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~その後の出来事~

209 恭 ◇ Kyoh 双子のようなお客様

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……これが、お兄様が言っていた〝私〟なのね!

「ふふ。驚いちゃったわ」
私は、夢みたいな光景に嬉々として言いました。

「あ! クッキー!」
忘れるところだったわ。寝かせているクッキーの生地は、そろそろ良い頃合いの筈。
「ク…クッキー?」
突然、パン! とてのひらを打ち合わせた私に、もうひとりの〝恭ちゃん〟が毒気を抜かれたような顔をします。
「ふふ。どうぞお上がりください。 良いでしょう? だって貴女は、れっきとしたお客様だわ」
私は、せっかく来てくれたのだから!とお持て成ししたくて言うと、彼女は「変な子ね」と言いたそうに、思い切り眉をひそめ、口をへの字に曲げて、目を細める。
……あら。冷静クールに見えるけれど、こういう顔もするのね。
何だか、私と二人きりで居る時のお兄様に少し似ているかも知れません。
それに…その…自分でも少し変だと思うけれど、双子になったみたいで、何だか凄く嬉しくて。もし、彼女が危ない人だとしても、私は私だわ。こんな時に慢心は禁物かもしれないけれど、何か危険が及びそうな時は話せば、きっと解ってくれるわ。
そんな気がするの。

と、そこで〝私〟が痺れを切らしたように、強い口調で「ねえ」と私の事を呼ぶ。
「なあに?」と、私は出来るだけ柔らかく聞こえる声音を意識して返します。
「貴女…純粋ね」
……あら、嫌味っぽい。
でも私は言われた通りに返します。
「ふふっ。かもしれないわ」
すると案の定、一旦、彼女は唖然として、更に嫌悪感をあらわにする。
けれど、次の瞬間には、ふっと表情を緩めると「…ええ」と微笑んでくれました。
……今のは、多分、純粋に。

「あの…! もし宜しければ、お茶でもいかが?」
私は振り返って、お店にてのひらを向けました。
「……」

顔を戻した時には、もう彼女はどこにも居ませんでした。
本当に一瞬で。

……でもね。
「貴女とは、また会える気がするわ」
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