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真実の愛とはいくつも存在するものなのか?
19.婚約の裏側
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「お前のその覚悟は、教育の賜物であろうな。次期侯爵として、それはある意味正しい姿なのだろう。
しかし、フェリアはそれでいいのか」
父の声は静かだった。
フェリアは次期侯爵として育てられた。それは幼い子供の頃からで、自由に遊びまわるような幼少期は過ごしていない。求められたのは自分を律すること。常に俯瞰で相手を見ること。情報は一度取り込んで精査すること。そうして育てられたフェリアは、自身の感情すら制御するようになった。
父もきっと一緒であったろう。父も侯爵となるべく育てられた嫡男である。でも今は、一人娘に向ける憐憫が透けて見える。
「お父様、わたくしはこうして育てられたことを決して辛いなどとは思っておりません。アラン様のことに関しても、家のための婚姻と割り切っていたつもりでしたの」
「しかし、今回はそういう感情で居られなかったか?」
「…… 正直、自分でもよく分からないのです。今まではたぶん、アラン様に守られていたのでしょう。だって、アラン様のお相手からわたくしは疎まれる存在ですもの。これだけ問題のある方々であれば、何かしらわたくしに接触があったはずなのですわ」
「不自然であったと?」
「今回のデイジー様は、わざとわたくしにアラン様との仲を見せつけようとしましたし、何かと難癖をつけて来られましたわ。その行動はおそらくデイジー様が特別であったわけではないと思うのです。
自分と思い合うアラン様が、わたくしという決められた婚約者に縛られている。だから二人は幸せにはなれない。ならばわたくしを排除しようと考えるのは自然ですもの」
デイジーの行動は、貴族令嬢としては考えられないもではあるけれど、女性の真理としては素直であったと思う。デイジーにとってはフェリアさえいなければ、アランと一緒になれると信じていたのだろうし、アランはそう思わせる行動をしていたのだろうと思う。
これまでの相手も多少なりともそういう動きはあったのかもしれない。ただ、フェリアまで届かなかっただけなのではないか。フェリアはそう思っている。
「アラン様は、何か意図があって女性を側に置いておられるのでは、と思うようになったのです。でなければ、ここまでわたくしを守る必要もないでしょう? わたくしとの婚約は潰すつもりは彼にはないのです。おそらく」
でも今回のデイジーは違う。アランはきっと、抑えきれなかったのではない。わざとフェリアに接触させたように見えた。
そこにアランの本当の理由がある。フェリアはそれを父に確かめたかった。おそらく父は知っているのだ。最初の婚約を解消しようと動いたときに、そのことを父は知らされたに違いないのだ。
だから、フェリアに、辛くとも強くなれといったのだろうから。
「そうだな。アラン君は、お前との婚約を解消する気はないのだろう。でもそれは、私に確かめることではない。アラン君と話をすべきことじゃないのかな?」
「でも、お父様は知っておられますよね」
アランが何をしているのか。そしてそのことを決してフェリアに悟られまいとしてきたことを。にもかかわらず、今回はフェリアに何かを伝えようとしていることも。
「或る程度は情報として知ってはいる。だが、私から聞いたのでは、お前は納得しないと思うがな」
父の態度は、フェリアがアランと向き合うことを望んでいる。でもそれは、フェリアが一番怖がっていることでもあった。
アランは優しい。表面上、理想的な婚約者を演じてくれていると思う。そのアランの本音を、フェリアは聞くのが怖いのだ。
今のままでも、家族としてそれなりに折り合ってやっていけるのではないか。家族としての信頼だけで繋がっていけるのではないかと。
そこに、フェリアの恋情は必要ない。そのはずだった。
「…… フェリアは、アラン君と婚約を解消したいかい?」
父の問いに、フェリアはすぐには答えられなかった。
自分が、どうしたいのか。
自分にとって、結婚とは何なのか。
そして、自分にとって、アランとはどんな存在なのか。
家のための使命と割り切ることで、それらを考えることを拒否してきたのはフェリア自身である。
「何も知らずに、明らかにせずに、フェリアはアラン君と決別することを望むのかな?
フェリアがそれを望むなら、私も力を尽くそう。だが、本当にそれでいいのか?」
ローレンスはフェリアをじっと見つめた。それは父であり、現侯爵である彼が、フェリアと真正面から対峙している。
「……お父様、アラン様との婚約は、マクドエル側からの申し出と聞いておりました。本当は違うのではないですか」
「いや、それは間違いない。マクドエルからの縁談を我が家が受けた。受けたのは私の父だ」
「お祖父様が……」
「その頃の当主は父だった。マクドエルも、今の当主ではなく前当主が申し出た。双方に利があるのは、フェリアも知っての通りだ」
フェリアは、その言葉に今度はこちらから真っ直ぐ父を見据えた。フェリアの中の疑問は、それでは解決しない。きっと裏があると思っている。
アランとフェリアとの感情論での関係は、フェリアが解決すべき問題だろうと思う。だが、この婚約に付随する裏側は、密接に関係する重要な問題なのだ。
「…… まあ、私も後から知ったが、王家の介入も多少はあったようだ。フェリアが知りたいのはそこなんだろう?」
「はい。…… 想像でしかありませんけれど。そしてそれは外れていて欲しいと願ってもいますが。
…… アラン様の背後には、王太子殿下がおられるのでは、と危惧しています」
「ふむ。でも私からその点についてお前に話すことは何もない。持っていない情報は、開示できない。そして、憶測で語っていいことではない」
「あくまで、アラン様と話をせよとおっしゃるのですね」
「そういうことだな。この問題の鍵は、全て彼の手にある」
しかし、フェリアはそれでいいのか」
父の声は静かだった。
フェリアは次期侯爵として育てられた。それは幼い子供の頃からで、自由に遊びまわるような幼少期は過ごしていない。求められたのは自分を律すること。常に俯瞰で相手を見ること。情報は一度取り込んで精査すること。そうして育てられたフェリアは、自身の感情すら制御するようになった。
父もきっと一緒であったろう。父も侯爵となるべく育てられた嫡男である。でも今は、一人娘に向ける憐憫が透けて見える。
「お父様、わたくしはこうして育てられたことを決して辛いなどとは思っておりません。アラン様のことに関しても、家のための婚姻と割り切っていたつもりでしたの」
「しかし、今回はそういう感情で居られなかったか?」
「…… 正直、自分でもよく分からないのです。今まではたぶん、アラン様に守られていたのでしょう。だって、アラン様のお相手からわたくしは疎まれる存在ですもの。これだけ問題のある方々であれば、何かしらわたくしに接触があったはずなのですわ」
「不自然であったと?」
「今回のデイジー様は、わざとわたくしにアラン様との仲を見せつけようとしましたし、何かと難癖をつけて来られましたわ。その行動はおそらくデイジー様が特別であったわけではないと思うのです。
自分と思い合うアラン様が、わたくしという決められた婚約者に縛られている。だから二人は幸せにはなれない。ならばわたくしを排除しようと考えるのは自然ですもの」
デイジーの行動は、貴族令嬢としては考えられないもではあるけれど、女性の真理としては素直であったと思う。デイジーにとってはフェリアさえいなければ、アランと一緒になれると信じていたのだろうし、アランはそう思わせる行動をしていたのだろうと思う。
これまでの相手も多少なりともそういう動きはあったのかもしれない。ただ、フェリアまで届かなかっただけなのではないか。フェリアはそう思っている。
「アラン様は、何か意図があって女性を側に置いておられるのでは、と思うようになったのです。でなければ、ここまでわたくしを守る必要もないでしょう? わたくしとの婚約は潰すつもりは彼にはないのです。おそらく」
でも今回のデイジーは違う。アランはきっと、抑えきれなかったのではない。わざとフェリアに接触させたように見えた。
そこにアランの本当の理由がある。フェリアはそれを父に確かめたかった。おそらく父は知っているのだ。最初の婚約を解消しようと動いたときに、そのことを父は知らされたに違いないのだ。
だから、フェリアに、辛くとも強くなれといったのだろうから。
「そうだな。アラン君は、お前との婚約を解消する気はないのだろう。でもそれは、私に確かめることではない。アラン君と話をすべきことじゃないのかな?」
「でも、お父様は知っておられますよね」
アランが何をしているのか。そしてそのことを決してフェリアに悟られまいとしてきたことを。にもかかわらず、今回はフェリアに何かを伝えようとしていることも。
「或る程度は情報として知ってはいる。だが、私から聞いたのでは、お前は納得しないと思うがな」
父の態度は、フェリアがアランと向き合うことを望んでいる。でもそれは、フェリアが一番怖がっていることでもあった。
アランは優しい。表面上、理想的な婚約者を演じてくれていると思う。そのアランの本音を、フェリアは聞くのが怖いのだ。
今のままでも、家族としてそれなりに折り合ってやっていけるのではないか。家族としての信頼だけで繋がっていけるのではないかと。
そこに、フェリアの恋情は必要ない。そのはずだった。
「…… フェリアは、アラン君と婚約を解消したいかい?」
父の問いに、フェリアはすぐには答えられなかった。
自分が、どうしたいのか。
自分にとって、結婚とは何なのか。
そして、自分にとって、アランとはどんな存在なのか。
家のための使命と割り切ることで、それらを考えることを拒否してきたのはフェリア自身である。
「何も知らずに、明らかにせずに、フェリアはアラン君と決別することを望むのかな?
フェリアがそれを望むなら、私も力を尽くそう。だが、本当にそれでいいのか?」
ローレンスはフェリアをじっと見つめた。それは父であり、現侯爵である彼が、フェリアと真正面から対峙している。
「……お父様、アラン様との婚約は、マクドエル側からの申し出と聞いておりました。本当は違うのではないですか」
「いや、それは間違いない。マクドエルからの縁談を我が家が受けた。受けたのは私の父だ」
「お祖父様が……」
「その頃の当主は父だった。マクドエルも、今の当主ではなく前当主が申し出た。双方に利があるのは、フェリアも知っての通りだ」
フェリアは、その言葉に今度はこちらから真っ直ぐ父を見据えた。フェリアの中の疑問は、それでは解決しない。きっと裏があると思っている。
アランとフェリアとの感情論での関係は、フェリアが解決すべき問題だろうと思う。だが、この婚約に付随する裏側は、密接に関係する重要な問題なのだ。
「…… まあ、私も後から知ったが、王家の介入も多少はあったようだ。フェリアが知りたいのはそこなんだろう?」
「はい。…… 想像でしかありませんけれど。そしてそれは外れていて欲しいと願ってもいますが。
…… アラン様の背後には、王太子殿下がおられるのでは、と危惧しています」
「ふむ。でも私からその点についてお前に話すことは何もない。持っていない情報は、開示できない。そして、憶測で語っていいことではない」
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