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番外編
【閑話】初めての気持ち
しおりを挟む⚠第7話【失楽園】読後推奨です⚠
モノクロで統一された必要最低限な家具しかない質素な部屋の中で、悠介は瞼を閉じていた。
シンプルなベッドの上であぐらをかき、胸の前で腕を組んで、眉間にシワを寄せた険しい形相で唸っている。傍らには、トーク画面が映ったスマホが放り出されており、途中まで打ち込んだメッセージが表示されていた。
悠介は、カッと両目を見開いて、勢いよくスマホを掴んだ。前のめりになりながら続きを打ち込んでいき、あとは送信ボタンを押すだけ……と思いきや、せっかく書き上げた文章を消去し始めた。
「……っ駄目だあ! どうやって話しかけたらいいのか、わかんねえ……」
ガシガシと頭をかき、両手を広げて大の字に寝転ぶ。かれこれ二時間以上はずっとこんな調子だ。
「いきなり話しかけて怖がらせるわけにはいかねぇし……どうすりゃいいんだ」
盛大にため息をつく。
連絡先を手に入れたのはいいが、よくよく考えれば彼のことを何一つ知らなかった。趣味や好物など、何か話題があればきっかけができるのだが、残念なことにこれっぽっちも思い浮かばない。今までろくに会話をしたことがなく、共通の友人もいないため、彼に関する情報が乏しかった。
強いて言えば――
「……歌」
ぽつりと呟く。
「あぁでも、隠したがってたな……」
廊下で詰め寄った時、微かに首を振って口を閉ざしていた。それに、歌のことを知られるのを恐れている様子だった。
そんな彼に『お前、歌好きなのか? 屋上で見かけたときからずっと気になってたんだよ。身体細いのによくあんな声出せるよな。秘密の特訓でもしてんのか?』なんて台詞をストレートにぶっこんだ日には、あの時みたいに逃げられてしまうだろう。
最悪の場合、アプリのアカウントをブロックされかねない。
「百瀬が興味ない話題振っても、困らせるだけだし………」
さながら、初めてできた恋人との会話に悩む学生みたいだ。
直接本人に話しかけてもいいが、休み時間は常に誰かしら自分の傍にいるし、彼も彼で昼休みは必ずどこかに行ってしまうから、なかなか捕まらない。
それに、みんながいる教室で声をかけるのはなるべく避けたほうがいいだろう。目立ちたくないだろうし、自分も彼のことで他の奴に突っ込まれるのは困る。
「うーん、どうしよう……」
***
そして、最終的に導き出した答えというのが――屋上での待ち伏せだ。
――ストーカーかよ。我ながら引くなあ……。
ハハ、と渇いた笑いが漏れる。ここなら、誰にも邪魔されずに二人で話ができるだろう。
俺って、こんな不器用だったっけ?
苦笑しながら屋上の柵にもたれかかる。何でもそつなくこなしてきたが、こんなに自分を悩ませたのは彼が初めてだ。
今まで培ってきた会話術が通用しない彼を攻略するには、警戒されないように少しずつ外堀を埋めて近づくしかない。こうまでして相手のことを知りたいと思ったのは、彼だけだ。
「まったく、とんだ奴に引っかかっちまったな……」
彼の姿を景色に重ね、唇の端を緩める。
――いつか、歌だけじゃなく百瀬自身のことも色々と知りたいな
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