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真実の愛とはいくつも存在するものなのか?
5.婿入りの条件
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アラン・マクドエルは、伯爵家の次男である。家は『商人上がり』と揶揄されるが、一族はその商売に長けた才能を誇りにしている。
叙爵を得てから、伯爵になるまでも決して楽に伸し上がったわけではない。各代に才能のある当主がいて、それを支える一族がいるから、今のマクドエルがあるのだ。
それを恥に思うことなどない。それは、アランも同じだ。自身がマクドエル家の血を引くことを決して劣っていると思ってなどいない。
しかし、世間はそうではない。
生粋の貴族など、そうたくさんいるわけではないのに、商人であることを貶めようとする家は今でも消えることはない。
アランの祖父である先代のマクドエル当主も歴代と同じく、権力に拘る人ではなかった。けれど、アランがまだ幼い時分に、侯爵家との縁談をこちら側から打診した。
そうした経緯から、商家と侮る他の貴族たちからは、『新興貴族の域を脱せないマクドエルが、グリーフィルドの威光を金で買おうとしている』と噂になっているが、実際はそうではない。
話は、マクドエル家が叙爵された時まで遡る。
叙爵された理由は、表向きは国内のみならず他国にまで商売を広げ、国に貢献している商家であることであったが、この家の真髄は商売ではない。
商売は表向きの家業であり、本筋は諜報活動である。
古くから王家に仕える影の家のひとつがマクドエルである。実際に王家が使う影には、3つの流派が存在するが、マクドエルを除く2派は家名を明らかにしていない。ちなみに、表に出て連絡役をしているのがマクドエル家だ。
その3派のうちのマクドエルだけが爵位を得ているのは、貴族の名を持ってしか入れない場所などに堂々と居場所を確保するためである。爵位自体はさほど必要としていないが、数代前の王のマクドエルに対する依存が進み過ぎてしまい、マクドエルは断るに断れなかったのだ。
そして、マクドエルが影であることを知っているのは王家と古くからある貴族3家の当主だけである。
1つは、王家傍流の公爵家。もう1つは、武を司り辺境を守る伯爵家。
そして最後が、財政を司るグリーフィルド侯爵家である。この3家は王家の子飼いで忠臣である。特に国の要の3家は、マクドエル家の裏の仕事と密接に関係するため、当主になった者にだけその役割が告げられるのだ。
そんな闇を仕切る一族に生まれたアランは、次男であったので、家を支えるために従属爵位である男爵位を継承する予定であった。
ここまでマクドエル家では嫡男が家を継ぎ、次男・三男などはスペアとして複数ある従属爵位のを継承したり、商会を興したりして家を支え、当主に何かあった時にはすぐ引き継げる様にしていた。
しかし、今回は少し事情が違った。
王家を支える意味で一蓮托生である高位の3家のうち、グリーフィルド家に第1子の女子の後、跡継ぎとなる男子が産まれなかった。この国では女子も爵位を引き継げるため、表向き家を存続させるのには問題がない。
ただ、財政を司るグリーフィルド家。ここまで血がなせる業なのか、必ず優秀な文官を輩出してきたのだ。ここ何代も、財政官の長はグリーフィルドの者が担ってきた。だからこそ、マクドエルの秘密を共有する家の一角に選ばれているのだ。
女侯爵でも問題はない。もちろん、財政の長も優秀であれば女でも問題はないであろう。しかし、女で家長となると子を産む必要性が生じる。その間不在となるのは国として問題があった。
そして、王家とマクドエルと3家の話し合いの末、選ばれたのがアランであった。
グリーフィルド家の次代を担う婿養子として。
アランが選ばれたのには理由があった。
一つは、グリーフィルドの一人娘であるフェリアと年がさほど離れていないこと。実は、アランの下にもう一人弟がいる。その弟はフェリアと同い年なのだが、アランが選ばれたのには、もう一つの理由がある。
その二つ目の理由は、アランの頭脳にあった。
マクドエルには総じて優秀なものが多いと言われるが、それは【諜報活動】に特化している。そんな中で、アランは少し特殊だった。
その才能は幼い頃から片鱗を見せていた。他の子供より早く言葉を覚え、さらにあっという間に算術も熟すようになる。そうした学術的な才能において、他のマクドエルの子供とは一線を画していた。
その上で、マクドエルの特徴も備えていた。感情のコントロールも教育課程において問題なく習得したし、齢6歳にして才能在りと評価されたのだ。
グリーフィルドの一人娘フェリアが6歳になったころ、話し合いに決着が着いた。
グリーフィルドに嫁いだ伯爵家を手放したくない王家と、グリーフィルドに課せられた役割を継げるであろうアランの存在が、後継者問題に終止符を打った形である。
そんな事情は、王家と3家当主とマクドエル家しか知らないことだ。
アランは、マクドエル家の人間であり、当事者でもあるため、フェリアとの婚約が決まった当初からこの事情については説明を受けていた。
グリーフィルドの婿になるということは、【財政の要】を担うこと・【王家を守る闇の秘密】を守ること。
アランには、グリーフィルドの仕事と、マクドエルの仕事の両方を担うことが課せられたのだ。
叙爵を得てから、伯爵になるまでも決して楽に伸し上がったわけではない。各代に才能のある当主がいて、それを支える一族がいるから、今のマクドエルがあるのだ。
それを恥に思うことなどない。それは、アランも同じだ。自身がマクドエル家の血を引くことを決して劣っていると思ってなどいない。
しかし、世間はそうではない。
生粋の貴族など、そうたくさんいるわけではないのに、商人であることを貶めようとする家は今でも消えることはない。
アランの祖父である先代のマクドエル当主も歴代と同じく、権力に拘る人ではなかった。けれど、アランがまだ幼い時分に、侯爵家との縁談をこちら側から打診した。
そうした経緯から、商家と侮る他の貴族たちからは、『新興貴族の域を脱せないマクドエルが、グリーフィルドの威光を金で買おうとしている』と噂になっているが、実際はそうではない。
話は、マクドエル家が叙爵された時まで遡る。
叙爵された理由は、表向きは国内のみならず他国にまで商売を広げ、国に貢献している商家であることであったが、この家の真髄は商売ではない。
商売は表向きの家業であり、本筋は諜報活動である。
古くから王家に仕える影の家のひとつがマクドエルである。実際に王家が使う影には、3つの流派が存在するが、マクドエルを除く2派は家名を明らかにしていない。ちなみに、表に出て連絡役をしているのがマクドエル家だ。
その3派のうちのマクドエルだけが爵位を得ているのは、貴族の名を持ってしか入れない場所などに堂々と居場所を確保するためである。爵位自体はさほど必要としていないが、数代前の王のマクドエルに対する依存が進み過ぎてしまい、マクドエルは断るに断れなかったのだ。
そして、マクドエルが影であることを知っているのは王家と古くからある貴族3家の当主だけである。
1つは、王家傍流の公爵家。もう1つは、武を司り辺境を守る伯爵家。
そして最後が、財政を司るグリーフィルド侯爵家である。この3家は王家の子飼いで忠臣である。特に国の要の3家は、マクドエル家の裏の仕事と密接に関係するため、当主になった者にだけその役割が告げられるのだ。
そんな闇を仕切る一族に生まれたアランは、次男であったので、家を支えるために従属爵位である男爵位を継承する予定であった。
ここまでマクドエル家では嫡男が家を継ぎ、次男・三男などはスペアとして複数ある従属爵位のを継承したり、商会を興したりして家を支え、当主に何かあった時にはすぐ引き継げる様にしていた。
しかし、今回は少し事情が違った。
王家を支える意味で一蓮托生である高位の3家のうち、グリーフィルド家に第1子の女子の後、跡継ぎとなる男子が産まれなかった。この国では女子も爵位を引き継げるため、表向き家を存続させるのには問題がない。
ただ、財政を司るグリーフィルド家。ここまで血がなせる業なのか、必ず優秀な文官を輩出してきたのだ。ここ何代も、財政官の長はグリーフィルドの者が担ってきた。だからこそ、マクドエルの秘密を共有する家の一角に選ばれているのだ。
女侯爵でも問題はない。もちろん、財政の長も優秀であれば女でも問題はないであろう。しかし、女で家長となると子を産む必要性が生じる。その間不在となるのは国として問題があった。
そして、王家とマクドエルと3家の話し合いの末、選ばれたのがアランであった。
グリーフィルド家の次代を担う婿養子として。
アランが選ばれたのには理由があった。
一つは、グリーフィルドの一人娘であるフェリアと年がさほど離れていないこと。実は、アランの下にもう一人弟がいる。その弟はフェリアと同い年なのだが、アランが選ばれたのには、もう一つの理由がある。
その二つ目の理由は、アランの頭脳にあった。
マクドエルには総じて優秀なものが多いと言われるが、それは【諜報活動】に特化している。そんな中で、アランは少し特殊だった。
その才能は幼い頃から片鱗を見せていた。他の子供より早く言葉を覚え、さらにあっという間に算術も熟すようになる。そうした学術的な才能において、他のマクドエルの子供とは一線を画していた。
その上で、マクドエルの特徴も備えていた。感情のコントロールも教育課程において問題なく習得したし、齢6歳にして才能在りと評価されたのだ。
グリーフィルドの一人娘フェリアが6歳になったころ、話し合いに決着が着いた。
グリーフィルドに嫁いだ伯爵家を手放したくない王家と、グリーフィルドに課せられた役割を継げるであろうアランの存在が、後継者問題に終止符を打った形である。
そんな事情は、王家と3家当主とマクドエル家しか知らないことだ。
アランは、マクドエル家の人間であり、当事者でもあるため、フェリアとの婚約が決まった当初からこの事情については説明を受けていた。
グリーフィルドの婿になるということは、【財政の要】を担うこと・【王家を守る闇の秘密】を守ること。
アランには、グリーフィルドの仕事と、マクドエルの仕事の両方を担うことが課せられたのだ。
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