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真実の愛がもたらしたもの【そもそもの始まり】
16.当事者たちの婚約事情
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ほどなくして、リオノーラの婚約が発表された。友好国の公爵家同士とあって、国同士の話し合いも設けられ、恙なく婚約は交わされた。
その直後に、シェリンガム侯爵家が、ペイン男爵家との縁付きをしたと噂になった。デビッドとエイミーが婚約したらしい。
噂でしか回らなかったのは、婚約のお披露目などが一切為されなかったからだ。
本来、貴族家同士の正式な婚約には、お披露目式であったり、婚約の知らせを送ったりと、何かしら形にするのがこの国の習わしだが、シェリンガム侯爵家はそれを行わなかった。
あの騒動以後、婚約を解消したデビッドは縁談をことごとく断られていた。エイミーとの婚約はシェリンガム侯爵家当主が認めず、リオノーラ以外の高位の女性との縁談を打診はしたが、どれも実を結ばなかった。
方々手を尽くしたが、もう打つ手がなくなったシェリンガム家は、リオノーラの婚約の発表を受けて、エイミーを公爵家の婚約者とすることに同意した。
デビッドは嫡男。ほかに男児はいない。学園での婚約破棄騒動の後、デビッドには大きなお咎めはなかった。後継から外すようにも言われなかったし、おそらく学園の中での出来事だったから、そう目溢しをしてもらえたのだろうと考えていた。
しかし、血は繋いでいかねばならない。デビッドがこのまま爵位を継ぐには伴侶が必要だった。
当のデビッドは、終始、真実の愛で結ばれたエイミー以外とは婚姻しない、と譲らない。適齢期の令嬢たちは、学園でのデビッドとエイミーを知っている者も多かったから、当然縁談の話には乗ってこない。最初から愛人がいる人物など、伴侶としては認められないと言われて断られた。
それこそ、下位貴族なら相手はいたのだろうが、それならばエイミーでも同じだとデビッドが主張し、当主はしぶしぶエイミーを認めた。
エイミーも同じようにお咎めはなかったことから、彼らと同年代の特に下位貴族の子女たちから絶大な支持を受けた二人なので、このまま侯爵夫妻として社交界に出ても、ある程度挽回できるのではと期待した部分もあった。
エイミーは、学園での振る舞いから、デビッドの婚約者となるために条件を付けられた。
侯爵家が用意した家庭教師による再教育だ。それはシェリンガム侯爵家が所有する別邸で行うこととし、ペイン男爵家からエイミーを婚約者として引き取った。
デビッドもエイミーも、一緒に居られると喜んだが、実のところはそうではない。別邸には侯爵家から使用人が遣わされ、特に、エイミーがほかの異性と接触しないよう、監視がつけられた。もちろん、托卵を防ぐためだ。
学園を卒業するまで、エイミーにはたくさんの取り巻きがいた。筆頭がデビッドではあったが、そのほかにも男子生徒は多く周りに存在した。
シェリンガム家は、婚約をしたとはいえ、彼女に貴族としての常識が身につくまで、他との接触を制限すべきとした。
ただ、デビッドとの婚約に、世間は受け入れる姿勢を見せたのか、大きな反発などはなかった。
一方、リオノーラの婚約には、若い子息たちを中心に、非難の声が出た。エイミーに対する謝罪がなかったことに加え、他国とはいえ高位の貴族に嫁ぐと決まったことで、やはり断罪は必要だったのではないかと噂が回った。
エイミーとデビッドの悲恋を擁護していた多くの学園生たちは、リオノーラのエイミーへしたとされる仕打ちを許したわけではなかった。あの場では、王太子が出てきたことでうやむやになっただけで、いつかはリオノーラが罪を償うべきという考えを捨てていないものもいた。
リオノーラが幸せになるなんて許せない。それもデビッドより条件のいい相手に嫁ぐなど。未だエイミーはデビッドとの仲を侯爵から許されていないのに、と。
しかし、その風潮も、デビッドとエイミーの婚約の噂が流れたことで少し沈着した。
ようやく二人が一緒になれる。小説で言えば、平民の少女が王子の妃として認められ祝福された場面を想起させた。
二人の恋愛が成就する様は、ほかの下位貴族の令嬢たちにも、高位貴族との婚姻を夢見させるのには十分だった。
家のために無理に結ばされた婚約は、破棄しても問題がない、愛がある二人が結ばれることこそ幸福だと思わせた。
小説や舞台の上の話ではなく、現実になったことで、特に学園での人間模様の様変わりは加速した。
リオノーラたちより下の世代は、どうやら婚約者の有無など関係なく、恋を謳歌する風潮になっているらしかった。
すでに婚約していた間柄では、その関係を解消されたり、親世代を巻き込んだ騒動になったりと、貴族社会に若干の波風を立てた。
リオノーラの一件で、父であるアストリッド公爵は、議会に一つの議案を提出した。
【真実の愛】と言葉にすれば美しいが、実のところただの不貞であることに対し、誠実さが掛けるとして、順当な手段を用いず婚約を解消する事例に対する処罰を制定するように要求するものであった。
それには、高位貴族の多くが署名をした嘆願書が添えられた。
学園での騒動から始まった一件は、こうして、議会の場に諮られることとなった。
_________________________
たくさんのいいね・お気に入りなどありがとうございます。
処女作にもかかわらず、多くの方に読んでいただき、大変ありがたく思っております。
まだ続きますので、よろしくお願いします。
その直後に、シェリンガム侯爵家が、ペイン男爵家との縁付きをしたと噂になった。デビッドとエイミーが婚約したらしい。
噂でしか回らなかったのは、婚約のお披露目などが一切為されなかったからだ。
本来、貴族家同士の正式な婚約には、お披露目式であったり、婚約の知らせを送ったりと、何かしら形にするのがこの国の習わしだが、シェリンガム侯爵家はそれを行わなかった。
あの騒動以後、婚約を解消したデビッドは縁談をことごとく断られていた。エイミーとの婚約はシェリンガム侯爵家当主が認めず、リオノーラ以外の高位の女性との縁談を打診はしたが、どれも実を結ばなかった。
方々手を尽くしたが、もう打つ手がなくなったシェリンガム家は、リオノーラの婚約の発表を受けて、エイミーを公爵家の婚約者とすることに同意した。
デビッドは嫡男。ほかに男児はいない。学園での婚約破棄騒動の後、デビッドには大きなお咎めはなかった。後継から外すようにも言われなかったし、おそらく学園の中での出来事だったから、そう目溢しをしてもらえたのだろうと考えていた。
しかし、血は繋いでいかねばならない。デビッドがこのまま爵位を継ぐには伴侶が必要だった。
当のデビッドは、終始、真実の愛で結ばれたエイミー以外とは婚姻しない、と譲らない。適齢期の令嬢たちは、学園でのデビッドとエイミーを知っている者も多かったから、当然縁談の話には乗ってこない。最初から愛人がいる人物など、伴侶としては認められないと言われて断られた。
それこそ、下位貴族なら相手はいたのだろうが、それならばエイミーでも同じだとデビッドが主張し、当主はしぶしぶエイミーを認めた。
エイミーも同じようにお咎めはなかったことから、彼らと同年代の特に下位貴族の子女たちから絶大な支持を受けた二人なので、このまま侯爵夫妻として社交界に出ても、ある程度挽回できるのではと期待した部分もあった。
エイミーは、学園での振る舞いから、デビッドの婚約者となるために条件を付けられた。
侯爵家が用意した家庭教師による再教育だ。それはシェリンガム侯爵家が所有する別邸で行うこととし、ペイン男爵家からエイミーを婚約者として引き取った。
デビッドもエイミーも、一緒に居られると喜んだが、実のところはそうではない。別邸には侯爵家から使用人が遣わされ、特に、エイミーがほかの異性と接触しないよう、監視がつけられた。もちろん、托卵を防ぐためだ。
学園を卒業するまで、エイミーにはたくさんの取り巻きがいた。筆頭がデビッドではあったが、そのほかにも男子生徒は多く周りに存在した。
シェリンガム家は、婚約をしたとはいえ、彼女に貴族としての常識が身につくまで、他との接触を制限すべきとした。
ただ、デビッドとの婚約に、世間は受け入れる姿勢を見せたのか、大きな反発などはなかった。
一方、リオノーラの婚約には、若い子息たちを中心に、非難の声が出た。エイミーに対する謝罪がなかったことに加え、他国とはいえ高位の貴族に嫁ぐと決まったことで、やはり断罪は必要だったのではないかと噂が回った。
エイミーとデビッドの悲恋を擁護していた多くの学園生たちは、リオノーラのエイミーへしたとされる仕打ちを許したわけではなかった。あの場では、王太子が出てきたことでうやむやになっただけで、いつかはリオノーラが罪を償うべきという考えを捨てていないものもいた。
リオノーラが幸せになるなんて許せない。それもデビッドより条件のいい相手に嫁ぐなど。未だエイミーはデビッドとの仲を侯爵から許されていないのに、と。
しかし、その風潮も、デビッドとエイミーの婚約の噂が流れたことで少し沈着した。
ようやく二人が一緒になれる。小説で言えば、平民の少女が王子の妃として認められ祝福された場面を想起させた。
二人の恋愛が成就する様は、ほかの下位貴族の令嬢たちにも、高位貴族との婚姻を夢見させるのには十分だった。
家のために無理に結ばされた婚約は、破棄しても問題がない、愛がある二人が結ばれることこそ幸福だと思わせた。
小説や舞台の上の話ではなく、現実になったことで、特に学園での人間模様の様変わりは加速した。
リオノーラたちより下の世代は、どうやら婚約者の有無など関係なく、恋を謳歌する風潮になっているらしかった。
すでに婚約していた間柄では、その関係を解消されたり、親世代を巻き込んだ騒動になったりと、貴族社会に若干の波風を立てた。
リオノーラの一件で、父であるアストリッド公爵は、議会に一つの議案を提出した。
【真実の愛】と言葉にすれば美しいが、実のところただの不貞であることに対し、誠実さが掛けるとして、順当な手段を用いず婚約を解消する事例に対する処罰を制定するように要求するものであった。
それには、高位貴族の多くが署名をした嘆願書が添えられた。
学園での騒動から始まった一件は、こうして、議会の場に諮られることとなった。
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