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真実の愛がもたらしたもの【そもそもの始まり】
11.【真実の愛】とは
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「その話、私が預かろう」
リオノーラが発した謝罪に対する拒絶を受けて、背後からそう声がかけられた。
その場にいた全員の視線が、その声の主に集まった。
来賓として参加していた第1王子。王太子殿下であった。
隣には妃殿下、後ろには、リオノーラの父であるアストリッド公爵が控えている。
「シェリンガム侯爵令息、君の意志は変わらないね?
アストリッド公爵令嬢との婚約は解消したいと?」
静かな次期為政者の声に、デビッドは一瞬ピクリと肩を震わせた。しかし、隣にいるエイミーが彼の腕に抱きつき、デビッドは意を決したように視線を王太子に合わせた。
「お言葉ですが、解消ではなく、破棄を希望しております。その女は、貴族の令嬢とも思えぬ非道な行いをしているのです。侯爵夫人などもっての外。
私との婚約は破棄とし、さらにこの事態を引き起こし、貴族令嬢を貶めた者として、厳罰を希望します」
「ふむ。しかしながら、リオノーラ嬢は罪を否認しているようだが?
確かに彼女は、2年間留学をしていたよ。それも国同士の取り決めによる交換留学生としてだ。
交換留学生には、それなりの規制があってね。王家に生活態度なども報告が上がっている。実に優秀な生徒だと報告されているよ」
「そんなものは、仮の姿です。真の姿は醜い嫉妬にかられた悪女なのですよ。
騙されてはいけません。私はそんな恐ろしい女との婚姻は望まない」
「なるほど。で、その隣の令嬢と、婚約をするつもりなのかな?」
王太子の視線は、ちらりともエイミーを捉えなかった。きっと名前を知っているであろうに、名すら呼ばない。視線はデビッドに固定したままだ。
デビッドは腕に絡むエイミーの指を撫でて、微笑んだ。
「そのつもりです。このペイン男爵令嬢は、心優しく、平等の精神を持つ素晴らしい女性なのです。その女と違い、男爵領地の領民にも慕われている。
わが侯爵家に嫁いでも、きっと領民も大切にし、繁栄に貢献してくれるものと確信しています。伴侶とするにこれ以上の女性はいません。何より、私のことを慕ってくれ、私も好ましく思っております。
王太子と王太子妃のように、思い合う関係を尊敬しておりますので、そう在れるのは、この彼女だけだと。
心の醜い、嫉妬から罪もない令嬢を陥れるような女は、私の隣に立つ価値はありません。
ペイン男爵令嬢との関係は、【真実の愛】なのです。私は、家のために決められた愛のない結婚は受け入れられない」
「なるほど。【真実の愛】、ね。君の意志は確認できたよ。
さて、リオノーラ嬢、この話、私に預けてはくれまいか。王家の絡むことだからね」
王太子の登場に、軽く頭を垂れていたリオノーラは視線を上げた。
目を合わせた王太子は、軽く微笑んでいる。その笑みの裏は読めない。そして、王太子の背後にいる父は、リオノーラに小さく頷いて見せた。
「かしこまりました。王太子殿下にお任せいたします」
リオノーラの言葉に、王太子殿下が鷹揚に頷いた。そして、周りの卒業生たちを見回して、軽く手を挙げた。
「この件に関してはこの場はこれで終わりとしよう。卒業後の祝賀会でする話ではなかったな。
皆、会を最後まで楽しんでくれ。学生時代とは今日でお別れだからな。
シェリンガム侯爵、アストリッド公爵、後日王宮に来てもらえるか。報せは出させる故」
デビッドの両親はこの茶番の間どこにも姿が見えなかった。
王太子の言葉の後、周りの人だかりを掻き分けて、ようやく姿を現したシェリンガム侯爵は、無言で王太子に一礼した。
その顔は蒼白で、息を切らしていた。この祝賀会には、来賓用に別室が設けられていて、大人たちはそちらで歓談していることが多い。おそらく知らされてやっと来た、というところだろう。
あの顔色からすると、デビッドからは婚約を破棄することなど聞いてはいなかったようだった。
王太子が出たことで、おそらくリオノーラを断罪しようと意気込んでいたであろう集団は、それ以上何かをすることができなくなった。デビッドはリオノーラを睨み付けていたし、周りの卒業生たちも剣呑な空気は崩していなかった。
「リオノーラ、これ以上ここにいてもいいことはない。辞そう」
王太子から離れてリオノーラの元へ来た父親が、リオノーラに手を差し出した。リオノーラはその手を取り、王太子に向かい、一礼した。
「王太子殿下、お手を煩わせて申し訳ございませんでした。無作法ではございますが、この場を辞したいと存じます。
お許し願えますか」
父の声に、王太子が手ぶりで許可を出した。
すると、すでにそれぞれの親が側に来た、パトリシア、ジェシカ、ミリーの3家も揃って、退場の意志を示し、王太子に挨拶をしていく。
ウォルジー侯爵家・キンバリー伯爵家・マキオン子爵家は、アストリッド公爵家に殉ずるとこの場で示したことになる。
他家がどう出るのかはわからないが、それまでエイミーの周りの集団が会場を支配しているような空気だったが、このことで流れが少し変わった。
騒ぎを聞きつけた大人たちが徐々に集まり始め、卒業生だけではなくなり、会場はざわついた。子供たちに何があったのか問う声や、アストリッド公爵家他三家の動きに倣って、この場をあとにしようとする家も出ていた。
舞台だった会場が、瓦解していく。その只中を、リオノーラは父に付き添われて会場を後にした。
リオノーラが発した謝罪に対する拒絶を受けて、背後からそう声がかけられた。
その場にいた全員の視線が、その声の主に集まった。
来賓として参加していた第1王子。王太子殿下であった。
隣には妃殿下、後ろには、リオノーラの父であるアストリッド公爵が控えている。
「シェリンガム侯爵令息、君の意志は変わらないね?
アストリッド公爵令嬢との婚約は解消したいと?」
静かな次期為政者の声に、デビッドは一瞬ピクリと肩を震わせた。しかし、隣にいるエイミーが彼の腕に抱きつき、デビッドは意を決したように視線を王太子に合わせた。
「お言葉ですが、解消ではなく、破棄を希望しております。その女は、貴族の令嬢とも思えぬ非道な行いをしているのです。侯爵夫人などもっての外。
私との婚約は破棄とし、さらにこの事態を引き起こし、貴族令嬢を貶めた者として、厳罰を希望します」
「ふむ。しかしながら、リオノーラ嬢は罪を否認しているようだが?
確かに彼女は、2年間留学をしていたよ。それも国同士の取り決めによる交換留学生としてだ。
交換留学生には、それなりの規制があってね。王家に生活態度なども報告が上がっている。実に優秀な生徒だと報告されているよ」
「そんなものは、仮の姿です。真の姿は醜い嫉妬にかられた悪女なのですよ。
騙されてはいけません。私はそんな恐ろしい女との婚姻は望まない」
「なるほど。で、その隣の令嬢と、婚約をするつもりなのかな?」
王太子の視線は、ちらりともエイミーを捉えなかった。きっと名前を知っているであろうに、名すら呼ばない。視線はデビッドに固定したままだ。
デビッドは腕に絡むエイミーの指を撫でて、微笑んだ。
「そのつもりです。このペイン男爵令嬢は、心優しく、平等の精神を持つ素晴らしい女性なのです。その女と違い、男爵領地の領民にも慕われている。
わが侯爵家に嫁いでも、きっと領民も大切にし、繁栄に貢献してくれるものと確信しています。伴侶とするにこれ以上の女性はいません。何より、私のことを慕ってくれ、私も好ましく思っております。
王太子と王太子妃のように、思い合う関係を尊敬しておりますので、そう在れるのは、この彼女だけだと。
心の醜い、嫉妬から罪もない令嬢を陥れるような女は、私の隣に立つ価値はありません。
ペイン男爵令嬢との関係は、【真実の愛】なのです。私は、家のために決められた愛のない結婚は受け入れられない」
「なるほど。【真実の愛】、ね。君の意志は確認できたよ。
さて、リオノーラ嬢、この話、私に預けてはくれまいか。王家の絡むことだからね」
王太子の登場に、軽く頭を垂れていたリオノーラは視線を上げた。
目を合わせた王太子は、軽く微笑んでいる。その笑みの裏は読めない。そして、王太子の背後にいる父は、リオノーラに小さく頷いて見せた。
「かしこまりました。王太子殿下にお任せいたします」
リオノーラの言葉に、王太子殿下が鷹揚に頷いた。そして、周りの卒業生たちを見回して、軽く手を挙げた。
「この件に関してはこの場はこれで終わりとしよう。卒業後の祝賀会でする話ではなかったな。
皆、会を最後まで楽しんでくれ。学生時代とは今日でお別れだからな。
シェリンガム侯爵、アストリッド公爵、後日王宮に来てもらえるか。報せは出させる故」
デビッドの両親はこの茶番の間どこにも姿が見えなかった。
王太子の言葉の後、周りの人だかりを掻き分けて、ようやく姿を現したシェリンガム侯爵は、無言で王太子に一礼した。
その顔は蒼白で、息を切らしていた。この祝賀会には、来賓用に別室が設けられていて、大人たちはそちらで歓談していることが多い。おそらく知らされてやっと来た、というところだろう。
あの顔色からすると、デビッドからは婚約を破棄することなど聞いてはいなかったようだった。
王太子が出たことで、おそらくリオノーラを断罪しようと意気込んでいたであろう集団は、それ以上何かをすることができなくなった。デビッドはリオノーラを睨み付けていたし、周りの卒業生たちも剣呑な空気は崩していなかった。
「リオノーラ、これ以上ここにいてもいいことはない。辞そう」
王太子から離れてリオノーラの元へ来た父親が、リオノーラに手を差し出した。リオノーラはその手を取り、王太子に向かい、一礼した。
「王太子殿下、お手を煩わせて申し訳ございませんでした。無作法ではございますが、この場を辞したいと存じます。
お許し願えますか」
父の声に、王太子が手ぶりで許可を出した。
すると、すでにそれぞれの親が側に来た、パトリシア、ジェシカ、ミリーの3家も揃って、退場の意志を示し、王太子に挨拶をしていく。
ウォルジー侯爵家・キンバリー伯爵家・マキオン子爵家は、アストリッド公爵家に殉ずるとこの場で示したことになる。
他家がどう出るのかはわからないが、それまでエイミーの周りの集団が会場を支配しているような空気だったが、このことで流れが少し変わった。
騒ぎを聞きつけた大人たちが徐々に集まり始め、卒業生だけではなくなり、会場はざわついた。子供たちに何があったのか問う声や、アストリッド公爵家他三家の動きに倣って、この場をあとにしようとする家も出ていた。
舞台だった会場が、瓦解していく。その只中を、リオノーラは父に付き添われて会場を後にした。
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