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真実の愛がもたらしたもの【そもそもの始まり】
閑話:おとぎ話のお姫様②
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エイミーが生まれてからしばらくは、エイミー一家は幸せな時を過ごした。時折来る父親も含め、明るい家族だったように思う。
しかし、数日滞在するだけでいなくなる父親の背中を見送る母は、どことなく寂しそうだったのをエイミーは幼いながらにも覚えている。
そんなことが続いて、エイミーの母親は次第に、エイミーに【おとぎ話のお姫様】の話を聞かせるようになった。
「お姫様はね、王子様に出逢うの。本当に素敵な王子様なのよ。優しくて、男らしくて」
「でもね、魔女がいるの。魔女はね、お姫様の邪魔ばかりするのよ」
「魔女はね、悪い人だから、幸せにはなれないのよ。魔女がいなくなれば、お姫様は王子様と幸せになれるの」
「そうよ、魔女さえいなければ、みんな幸せになれるわ。だからね、魔女はいなくなるのが当然なのよ」
寝物語に聞き続けたその話は、エイミーの根底に深く根付くことになる。
父からは、【お姫様】と呼ばれ、母からは、【おとぎ話】を聞かされ、幼いエイミーの中ではその二つが徐々に混ざりあっていく。
そう、【お姫様】なわたしは、【王子様と幸せになれる】と。
もし、【魔女】がいたならば、悪い人だからきっといなくなる。だって、悪い人はいたらいけないもの。
お姫様と王子様を邪魔する者は、みんないなくなればいい。
ううん、いなくなるのが当たり前なのよ。
12歳になったころ、エイミーは父に連れられて、男爵家の本邸を訪れた。
男爵の正妻は、婚姻前に夫に子ができたことは知らされていたし、エイミーの存在も認知していた。
半分は貴族の血が入った子供だ。誰かに誑かされ利用されることも考えられる。今のうちに貴族の子としての教育は必要ではないか。
妻からそう言われていた男爵は、小さいうちは可愛がって甘やかしていたが、徐々に成長し、天使のようと言われた妾に似てくると、確かに教育は必要かと考えたのだ。変な男に引っかかる前に、まともな男と娶せたい、出来れば貴族として嫁がせてやれたら、と思ったのだ。
教育は妻が担うと言ってくれた。もともと自分の不義理も、困ったような顔はするものの、容認してくれた心の広い女性だ。
別邸の費用も、家を取り仕切る彼女がきちんと采配してくれていた。
そして、エイミーを定期的に本邸に通わせ、貴族としての礼儀を身に着けさせることにしたのだ。
そうして連れてこられたエイミーは、本妻を見た時、直感で理解した。
―― この人がお母様が言っていた【魔女】だわ。
『お父様はね、魔女に捕まっているの』
母の言葉が聞こえた気がした。そう、【魔女】は父を捕まえているのだ。だからエイミーたちにところにずっといない。時々しか来られない。
魔女は悪い人だから、きっとそのうちいなくなるはず。
それからのエイミーは、時折本邸に招かれた。マナーの講師や読み書きなどの座学、貴族の子供が幼少期から受ける教育を受けるために。
エイミーよりも小さい弟たちがいることもわかって、一緒に勉強することもあった。
エイミーは父によく似た弟たちを可愛がった。
そして、母親から聞かされていたおとぎ話を何度も話して聞かせた。
「おはなしのおひめさま、おねえさまみたいだね」
弟たちがそう、エイミーに言う。
「ありがとう。でもね、魔女が邪魔するのよ。だからわたしはお姫様みたいに幸せにはなれないわ」
弟たちに悲しげにそういうと、二人はエイミーに寄り添って慰めてくれた。
そして、エイミーが14歳の時、正式に男爵家に引き取られることになった。
エイミー・ペイン男爵令嬢。それがエイミーの名前となった。
引き取られた男爵家には、【魔女】はもういなかった。
しかし、数日滞在するだけでいなくなる父親の背中を見送る母は、どことなく寂しそうだったのをエイミーは幼いながらにも覚えている。
そんなことが続いて、エイミーの母親は次第に、エイミーに【おとぎ話のお姫様】の話を聞かせるようになった。
「お姫様はね、王子様に出逢うの。本当に素敵な王子様なのよ。優しくて、男らしくて」
「でもね、魔女がいるの。魔女はね、お姫様の邪魔ばかりするのよ」
「魔女はね、悪い人だから、幸せにはなれないのよ。魔女がいなくなれば、お姫様は王子様と幸せになれるの」
「そうよ、魔女さえいなければ、みんな幸せになれるわ。だからね、魔女はいなくなるのが当然なのよ」
寝物語に聞き続けたその話は、エイミーの根底に深く根付くことになる。
父からは、【お姫様】と呼ばれ、母からは、【おとぎ話】を聞かされ、幼いエイミーの中ではその二つが徐々に混ざりあっていく。
そう、【お姫様】なわたしは、【王子様と幸せになれる】と。
もし、【魔女】がいたならば、悪い人だからきっといなくなる。だって、悪い人はいたらいけないもの。
お姫様と王子様を邪魔する者は、みんないなくなればいい。
ううん、いなくなるのが当たり前なのよ。
12歳になったころ、エイミーは父に連れられて、男爵家の本邸を訪れた。
男爵の正妻は、婚姻前に夫に子ができたことは知らされていたし、エイミーの存在も認知していた。
半分は貴族の血が入った子供だ。誰かに誑かされ利用されることも考えられる。今のうちに貴族の子としての教育は必要ではないか。
妻からそう言われていた男爵は、小さいうちは可愛がって甘やかしていたが、徐々に成長し、天使のようと言われた妾に似てくると、確かに教育は必要かと考えたのだ。変な男に引っかかる前に、まともな男と娶せたい、出来れば貴族として嫁がせてやれたら、と思ったのだ。
教育は妻が担うと言ってくれた。もともと自分の不義理も、困ったような顔はするものの、容認してくれた心の広い女性だ。
別邸の費用も、家を取り仕切る彼女がきちんと采配してくれていた。
そして、エイミーを定期的に本邸に通わせ、貴族としての礼儀を身に着けさせることにしたのだ。
そうして連れてこられたエイミーは、本妻を見た時、直感で理解した。
―― この人がお母様が言っていた【魔女】だわ。
『お父様はね、魔女に捕まっているの』
母の言葉が聞こえた気がした。そう、【魔女】は父を捕まえているのだ。だからエイミーたちにところにずっといない。時々しか来られない。
魔女は悪い人だから、きっとそのうちいなくなるはず。
それからのエイミーは、時折本邸に招かれた。マナーの講師や読み書きなどの座学、貴族の子供が幼少期から受ける教育を受けるために。
エイミーよりも小さい弟たちがいることもわかって、一緒に勉強することもあった。
エイミーは父によく似た弟たちを可愛がった。
そして、母親から聞かされていたおとぎ話を何度も話して聞かせた。
「おはなしのおひめさま、おねえさまみたいだね」
弟たちがそう、エイミーに言う。
「ありがとう。でもね、魔女が邪魔するのよ。だからわたしはお姫様みたいに幸せにはなれないわ」
弟たちに悲しげにそういうと、二人はエイミーに寄り添って慰めてくれた。
そして、エイミーが14歳の時、正式に男爵家に引き取られることになった。
エイミー・ペイン男爵令嬢。それがエイミーの名前となった。
引き取られた男爵家には、【魔女】はもういなかった。
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