しかいないのかもですし」
そう答えるとちょっと微笑んで「ま、いいけどね」と呟いてから、先生は壁際のデスクに向かった。
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