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真実の愛とはいくつも存在するものなのか?
30.アランの役目
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「最高の人選……」
フェリアは小さく呟いた。
「アランは、マクドエルの子だ。マクドエルは長年に渡り、王家の影を務めてきた。グリーフィルドが王家の財政を担うように、マクドエルも影を担う家。
アランも幼少期から影としての訓練を受けていた」
王太子の声は淡々と説明を続ける。
本来ならこのことはフェリアが侯爵を継いだ後に知らされる事柄であること、グリーフィルドにフェリアしか生まれず、婿を取ることになった際、王家を含む秘密を共有する貴族たちで、アランが婿として選定されたこと。
この婚約が壊れることは、国として混乱を招くため、フェリアにはことを明らかにすることが許され、王太子が説明をすることになったこと。
「アランには、学園に入ってから内偵を必要とする家の娘に近づいて、情報を引き出す役目を負ってもらっていた。その点では、フェリア嬢には申し訳なかったと思っている。
アランの意志ではない。全ては王家からの指示だったのだ。私には、王位を継ぐ前に実績が必要でね。自分の代になった時、排除しておきたい家が幾つかあったのだ。そのためにアランを利用した」
フェリアは薄々感じていたアランへの違和感を確かなものだったと理解した。
問題児ばかりを相手に選んでいたのも、アランの好みの問題ではなかった。王家から指示をされた相手に近づき、懐に入り情報を引き出す。それがアランの仕事だった。
「それをわたくしにお伝えになるのは、どういう目的がおありなのでしょうか」
「アランに猶予をやって欲しい」
「猶予、ですか?」
「そうだ。アランは今まで、君の前ではその片鱗は見せないようにしてきたはずだ。それは私の指示でもあったし、彼の意志でもあった。君に、この闇には触れさせない、それがアランがこの仕事を請け負う時に出した条件だったからね。
でも、今回、ヨーク子爵令嬢に近づいたとき、アランはその制約を破った。もともと、フェリア嬢が学園に入学し、アランが卒業するまでの一年は、仕事はしたくないというのがアランの希望だったが、それを私が押し切ってしまったからね。反抗されてしまったんだよ。
普段は見せない仕事の一片を、君の前でアランはわざと見せた。
君は当然、不快になるよね。そして、今までは噂では聞くのに、自分の前では完璧だった婚約者の違う行動に疑問を抱くよね。それがアランの目的だった。
小さな亀裂はやがて大きくなって、国を揺るがす。そうして、アランはこの婚約が破棄になることを望まない王家に、選択を迫ったんだ」
フェリアは小さく息を呑んだ。シルヴェスターの言うことが本当ならば、アランは王族に対し脅しに近いことをしたことになる。
「君をね、国は失うわけにはいかなかった。グリーフィルドの代わりはいない。
アランもそれは知っている。だからこそ、このままだとこの婚約が壊れる、と示して見せた。
アランはいずれはグリーフィルドに入る者。そこを理解して、早めに手を引いておけばよかったんだが、私は愚かだった。
アランの優秀さを、手放すことが出来なかった。アランの兄のヘンリーからは何度も、安易な方法を取るなと言われていたにもかかわらず、だ」
そういうとシルヴェスターは眉を下げて苦笑した。王太子はフェリアにとっては敬うべき王族であり、人としてというよりは、象徴として見ていた部分が強かった。
だから、そんな年相応の青年の顔をするシルヴェスターの貴重な姿を見て、フェリアは顔を綻ばせた。
「…… マクドエル伯爵令息の仕事を理解し、赦せとおっしゃるのですね」
「申し訳ない。私に免じて、赦してやって欲しい。そして、アランの言葉を聞いてやって欲しい。
ここまでは、私に言われて、君には何も言ってこなかっただろう。弁明の機会すら、私は与えなかったのだ。
長い話にはなると思うが、向き合ってはくれないか。その上で、これは言っていいことではないかもしれないが、グリーフィルドとして、判断をしてほしい」
王太子がここに来たのは、王家としての決断である。グリーフィルドとマクドエルの決裂は、望むところではない。アランのマクドエルとしての力を利用しながらも、グリーフィルドも手放せない。そういう思惑が垣間見えた。
隣に座るアランに視線を向けると、彼の視線とかち合う。緩やかに目が細められて、小さく頷かれた。
ここまでアランは一切言葉を挟まなかった。どんな気持ちでこの話を聞いていただろう。それはきっとこれからの語らいの中で明らかにされると、その穏やかな笑顔にフェリアは信じることが出来た。
「一つの国を動かすのは、大変でございますね」
フェリアの答えは、王太子を微笑ませた。フェリアもグリーフィルドだ。教育は厳しかったが、フェリアの中にもしっかり貴族としての責務は刻まれている。
「理解してもらえたようだ。君もそのうち、国を動かす一人になる。学園にいる間は出来れば、楽しんで欲しいと思っているよ」
「ありがとうございます。デビュタントまでの間は学びの時間と心得ますわ」
フェリアの言葉を受けて、王太子が立ち上がる。
アランとフェリアは、立ち去る王太子の背中を礼を取って見送った。
フェリアは小さく呟いた。
「アランは、マクドエルの子だ。マクドエルは長年に渡り、王家の影を務めてきた。グリーフィルドが王家の財政を担うように、マクドエルも影を担う家。
アランも幼少期から影としての訓練を受けていた」
王太子の声は淡々と説明を続ける。
本来ならこのことはフェリアが侯爵を継いだ後に知らされる事柄であること、グリーフィルドにフェリアしか生まれず、婿を取ることになった際、王家を含む秘密を共有する貴族たちで、アランが婿として選定されたこと。
この婚約が壊れることは、国として混乱を招くため、フェリアにはことを明らかにすることが許され、王太子が説明をすることになったこと。
「アランには、学園に入ってから内偵を必要とする家の娘に近づいて、情報を引き出す役目を負ってもらっていた。その点では、フェリア嬢には申し訳なかったと思っている。
アランの意志ではない。全ては王家からの指示だったのだ。私には、王位を継ぐ前に実績が必要でね。自分の代になった時、排除しておきたい家が幾つかあったのだ。そのためにアランを利用した」
フェリアは薄々感じていたアランへの違和感を確かなものだったと理解した。
問題児ばかりを相手に選んでいたのも、アランの好みの問題ではなかった。王家から指示をされた相手に近づき、懐に入り情報を引き出す。それがアランの仕事だった。
「それをわたくしにお伝えになるのは、どういう目的がおありなのでしょうか」
「アランに猶予をやって欲しい」
「猶予、ですか?」
「そうだ。アランは今まで、君の前ではその片鱗は見せないようにしてきたはずだ。それは私の指示でもあったし、彼の意志でもあった。君に、この闇には触れさせない、それがアランがこの仕事を請け負う時に出した条件だったからね。
でも、今回、ヨーク子爵令嬢に近づいたとき、アランはその制約を破った。もともと、フェリア嬢が学園に入学し、アランが卒業するまでの一年は、仕事はしたくないというのがアランの希望だったが、それを私が押し切ってしまったからね。反抗されてしまったんだよ。
普段は見せない仕事の一片を、君の前でアランはわざと見せた。
君は当然、不快になるよね。そして、今までは噂では聞くのに、自分の前では完璧だった婚約者の違う行動に疑問を抱くよね。それがアランの目的だった。
小さな亀裂はやがて大きくなって、国を揺るがす。そうして、アランはこの婚約が破棄になることを望まない王家に、選択を迫ったんだ」
フェリアは小さく息を呑んだ。シルヴェスターの言うことが本当ならば、アランは王族に対し脅しに近いことをしたことになる。
「君をね、国は失うわけにはいかなかった。グリーフィルドの代わりはいない。
アランもそれは知っている。だからこそ、このままだとこの婚約が壊れる、と示して見せた。
アランはいずれはグリーフィルドに入る者。そこを理解して、早めに手を引いておけばよかったんだが、私は愚かだった。
アランの優秀さを、手放すことが出来なかった。アランの兄のヘンリーからは何度も、安易な方法を取るなと言われていたにもかかわらず、だ」
そういうとシルヴェスターは眉を下げて苦笑した。王太子はフェリアにとっては敬うべき王族であり、人としてというよりは、象徴として見ていた部分が強かった。
だから、そんな年相応の青年の顔をするシルヴェスターの貴重な姿を見て、フェリアは顔を綻ばせた。
「…… マクドエル伯爵令息の仕事を理解し、赦せとおっしゃるのですね」
「申し訳ない。私に免じて、赦してやって欲しい。そして、アランの言葉を聞いてやって欲しい。
ここまでは、私に言われて、君には何も言ってこなかっただろう。弁明の機会すら、私は与えなかったのだ。
長い話にはなると思うが、向き合ってはくれないか。その上で、これは言っていいことではないかもしれないが、グリーフィルドとして、判断をしてほしい」
王太子がここに来たのは、王家としての決断である。グリーフィルドとマクドエルの決裂は、望むところではない。アランのマクドエルとしての力を利用しながらも、グリーフィルドも手放せない。そういう思惑が垣間見えた。
隣に座るアランに視線を向けると、彼の視線とかち合う。緩やかに目が細められて、小さく頷かれた。
ここまでアランは一切言葉を挟まなかった。どんな気持ちでこの話を聞いていただろう。それはきっとこれからの語らいの中で明らかにされると、その穏やかな笑顔にフェリアは信じることが出来た。
「一つの国を動かすのは、大変でございますね」
フェリアの答えは、王太子を微笑ませた。フェリアもグリーフィルドだ。教育は厳しかったが、フェリアの中にもしっかり貴族としての責務は刻まれている。
「理解してもらえたようだ。君もそのうち、国を動かす一人になる。学園にいる間は出来れば、楽しんで欲しいと思っているよ」
「ありがとうございます。デビュタントまでの間は学びの時間と心得ますわ」
フェリアの言葉を受けて、王太子が立ち上がる。
アランとフェリアは、立ち去る王太子の背中を礼を取って見送った。
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