206 / 211
四章 まるで幻想物語
205 棕矢 ◆ Sohya 二年半後
しおりを挟む
XX27年に、私達がお狐さまと〝契約〟を交わし…あれから二年半。
一昨年と昨年の祈りの日は天気が良かったのだが、今年 XX30年 五月五日は、天気雨になった。A氏達工匠を含め、街の者たちは不安そうな顔をして、大木の周りにも人が数えるほどしか居ない。今までで一番、集まりが悪いかもしれない。
まあ…何も知らないのだから仕方がない。
「もう、終わったんだ」
*
「今年…雨だな」
劍が言うと、惺が遠くを眺めながら言う。
「うーん。つい先程、降ってきたばっかりなのに、もう向こうの空は明るいし、雲の流れも速いみたいだから…これじゃあ、少しだけ天気雨になりそうですね」
「ま、まだ判らないだろう? お前は気象予報士か?」
「あはは。いいえ、違います」
「きっと大丈夫よ」
アキラ達のやり取りを聞いていた恭が言うと、劍が少し不安そうな表情をしながらも頷いた。
「…うん」
「さあ。私は、そろそろ支度をして行くよ」
私が立ち上がると、皆もそれぞれ動き出す。
口ではあんな風に言いながらも、もう私達は〝起こらない〟という確信を持っていた。
……お狐さまを、信じているから。
それに今も、時々だが、私はお狐さまと会っているから尚更だ。
けれど…
私達の使命は、まだ始まったばかり。
雨や霧の日は、ルナのお狐さまが街にいらっしゃる時。
此方側の世界に雨が降れば、お狐さまは直ぐ近くで、わたし達を見ていらっしゃる。逆に、晴れている日には、そのとき雨降る地のお傍にいらっしゃる。
わたし達を、見守ってくださるのです。
それから、これは私達だけの大切な〝使命〟
〝お狐さま〟と〝表裏の私達〟は、この街を支えているのです。
表裏の私達だけが、お狐さまの望みを聞き、叶えられるから。
ふたつの世界の私達と、お狐さまは常に内密に協力しなければなりません。
そして、Nid=Argent・Renardの〝釣合〟を維持する為、決して〝中和〟と〝祈りの儀式と奉納品〟を絶やさないこと。
全ては〝この本〟にあります。〝この本〟を守り抜き、伝え続けなさい。
一昨年と昨年の祈りの日は天気が良かったのだが、今年 XX30年 五月五日は、天気雨になった。A氏達工匠を含め、街の者たちは不安そうな顔をして、大木の周りにも人が数えるほどしか居ない。今までで一番、集まりが悪いかもしれない。
まあ…何も知らないのだから仕方がない。
「もう、終わったんだ」
*
「今年…雨だな」
劍が言うと、惺が遠くを眺めながら言う。
「うーん。つい先程、降ってきたばっかりなのに、もう向こうの空は明るいし、雲の流れも速いみたいだから…これじゃあ、少しだけ天気雨になりそうですね」
「ま、まだ判らないだろう? お前は気象予報士か?」
「あはは。いいえ、違います」
「きっと大丈夫よ」
アキラ達のやり取りを聞いていた恭が言うと、劍が少し不安そうな表情をしながらも頷いた。
「…うん」
「さあ。私は、そろそろ支度をして行くよ」
私が立ち上がると、皆もそれぞれ動き出す。
口ではあんな風に言いながらも、もう私達は〝起こらない〟という確信を持っていた。
……お狐さまを、信じているから。
それに今も、時々だが、私はお狐さまと会っているから尚更だ。
けれど…
私達の使命は、まだ始まったばかり。
雨や霧の日は、ルナのお狐さまが街にいらっしゃる時。
此方側の世界に雨が降れば、お狐さまは直ぐ近くで、わたし達を見ていらっしゃる。逆に、晴れている日には、そのとき雨降る地のお傍にいらっしゃる。
わたし達を、見守ってくださるのです。
それから、これは私達だけの大切な〝使命〟
〝お狐さま〟と〝表裏の私達〟は、この街を支えているのです。
表裏の私達だけが、お狐さまの望みを聞き、叶えられるから。
ふたつの世界の私達と、お狐さまは常に内密に協力しなければなりません。
そして、Nid=Argent・Renardの〝釣合〟を維持する為、決して〝中和〟と〝祈りの儀式と奉納品〟を絶やさないこと。
全ては〝この本〟にあります。〝この本〟を守り抜き、伝え続けなさい。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
語りカフェ。人を引き寄せる特性を持つマスターの日常。~夜部~
すずなり。
ライト文芸
街中にある一軒のカフェ。
どこにでもありそうな外観のカフェは朝10時から昼3時までの営業だ。
五席しかない店内で軽食やコーヒーを楽しみに常連客が来るカフェだけど、マスターの気分で『夜』に店を開ける時がある。
そんな日は決まって新しいお客が店の扉を開けるのだ。
「いらっしゃいませ。お話、お聞きいたします。」
穏やか雰囲気のマスターが開く『カフェ~夜部~』。
今日はどんな話を持った人が来店するのか。
※お話は全て想像の世界です。(一部すずなり。の体験談含みます。)
※いつも通りコメントは受け付けられません。
※一話完結でいきたいと思います。

ご飯を食べて異世界に行こう
compo
ライト文芸
会社が潰れた…
僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。
僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。
異能を持って、旅する先は…。
「異世界」じゃないよ。
日本だよ。日本には変わりないよ。
愛に一番近い感情
小波ほたる
ライト文芸
脚本を仕事にする舞子は長く恋してきた同業の男性と今、両想いの関係にある。
はず。
なのに、自分たちの関係を進展させたいと一歩を踏み出した矢先に冷たく接されてしまった。
ショックを受けた舞子は彼と喧嘩をしたまま、ホンを手掛けた舞台作品の鑑賞に行き、そこで自分のことを気にかけるシルバーヘアの紳士と会う。
そのおじさまと話をするうちに、自分たちはお互いに似た不安や悔しさを抱えていることを察する舞子。静かな会話が終わる頃、「彼」との関係は……
相手を思うあまりに不器用になり、焦がれるあまりに切なくなる。
愛と、それに近い何かは痛いけど、そこには優しさも必ずある。
第7回「ほっこり・じんわり大賞」エントリー作品。
7/1-7/10 までは朝と夕方の7時の一日二回、7/11-7/30までは朝7時の一日一回更新、7/30に完結します。
読んだあとはきっと、じんわり心が温かくなってます。
気に入ってくださった方は、ぜひとも投票をお願いします!
Credits:
表紙は「かんたん表紙メーカー」
https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる