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【2020/04 回帰】
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「一昨年の警視庁の鑑識官登用試験に合格し、昨年度の専門課程を経て本日より高輪署に配属になりました、長谷久秀と申します。父の英明の存命中には、大変お世話になりました。一部の方はご存知かとは思いますが、何分父の足下には遠く及ばぬ不束者ですので、何卒、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。」
朝礼で、辞令が読み上げられ、訓辞を受け、今後差し障りの無いよう出来るだけ丁寧に挨拶をして、所属の課に入った。
「長谷、っていうとアイツ呼ぶみたいでなんか変な気分だな。」とボヤいて、飯野さんが笑う。
「長谷、ちょっと来な。提案があるんだ」
窓の前の、机上に”課長”と明記された札の立つデスクに近づくと、鑑識官として必要な書籍やプリントの束が積まれており、更にその上には封筒に入れられた文書があった。
「付き合いのある解剖医にもし新人が来たら暫く見学させてもらえないか打診してたんだが、なんとかOKが出たんだよ、そいつについていれば監察医務院での行政解剖と医大の法医学教室で司法解剖、両方見れるけどどうだ?自ら志願したくらいなら興味あるだろ」
父のお陰もあるだろうが、あまりにも幸先が良すぎないか?
そうは思いつつも二つ返事で有難く受けることにした。
「ちなみにソイツ、そこの准教授なんだけどさ、今は医大の教員と監察医務院の臨時でやってるけど元々が東大の出でガチの研究者でな、現職の教授の後釜候補なんだよ。実家の病院の役員もやってるから多忙だし、本人はどう思ってるか知らんけど、実際港区一帯とか監察医務院でおかしな事案あるとソイツの名前が真っ先に上がるくらいだから、勉強にはなると思うんだ…但、なあ…」
最後の1センテンスだけ間をおいて、溜息混じり気味にボヤく。
「ちょっと変わってるんだよな…」
様子を窺うようにおれの顔をじっと見る。
「大丈夫ですよ、できる人ってどっかしらおかしいのデフォだと思ってますし。そもそも、おれも決して真っ当な人間ではありませんから」
誇張も謙遜もせず答えると、「お前、人当たりがいいというか、人たらしっぽいしな」と言い当てられた。
「まあ、そうなんですよね。そうじゃなかったらここまで残れてなかったかもしれないですし…まあ逆にこんなんじゃなかったらあんなことにならなかっただろうなと思うこともありますけど」
正直、この性質には良くも悪くも振り回されてはいるのだけれど。
「じゃあ週明けから行けるように準備しとくから、それまでは班の指示で座学研修受けて待っててくれ。…あ」
指示の途中で不自然に話が止まる。
「ソイツ、お前と父親のこと、多分知ってるよ」
仕事上の付き合いのことだから言わなかっただけかもしれないが、少なくとも父からもそんな知り合いがいるとは聞いたことがない。おれ自身も知らない。
「そうなんですね、じゃあ行ったらちょっと訊いてみます」
無難に答えたつもりだった。しかし飯野さんの表情が急に硬くなる。
「や、それはやめておいたほうがいいと思う」
「何故ですか」
「今のはおれが悪い、一旦忘れてくれ」
その後、何度も遣り取りはしたものの、飯野さんから再度その話が出ることはなかった。
朝礼で、辞令が読み上げられ、訓辞を受け、今後差し障りの無いよう出来るだけ丁寧に挨拶をして、所属の課に入った。
「長谷、っていうとアイツ呼ぶみたいでなんか変な気分だな。」とボヤいて、飯野さんが笑う。
「長谷、ちょっと来な。提案があるんだ」
窓の前の、机上に”課長”と明記された札の立つデスクに近づくと、鑑識官として必要な書籍やプリントの束が積まれており、更にその上には封筒に入れられた文書があった。
「付き合いのある解剖医にもし新人が来たら暫く見学させてもらえないか打診してたんだが、なんとかOKが出たんだよ、そいつについていれば監察医務院での行政解剖と医大の法医学教室で司法解剖、両方見れるけどどうだ?自ら志願したくらいなら興味あるだろ」
父のお陰もあるだろうが、あまりにも幸先が良すぎないか?
そうは思いつつも二つ返事で有難く受けることにした。
「ちなみにソイツ、そこの准教授なんだけどさ、今は医大の教員と監察医務院の臨時でやってるけど元々が東大の出でガチの研究者でな、現職の教授の後釜候補なんだよ。実家の病院の役員もやってるから多忙だし、本人はどう思ってるか知らんけど、実際港区一帯とか監察医務院でおかしな事案あるとソイツの名前が真っ先に上がるくらいだから、勉強にはなると思うんだ…但、なあ…」
最後の1センテンスだけ間をおいて、溜息混じり気味にボヤく。
「ちょっと変わってるんだよな…」
様子を窺うようにおれの顔をじっと見る。
「大丈夫ですよ、できる人ってどっかしらおかしいのデフォだと思ってますし。そもそも、おれも決して真っ当な人間ではありませんから」
誇張も謙遜もせず答えると、「お前、人当たりがいいというか、人たらしっぽいしな」と言い当てられた。
「まあ、そうなんですよね。そうじゃなかったらここまで残れてなかったかもしれないですし…まあ逆にこんなんじゃなかったらあんなことにならなかっただろうなと思うこともありますけど」
正直、この性質には良くも悪くも振り回されてはいるのだけれど。
「じゃあ週明けから行けるように準備しとくから、それまでは班の指示で座学研修受けて待っててくれ。…あ」
指示の途中で不自然に話が止まる。
「ソイツ、お前と父親のこと、多分知ってるよ」
仕事上の付き合いのことだから言わなかっただけかもしれないが、少なくとも父からもそんな知り合いがいるとは聞いたことがない。おれ自身も知らない。
「そうなんですね、じゃあ行ったらちょっと訊いてみます」
無難に答えたつもりだった。しかし飯野さんの表情が急に硬くなる。
「や、それはやめておいたほうがいいと思う」
「何故ですか」
「今のはおれが悪い、一旦忘れてくれ」
その後、何度も遣り取りはしたものの、飯野さんから再度その話が出ることはなかった。
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