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真実の愛とはいくつも存在するものなのか?
20.来訪者
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フェリアは父との話をした後、アランと話し合う機会を持てずにいた。
というのも、学園に隣国からの留学生が来たからで、そしてその相手役にアランが含まれているからである。
それも、留学生というのは、南に位置するピエモンテ公国のデリツィア公女殿下である。
ピエモンテ公国は、大公が治める国である。ピエモンテでは男女の差があまりなく、女性の地位も高いと言われている。女性が大公の地位に就くことも少なくない。
現在の大公であるガレッティ家の末の子であるデリツィア公女は、成人したのち、伴侶を迎えると同時に臣籍降下し、一代限りの公爵家を興すことになっている。
将来的には外交を担い、大公を支える立場となることから、その準備段階として学生のうちに他国へ短期での留学を希望したのだという。
実はこの公女、ひとつ前の留学先で騒動を起こした問題児であった。
相手役に選ばれたのはアランだけではない。婚約者のいる男性を含む5名でデリツィアが学園にいる3ヶ月の間相手をすることになっている。
そうしてやってきた公女様は、初日からアランを側付きに指名した。
それはもう、片時も離さないといった様子で、始終アランを侍らせている。この国で言えば王族にあたる大公の令嬢であるため、王城の一室に滞在しているのだが、そこから学園に通う送り迎えもアランにさせているほどである。
そうした事態になっているため、フェリアはアランと逢えずにいた。
胸に抱いた疑問も、結局のところ父との話では解決しなかったが、アランに直接そのことを聞くだけの勇気も持てず、言い出す機会を伺っているうちに公女が来てしまったのだ。
アランと同い年の公女は、最高学年に在籍している。
彼女の世話係は皆最高学年に属している。5人のうち2人は令嬢なのだが、デリツィアはその二人を快く思わず、3人の男子生徒で周りを固めている。
そんな場面をフェリアも廊下で見かけた。エスコートは常にアランである。
「フェリア様、あの軍団は見なくていいです」
隣を歩くアイリスが苦々しい表情で低い声を出した。
「まあ、公女様ですもの、仕方がないわね。アラン様もお断りできないのでしょう」
「だとしてもです。まるで恋人気取りです。あの公女サマにはあまりいい噂を聞きませんから、あんなのに捕まったらマクドエル伯爵令息も逃げられなくなるのではないでしょうか」
「分からないけれど、アラン様はお世話係に任命されたのだもの。役目は全うしなくてはならないわ」
フェリアの言葉に、アイリスは納得がいかないとばかりに頬を膨らませた。フェリアの側付きとしてフェリアの祖父が連れてきたのがアイリスだった。グリーフィルドの寄子貴族の子で、身体能力が優れていることが抜擢の理由であった。
アイリスのハーラー伯爵家は、武人を多く輩出している家であった。兄のいるアイリスは、小さなころから兄にくっついて鍛錬をしてきたために、護身術にたけている。祖父が彼女をフェリアの側に置いたのは、次期侯爵であるフェリアの身を守るためであった。
子供の頃から交流があったアイリスは、フェリアにとっては側付きというより、友人の枠に近い。アイリスは歯に衣を着せぬ物言いが気持ちよく、フェリアが心を許せる数少ない相手でもあった。
そんなアイリスは、前々からアランの在り様に苦言を呈してきた。不誠実な男にフェリアを任せられないと度々憤慨している姿を見ていたが、最近少し彼女の態度が変わってきている。
フェリアが何かに気付いたように、アイリスもアランの背後に朧気ながら何かあることを感じ取っているように思えた。
「でも、アイリスが言うのも分かるわ。相手は公国の姫君ですものね。こちらの国のほうが国力が大きいとはいえ、わたくしは侯爵家。公女様に敵う身分ではないから、もし公女様がアラン様を望まれたら、手放さなければならないかもしれないわね」
「そうならないためには、マクドエル伯爵令息が公女様に付け込まれないようにしてくださらなければならないんですよ。わかってるんですかね、あの婚約者サマは!」
「アイリス、声が大きくてよ。公女様の留学は短期と聞いたわ。3ヶ月の間でそう大きな事にはならないと思いたいけれど」
「…… フェリア様、あの公女様の噂はお聞きになりましたか? あの方、とんでもないお人ですよ?」
アイリスの話は、このハイラント王国に留学する前に、公女が起こした問題についてであった。
ピエモンテ公国は、周辺国の中では少し特殊な国である。
ある一定の権力のある者は、一夫多妻、一妻多夫は認められている。それは国の成り立ちにも関係している。
もともと、ひとつの家を祖に国が成った。その祖となる家は、一族が国を治め続けられるよう、ひとつの決まりを作る。大公家に連なる家の家長となる者は、伴侶を複数持っていいという決まりだ。
その決まりは今も生き続け、ピエモンテ公国を取り仕切る貴族の大半は、何某かガレッティ家に連なる者たちである。
実際には、多妻や多夫であるのは公家だけである。歴代の中には一夫一妻であった例もあるにはある。しかし、数は少ない。
そして、そんな君主の元だからか、それとも災害の少ない温暖な南の国だからか、恋愛に関してはかなり奔放な国民性でもあった。
そんな国で育ったデリツィア公女も、かなり奔放な女性であった。自国でも多くの男性と恋を謳歌し、すでに伴侶となる予定の者は二人いる。公女は『外交』と称し、他国の血も入れるべきとする現在の大公に倣って、他国へ側に侍らせる男を探しに積極的に外遊しているという。
そして、ひとつ前の留学先の国で、一人の令息を気に入り強引に連れ帰るため、すでに令息が結んでいた婚約を破談にしたという噂があったのだ。
というのも、学園に隣国からの留学生が来たからで、そしてその相手役にアランが含まれているからである。
それも、留学生というのは、南に位置するピエモンテ公国のデリツィア公女殿下である。
ピエモンテ公国は、大公が治める国である。ピエモンテでは男女の差があまりなく、女性の地位も高いと言われている。女性が大公の地位に就くことも少なくない。
現在の大公であるガレッティ家の末の子であるデリツィア公女は、成人したのち、伴侶を迎えると同時に臣籍降下し、一代限りの公爵家を興すことになっている。
将来的には外交を担い、大公を支える立場となることから、その準備段階として学生のうちに他国へ短期での留学を希望したのだという。
実はこの公女、ひとつ前の留学先で騒動を起こした問題児であった。
相手役に選ばれたのはアランだけではない。婚約者のいる男性を含む5名でデリツィアが学園にいる3ヶ月の間相手をすることになっている。
そうしてやってきた公女様は、初日からアランを側付きに指名した。
それはもう、片時も離さないといった様子で、始終アランを侍らせている。この国で言えば王族にあたる大公の令嬢であるため、王城の一室に滞在しているのだが、そこから学園に通う送り迎えもアランにさせているほどである。
そうした事態になっているため、フェリアはアランと逢えずにいた。
胸に抱いた疑問も、結局のところ父との話では解決しなかったが、アランに直接そのことを聞くだけの勇気も持てず、言い出す機会を伺っているうちに公女が来てしまったのだ。
アランと同い年の公女は、最高学年に在籍している。
彼女の世話係は皆最高学年に属している。5人のうち2人は令嬢なのだが、デリツィアはその二人を快く思わず、3人の男子生徒で周りを固めている。
そんな場面をフェリアも廊下で見かけた。エスコートは常にアランである。
「フェリア様、あの軍団は見なくていいです」
隣を歩くアイリスが苦々しい表情で低い声を出した。
「まあ、公女様ですもの、仕方がないわね。アラン様もお断りできないのでしょう」
「だとしてもです。まるで恋人気取りです。あの公女サマにはあまりいい噂を聞きませんから、あんなのに捕まったらマクドエル伯爵令息も逃げられなくなるのではないでしょうか」
「分からないけれど、アラン様はお世話係に任命されたのだもの。役目は全うしなくてはならないわ」
フェリアの言葉に、アイリスは納得がいかないとばかりに頬を膨らませた。フェリアの側付きとしてフェリアの祖父が連れてきたのがアイリスだった。グリーフィルドの寄子貴族の子で、身体能力が優れていることが抜擢の理由であった。
アイリスのハーラー伯爵家は、武人を多く輩出している家であった。兄のいるアイリスは、小さなころから兄にくっついて鍛錬をしてきたために、護身術にたけている。祖父が彼女をフェリアの側に置いたのは、次期侯爵であるフェリアの身を守るためであった。
子供の頃から交流があったアイリスは、フェリアにとっては側付きというより、友人の枠に近い。アイリスは歯に衣を着せぬ物言いが気持ちよく、フェリアが心を許せる数少ない相手でもあった。
そんなアイリスは、前々からアランの在り様に苦言を呈してきた。不誠実な男にフェリアを任せられないと度々憤慨している姿を見ていたが、最近少し彼女の態度が変わってきている。
フェリアが何かに気付いたように、アイリスもアランの背後に朧気ながら何かあることを感じ取っているように思えた。
「でも、アイリスが言うのも分かるわ。相手は公国の姫君ですものね。こちらの国のほうが国力が大きいとはいえ、わたくしは侯爵家。公女様に敵う身分ではないから、もし公女様がアラン様を望まれたら、手放さなければならないかもしれないわね」
「そうならないためには、マクドエル伯爵令息が公女様に付け込まれないようにしてくださらなければならないんですよ。わかってるんですかね、あの婚約者サマは!」
「アイリス、声が大きくてよ。公女様の留学は短期と聞いたわ。3ヶ月の間でそう大きな事にはならないと思いたいけれど」
「…… フェリア様、あの公女様の噂はお聞きになりましたか? あの方、とんでもないお人ですよ?」
アイリスの話は、このハイラント王国に留学する前に、公女が起こした問題についてであった。
ピエモンテ公国は、周辺国の中では少し特殊な国である。
ある一定の権力のある者は、一夫多妻、一妻多夫は認められている。それは国の成り立ちにも関係している。
もともと、ひとつの家を祖に国が成った。その祖となる家は、一族が国を治め続けられるよう、ひとつの決まりを作る。大公家に連なる家の家長となる者は、伴侶を複数持っていいという決まりだ。
その決まりは今も生き続け、ピエモンテ公国を取り仕切る貴族の大半は、何某かガレッティ家に連なる者たちである。
実際には、多妻や多夫であるのは公家だけである。歴代の中には一夫一妻であった例もあるにはある。しかし、数は少ない。
そして、そんな君主の元だからか、それとも災害の少ない温暖な南の国だからか、恋愛に関してはかなり奔放な国民性でもあった。
そんな国で育ったデリツィア公女も、かなり奔放な女性であった。自国でも多くの男性と恋を謳歌し、すでに伴侶となる予定の者は二人いる。公女は『外交』と称し、他国の血も入れるべきとする現在の大公に倣って、他国へ側に侍らせる男を探しに積極的に外遊しているという。
そして、ひとつ前の留学先の国で、一人の令息を気に入り強引に連れ帰るため、すでに令息が結んでいた婚約を破談にしたという噂があったのだ。
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