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不実な婚約者は【真実の愛】を謳う(※タイトル変更しました)
26.【真実の愛】騒動の教訓
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「なぜ我が婚約者が小説を読んだのかと確認した件ですが、それについては私からご説明しましょう」
アランはそういうと、フェリアの横にピタリと寄り添う。
その姿を見たデリツィア公女の顔が歪んだ。
ここでアランが現れるとは思っていなかったのか、後ろの二人も顔色を変えてデリツィアを見た。
「なぜ貴方がここにいるの。他の二人と一緒に教師に呼ばれたはずでしょう?」
「ああ、それならちゃんと終わらせてきましたよ。それに公女が私の婚約者に絡んでいると連絡があったので、何をおいても駆けつけなくてはならないでしょう?」
気付けば、フェリアとアランの少し後ろに、子爵令嬢がいる。公女についている世話係の一人である。もう一人の女生徒である伯爵令嬢はデリツィアと一緒にいたが、そういえば子爵令嬢の姿は見なかったとフェリアは気付く。おそらくアランに知らせに走ったのだろう。
「それより、公女は小説を読んだとおっしゃる。ではなぜ、この場で真実の愛などという単語を出されたのか。フェリアはそれを問うたのですよ。
初版の頃の古本を読んだのなら、理解できていないのも分かりますが、そうではないですよね?」
「わたくしが古本など、読むはずがないじゃないの! 自国で読んだのよ。もちろん新しいものをね!」
「でしたら、理解しておられないのはおかしいのではないですか。
ハイラントではこの本は問題作なのです。一時は差し止めになり、市場から撤収されるほどのね。それでも発売禁止にはならなかった。ハイラントでは、あの小説は【教本】として再刊されたのです。巻末に法律の解説を付けて」
ハイラント王国における【真実の愛】という言葉は、一冊の小説から発生し、学園を騒然とさせ、最後には法律にまでなった曰く付きの言葉である。
その影響力から、王国は一度その小説【或る愛の輝き】を禁止する方向で動いた。最初の装丁での本は、書店や図書館などから姿を消した。個人で所有するものに対する命令などは出なかったが、貴族を中心に自主的に廃棄したり、しかるべき機関へ返還したりしたものも多かった。
舞台も中止され、再演はされていない。
しかし、平民階級を中心に闇で取引されることが散見されたため、発売禁止措置ではなく、法律が制定されるに至った経緯と、法律の解説を付けた改訂版として再刊されたのである。
そして、初版の間はまだ他国では出版されていなかったため、もしこの小説を別の国が出版する場合には、ハイラント王国の許可を取ること、そしてその本には必ず、小説から起きた法律制定までの簡単な経緯と戒告を載せることを義務付けた。
なので、公女が自国で発刊されたこの小説を読んだのであれば、当然その戒告内容は知っているはずなのである。
「ハイラントでの【真実の愛】とは、決して綺麗な言葉ではないのです。耳当たりの良い名称を付けた、不貞の正当化でしかない、と受け取られるのです。
そして、それを盾に、婚約や婚姻の破棄を無理強いすることは、自ら平民に降りると宣言することと同義。
それを分かっていて、声高に言われているのか、とフェリアは問うているのですよ」
アランの静かな声が淡々と説明をする。周りには学園生たちが集まって来ていたが、誰一人声を発さない。吐息さえ大きく響きそうな静寂の中、アランは言葉を続ける。
「そして、小説の中の【真実の愛】とは抗えないほど惹かれ合い、間違いを犯した二人の話だ。創作物の中だから幸せそうに見せているだけ。現実の社会で起きたなら、それは決して幸せなどではないのです。少なくとも、このハイラントでは」
「…… わたくしはピエモンテの公女よ。ハイラントの法律はわたくしを裁けないわ。もちろん平民になどならないわ」
デリツィアは苦し紛れの言葉を紡いだ。形勢は圧倒的にアラン側に傾いている。
デリツィアは、アランと相愛だとフェリアに告げたが、今この場で対峙するアランからはその空気は感じられない。
「それはそうでしょう。ハイラントの法律はハイラントでしか通用しない。でも私はハイラント王国の人間なのです」
「なら! アランもピエモンテに来たらいいのよ。ずっとそう言っているじゃないの。
ピエモンテは恋愛を重んじる。愛があるから人を纏められる。そうして成り立つ国だわ。
貴方は、愛を求める人でしょう? だからその地味な婚約者を放置して、他に恋人をたくさん作ったんでしょう? でもその相手たちは誰もそこの婚約者に地位では敵わなかったから、アランは自由になれなかったのでしょう?
わたくしなら、貴方を自由にしてあげられる。貴方を婿の一人として愛してあげる。そして、貴方もわたくしを愛する女の一人として愛してくれればいいのよ」
デリツィア公女の言い分は、ハイラントで育ち、後継者教育を受けてきたフェリアには荒唐無稽な言葉にしか聞こえなかった。
そして、その言葉を聞いたアランが、隣で小さく口の端だけを歪めて笑うのが見えた。
そんなアランの空気を察して、フェリアはデリツィアへ言葉を返した。
「…… 小説の中の【真実の愛】はお互い唯一無二の存在で、離れられない存在同士という設定でしたわ。そして、王子の婚約者はある意味政治色の強い相手で、王子には愛はなかったと書かれております。相手の王女も、所有欲だけであり、愛と呼べるものではなかったと。その中で、王子が唯一を求める話であったのです。
それを、【真実の愛】というのですよ。
―― デリツィア公女、貴女には一体、いくつ真実の愛が存在するのでしょうか」
アランはそういうと、フェリアの横にピタリと寄り添う。
その姿を見たデリツィア公女の顔が歪んだ。
ここでアランが現れるとは思っていなかったのか、後ろの二人も顔色を変えてデリツィアを見た。
「なぜ貴方がここにいるの。他の二人と一緒に教師に呼ばれたはずでしょう?」
「ああ、それならちゃんと終わらせてきましたよ。それに公女が私の婚約者に絡んでいると連絡があったので、何をおいても駆けつけなくてはならないでしょう?」
気付けば、フェリアとアランの少し後ろに、子爵令嬢がいる。公女についている世話係の一人である。もう一人の女生徒である伯爵令嬢はデリツィアと一緒にいたが、そういえば子爵令嬢の姿は見なかったとフェリアは気付く。おそらくアランに知らせに走ったのだろう。
「それより、公女は小説を読んだとおっしゃる。ではなぜ、この場で真実の愛などという単語を出されたのか。フェリアはそれを問うたのですよ。
初版の頃の古本を読んだのなら、理解できていないのも分かりますが、そうではないですよね?」
「わたくしが古本など、読むはずがないじゃないの! 自国で読んだのよ。もちろん新しいものをね!」
「でしたら、理解しておられないのはおかしいのではないですか。
ハイラントではこの本は問題作なのです。一時は差し止めになり、市場から撤収されるほどのね。それでも発売禁止にはならなかった。ハイラントでは、あの小説は【教本】として再刊されたのです。巻末に法律の解説を付けて」
ハイラント王国における【真実の愛】という言葉は、一冊の小説から発生し、学園を騒然とさせ、最後には法律にまでなった曰く付きの言葉である。
その影響力から、王国は一度その小説【或る愛の輝き】を禁止する方向で動いた。最初の装丁での本は、書店や図書館などから姿を消した。個人で所有するものに対する命令などは出なかったが、貴族を中心に自主的に廃棄したり、しかるべき機関へ返還したりしたものも多かった。
舞台も中止され、再演はされていない。
しかし、平民階級を中心に闇で取引されることが散見されたため、発売禁止措置ではなく、法律が制定されるに至った経緯と、法律の解説を付けた改訂版として再刊されたのである。
そして、初版の間はまだ他国では出版されていなかったため、もしこの小説を別の国が出版する場合には、ハイラント王国の許可を取ること、そしてその本には必ず、小説から起きた法律制定までの簡単な経緯と戒告を載せることを義務付けた。
なので、公女が自国で発刊されたこの小説を読んだのであれば、当然その戒告内容は知っているはずなのである。
「ハイラントでの【真実の愛】とは、決して綺麗な言葉ではないのです。耳当たりの良い名称を付けた、不貞の正当化でしかない、と受け取られるのです。
そして、それを盾に、婚約や婚姻の破棄を無理強いすることは、自ら平民に降りると宣言することと同義。
それを分かっていて、声高に言われているのか、とフェリアは問うているのですよ」
アランの静かな声が淡々と説明をする。周りには学園生たちが集まって来ていたが、誰一人声を発さない。吐息さえ大きく響きそうな静寂の中、アランは言葉を続ける。
「そして、小説の中の【真実の愛】とは抗えないほど惹かれ合い、間違いを犯した二人の話だ。創作物の中だから幸せそうに見せているだけ。現実の社会で起きたなら、それは決して幸せなどではないのです。少なくとも、このハイラントでは」
「…… わたくしはピエモンテの公女よ。ハイラントの法律はわたくしを裁けないわ。もちろん平民になどならないわ」
デリツィアは苦し紛れの言葉を紡いだ。形勢は圧倒的にアラン側に傾いている。
デリツィアは、アランと相愛だとフェリアに告げたが、今この場で対峙するアランからはその空気は感じられない。
「それはそうでしょう。ハイラントの法律はハイラントでしか通用しない。でも私はハイラント王国の人間なのです」
「なら! アランもピエモンテに来たらいいのよ。ずっとそう言っているじゃないの。
ピエモンテは恋愛を重んじる。愛があるから人を纏められる。そうして成り立つ国だわ。
貴方は、愛を求める人でしょう? だからその地味な婚約者を放置して、他に恋人をたくさん作ったんでしょう? でもその相手たちは誰もそこの婚約者に地位では敵わなかったから、アランは自由になれなかったのでしょう?
わたくしなら、貴方を自由にしてあげられる。貴方を婿の一人として愛してあげる。そして、貴方もわたくしを愛する女の一人として愛してくれればいいのよ」
デリツィア公女の言い分は、ハイラントで育ち、後継者教育を受けてきたフェリアには荒唐無稽な言葉にしか聞こえなかった。
そして、その言葉を聞いたアランが、隣で小さく口の端だけを歪めて笑うのが見えた。
そんなアランの空気を察して、フェリアはデリツィアへ言葉を返した。
「…… 小説の中の【真実の愛】はお互い唯一無二の存在で、離れられない存在同士という設定でしたわ。そして、王子の婚約者はある意味政治色の強い相手で、王子には愛はなかったと書かれております。相手の王女も、所有欲だけであり、愛と呼べるものではなかったと。その中で、王子が唯一を求める話であったのです。
それを、【真実の愛】というのですよ。
―― デリツィア公女、貴女には一体、いくつ真実の愛が存在するのでしょうか」
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