きっと朝には・・・

ぷらむんぼ

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あたらしい朝

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うーん、眠い。
そう思いながら仕事をして、もう何時間たつのかと思いきや、まだ二時間も経っていない・・・苦痛だ。
どうして最近こんなにも眠いのか。
周りの奴らも、口を開けば「眠い」などと話をして・・・いったいどうなってるんだ!

前は、あんなにも活気のあった工場だったのに、今となっては工場長までガムを噛んでコーヒーを飲んでいる。
「それ、眠気覚ましになります?」
聞いたのは同僚の松下だ。
「ならんな。」
眠そうに答える工場長の顔が、もはや退屈そうに見えてきた。

「工場長~!」
向こうの方から、部署が違う田島の声が響く。
「なんでアイツあんなにも元気なんだ?」
気怠そうに松下が近づいてきて、ボソッと言う。
こっちまで眠くなるだろう!と言いたいところだが、すでに眠い。

田島が早歩きで工場長に何か聞きに行ったが、そんな事より気になるのは、田島の元気な姿に全員が圧倒されている、この異様な空気。なんだこれ。
まるで、住む世界が違うと思わされているような・・・そんな雰囲気。

『なんでアイツだけ・・・?』
きっと皆、そんな事を思っているに違いない。羨ましさが込み上げてくる。
「た~じ~ま~。お前なんでそんな元気なの~?最近なんか変じゃん?異様なほど眠いって皆がさ、言ってるじゃん?」
眠すぎて、言葉が変か?
「あれ?知らないんですか?眠くならないお茶」
眠くならないお茶?なんだそれ、うさんくさっ!
「どんなの?」
工場長⁉︎そんなのに手を出したら終わりですよ!気にはなりますけれども!
「どうせ苦いとかっしょ?」
松下、お前・・・気になってるんじゃないか!
「お茶ごときで、この眠気がおさまるとは思えないな~」
気にはなるけど!
「それが、一杯で眠気が吹っ飛ぶんですよ!みなさんも是非、試してみてください!スティックタイプなので、持ってきますね!」
みんながウダウダ言うなかで、田島の元気な声が通った。

 ーーーーーーーーー

そっか、眠いと体力も落ちるんだな。
走ってくる田島を見て、そんな事を考えていた。
「これですよ!これ!」
勢いよく出されたのは、スティックタイプのお茶だろうか・・・何の表記もない、銀色の包み。振るとシャラシャラと音がする。
「じゃ早速、飲んでみるかな」
工場長が封を切ると、湯呑みにサラサラと真っ白な粉が降る。
一瞬ゾッとしたが、眠くてそれどころじゃない。
「白いお茶か、なんて言う茶葉なんだ?」
工場長が湯を注ぎながら聞くも、田島の答えはパッとしないものだった。
「さ~ぁ?外の大箱にも、中の箱にも、このスティックにも、何も書かれていなかったので、分からないんです。」
首を傾げながら言って、サッと笑顔にもどる。
少し違和感を覚えた。コイツ、こんなに馬鹿だったか?
「ま、良いじゃないですか!これで眠気が吹っ飛ぶんですから!」
カツコツとスプーンで混ぜてはいるが・・・溶けてないな。
ズズッと一口。
「熱っ!粉っぽ!まっじーなコリャおい!」
ひどい言いようだ。
「マジっすか?眠いのはどうです?」
松下が聞くと、ハッと思い出したかのように「眠くない!」と、ビックリした工場長の顔は新鮮だ。
「本当ですか⁉︎」「一本貰って良いですか⁉︎」
お茶の取り合いが始まって、結局その場に居た全員に田島のお茶が配られた。
「また買わなくっちゃ!」
そうだよな、買ったんだよな・・・いったいどこで?何をキッカケに?どこから情報を得たんだ?
「たじま~?コレどこに売ってるの?」
スティックをフリフリしながら聞くと「専用のサイトを教えてもらったんですよ」と、携帯電話を取り出した。

 ~白いお茶が世界を救う!~
 ~寝なくてもいいんです!~

・・・なんじゃこりゃ?成分とかは何一つ書かれていない、怪しすぎる。
「カッコイイですよね!」
田島の目はキラキラしている。
「いゃ~?そ、そうだな」
サイトがどうであれ、眠気が少しでも楽になれば、よしとするか。
いや待て。どうなんだ?こんなにも怪しい物を、誰も何も言わずに飲んでいるが・・・本当にコレは、お茶なのか?
得体の知れない物を、自ら体内に取り込もうだなんて、正気か⁉︎
グルグル考えても無駄だ。眠くてしょうがない。考えれば考えるほど眠くなって、もう、ウトウトしてしまう。
もう良いじゃないか!眠くなくなれば、その後いくらでも考えられるじゃないか!

サラサラ・・・カツコツ・・・
ふ~、ふ~、ズズッ熱っ!うわ、マズっ!なんだこれ!
みんな湯呑み一杯は飲んでたけど、飲める気がしない!
あれ?ぽやーっと眠かったのが、そこまで眠くない。むしろ、いや、眠くない!これ・・・なんだこれ?なんなんだ⁉︎
あんなにも眠かったのに、一口で眠くなくなったぞ。恐ろしいわ!
皆みたいに全部は飲めないな。
「松下、これ飲む?」
貰ったのに残すのも気が引けて、近くにいた松下に差し出した。
「おう」
マジか。よく飲めるな。
「マズくないの?」
「マズイけど、なんかシャキッとするから良いかなって」
お前はシャキッとしたところで、あんまり変わらないけどな。いつも気怠げだろう。そこがお前の良い所だ。

みんな元気になって、仕事が効率よく進んだ!きっと明日も、気分よく仕事ができるに違いない。
これは良い朝をむかえられそうだ!
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